第四階層へ行こう
熱石は石を打ち鳴らすと熱を発する。
火赤草は条件を満たすことで発火する。
どっちも取り扱い方に注意が必要な危険なアイテムだ。
「どうやって持ち運びすればいいんだ?」
ダンジョンにもぐる前の段階になって俺はネディスに聞いた。
扱い方を間違えれば、持ち運びしている最中に発火しそうだからだ。
「熱石は布か何かでくるめばいい。石同士が何度も打ち合わさらないかぎり発熱しないから」
「火赤草は普通にアイテム袋に入れて持ち運びすれば大丈夫ですよ。まあ火赤草だけ入れるようにしたほうが無難ですけど」
ネディスとポリーヌが回答してくれる。
「そうか。じゃあポリーヌには火赤草を入れて運ぶ係を頼もう。ネディスは熱石を包める布を探してくれ」
「了解」
リーダーらしく指示を出せたと少しホッとした。
けっこう気を遣うんだよなあ。
下の階層に行くためには人数を増やすことも考えなきゃいけないんだが……少しずつ慣れていくしかないだろう。
下に行かないという選択肢は今の俺にはありえないのだから。
「ところで指示を出しておいてなんだけど、布ってどこで調達するんだ?」
「実はアイテム袋に持ってきてある」
俺の疑問にネディスはにやりと笑い、アイテム袋を取り出して見せる。
「こいつだけは無事で助かったぜ。下手な装備よりも高いからな」
それは不幸中の幸いだったなと思ったが言わなかった。
「そうか。ネディスは依頼を受けた時点で準備していたのか。知識や経験の差だな」
俺なんてまだまだだと思う。
「協会の前に集まった時点で聞いてくれりゃ、そこで教えたからな。ロイの反省点はそこだな」
ネディスの指摘にこくりとうなずく。
「そうだな。今後は気をつけよう」
過ちは気づき次第修正していけばいいのだ。
そのほうが覚えやすい。
わざと先回りして教えてくれなかったネディスの狙いもそこにあるだろう。
「ポリーヌも知っていた?」
「ロイさんが知らないとは思っていませんでした」
ポリーヌは困ったように、申し訳なさそうに答える。
「よし、知らないことはどんどん聞いていこう」
俺がおどけて言うと、二人はそれがいいと賛成してくれた。
「……知識で言えばロイはたしかに新人だな」
ネディスはそう小声で言う。
しつこい気もするが、それだけ衝撃が大きかったのかな。
俺たちは改めて第四階層を目指して出発する。
「他にも素材は採らなくていいのかな? 行きがけの駄賃に」
第一階層に入った段階でネディスにたずねた。
「それをやると、いざ目的の素材が入らなかったり、帰りにいい素材が手に入った時に困るんだ。だからまずは目標達成を優先し、いい素材以外は無視する。素材採取は帰り道、余裕がある範囲でやればいいのさ」
「なるほど、合理的だな」
ネディスの返事に納得する。
「人数が増えれば行きの素材回収担当、帰りの素材回収担当というように役割分担もできるが、三人だと厳しいな。五人は欲しいところだ」
さらに現実的な説明が追加された。
分かりやすくてありがたいかぎりだ。
「目標はあと二人か。上手く見つかればいいけど」
「人数がいても意味はない。お前ら、特にロイと上手くやれるかが重要だ」
ネディスはそう言う。
「ポリーヌやネディスと上手くやれなくても困るわけだが、まあ俺との相性が一番大切なんだと解釈しておくよ」
「うんまあそれでいい。俺はたぶん臨時パーティーになるだろう。第十階層までならともかく、それよりも下に行きたいなら俺よりも優秀なローグを探したほうが絶対いいぞ」
そういうもんなのかな。
ただまあローグの実力は迷宮での生存率に直結する。
真摯に受け止めておこう。
罠に気づかなかったので全滅しましたなんて笑えないからな。
「それはいいんだけど、優秀なローグと組むためにはどうすればいい? 今のところ誰も相手にされないと思うんだが」
実力者はやはり実力者と組んでいる。
そのパーティーとは合わなかっただけで実力も性格も申し分ない人なんて、そう都合よく見つかるものなんだろうか?
話しているうちに俺たちは第三階層に到達する。
今のところ危険なんて何もない。
安定したパーティーだと思う。
「裏技的なやり方だが、協会長に頼んでみるという手がある」
ネディスは俺の問いにそう答えたくれた。
「あのやりとりを思い返すかぎり、協会長やその護衛たちにお前は期待の大型新人と認められた節がある。頼めば紹介してもらえる可能性は高いぞ」
「……その発想はなかったな」
俺が目を丸くしてつぶやくと、ポリーヌが相槌を打つ。
「同感です。そんな手もあるのですね」
彼女もさすがにそこまでは分からなかったようだ。
「まあ特別に肩入れしたいと思わせる何かを見せないと、ダメだけどな。建前上はえこひいきなしになっているわけで」
その禁を破るだけの価値を見せろってわけか。
できるか分からないけど、今のままじゃやることを考えておかないと。
……まだ数日だからかもしれないが、他のバスターパーティーと仲良くなれる気配がないもんな。




