堅実にそして早めに
新しい宿は<芽吹きの季節>と比べて内装はやや上等で、カギつき金庫もある。
部屋の広さはそんなに変わらないが、ベッドの質も多少よくなっているようだ。
もっとグレードが上の宿屋はどんな設備なんだろう。
そう思いつつ俺は今後のことをあれこれ考える。
ネティスが入ったことで懸念だったローグは解消されたとみていい。
次は壁と火力は俺一人でやれるが、できればもう一人いたほうが安心かな。
俺一人じゃネティスとポリーヌの二人をかばいきれるとはかぎらないのだ。
二人が襲われる前に倒してしまえる敵ばかりだったらいいのだが、そんなわけにはいかないだろうし。
夕飯はポリーヌとばらばらに食べ、風呂に入って眠る。
宿屋に風呂があるっていうのはかなりありがたい。
次の日、ポリーヌと一緒に朝ごはんを食べているとネティスがやってくる。
「一緒に食べるか?」
「いや、食べてきた。終わったらすまないが外に来てくれないか。これからの話をしたい」
「了解」
俺たちはほぼ食べ終えていたので、お茶を飲んでネティスを追って宿の外に出た。
「どんな依頼を受けるかとか、連携をどうするかとかか?」
俺の問いにネティスは視線を向けてくる。
「連携は無理にとろうとしなくていいだろう。息の合った連携は実力以上の成果をもたらしてくれるが、実力差が大きい場合は枷になってしまうリスクがある」
そういうものかな。
たしかにポリーヌと呼吸を合わせるのは苦労したが、そういうものだと思っていた。
「ただ、お互いのスタイルは把握しておいたほうがいい。一階層や二階層でやってみよう」
「うん。それで?」
ネティスが言いたいことは何なのかうながしてみる。
「どんな依頼を受けていくかだな。方針は聞いておきたい。助言ができるならさせてもらえればと思っている」
ネティスって謙虚だよな。
戦闘力は俺のほうがうえと言ってもバスターとしての先輩だし、知識も経験も頼りにしたいんだが。
「知識や経験をアテにさせてもらうよ、先輩」
「お、おう」
ネティスはなぜか驚いている。
「ロイさんはこういう方ですから、早いうちに慣れたほうがいいですよ」
ポリーヌが何やら面白そうに笑い、ネティスに助言していた。
「そうだったな」
ネティスは反省するように目をつぶる。
「今のところ採取系依頼をこなしてみたいと思っている。いろんな魔物と戦えってほうは、たくさん依頼をこなしていればそのうち満たせるんじゃないかな。ネティスはどうだ?」
「そうか。意外と堅実だが、ロイの性格ならありえるか」
ネティスはホッとしているのに対し、ポリーヌは微笑していた。
二人の反応の差は俺という人間を理解しているかどうかの差って認識でよさそうだ。
早く昇級したいという気持ちがないと言えばうそになるけど、待たせているベレンガリア様を泣かせるわけにはいかないんだよ。
「採取の知識でしたら、私が多少お役に立てると思いますよ」
ポリーヌがそう口をはさんでくる。
ヒーラーなら薬草や独走にくわしくても何の不思議もない。
「へえ、じゃあ頼りにさせてもらうよ」
遠慮なく言うとネティスが笑う。
「俺らこそ、いざって時はロイが頼りなんだぜ」
「それは任せてくれ。ジェヴォーダンくらいなら何とでもなる」
もっと強くても大丈夫だろうが、安請け合いはやめておこう。
「ははは、そりゃ心強い」
「バスターだと結局武力頼みになりがちですしね」
ネティスとポリーヌが笑う。
「俺としては堅実に、それで迅速にといきたいんだけど、それでいいか?」
「堅実が最優先なら異論はない」
「同感ですね。昇級が早いほうが長い目でお得なのも事実ですから」
ネティスもポリーヌも俺の意向に賛成してくれたので、俺たちの方針は固まった。
「じゃあ今日はお互いのスタイルの確認って感じで、一階層に行ってみよう。依頼は明日でもいいよな」
「おう」
「はい」
俺たちはうなずきあい、軽い気持ちで迷宮へと向かう。




