拠点と装備の変更
「お前ら宿屋はどこだ? <芽吹きの季節>か?」
「そうだよ」
ネティスの問いに俺が答える。
初心者はみんな<芽吹きの季節>という常識でもあるのだろう。
「昇格した以上は引っ越したほうがいいだろうな」
それからネティスは俺たちの装備を見た。
「あと、装備の変更も検討したほうがいい」
まだ三日だけど仕方ないか。
先輩バスターの助言だ、ありがたく受け取ろう。
「この装備だと十階層までは無理かな?」
一応聞いてみると、ネティスに苦笑された。
「ロイなら行けるかもしれないが、ポリーヌは無理だろ。あと、等級に合った装備を作ったほうがトラブル予防になる」
そういうものなのかな。
まあ一回宿で絡まれて、こっちの世界でもそういう手合いがいるのだと学んだが。
「ロイさんが一緒ならだいたい大丈夫ですけど、さすがに湯浴みと寝床までは無理ですからね」
「違いない」
微笑を浮かべるポリーヌに微笑を返す。
ポリーヌが男だったら話は別だが、彼女は妙齢の女の子だ。
彼女に恋人でもいればまた変わってくる。
言われた通り俺たちは<芽吹きの季節>に行き、チェックアウトをした。
「ところでおススメ宿屋を知らないか?」
「山級なら<湖の月>がいいぞ。少し値段は高いが防犯設備がしっかりしているし、湯浴み施設もある。一階は酒場で交流の幅を広げるのもいい」
防犯設備がしっかりしているのは大事だな。
俺がそう思っているとポリーヌがうれしそうに言う。
「湯浴み施設がついているなんて、素晴らしいですね」
彼女も女の子なんだな。
こっちの世界の人たちは、女の子は日本人並みに入浴が好きっぽい。
男のほうはわりといい加減なのが少し困るが。
「じゃあそこにしよう」
「さっそく行こうぜ。けっこう人気の施設だからな。部屋があいているとはかぎらない」
ネティスに言われて<湖の月>に足を運ぶ。
場所は<芽吹きの季節>とけっこう離れた、街の中心近くにある。
「おや、ネティスじゃないか」
かっぷくのいいおかみさんはネティスを見て目を丸くした。
「あんた一人かい? そっちの二人は?」
彼女はどうやらまだ知らないらしいと察する。
ネティスは目を伏せて言った。
「生き残ったのは俺だけなんだ」
「……そうかい」
おかみさんもそれで分かったらしい。
バスターをやっている者と、それを見守る者の関係だった。
「それよりこの二人の部屋はあいているかい?」
「ああ、ちょうど二部屋あいているよ」
運がよかったのかな、これ。
ネティスのパーティーが壊滅したのをおかみさんは知らなかったんだから、偶然でいいのか。
泊まる手続きをして俺たちは武器屋に向かう。
中心地のほうがいい装備を扱っているらしい。
「その分値段は高くなるけどな。ロイの装備がよくなるのは、俺たちにとっても重要だ」
「ポリーヌの装備もよくなったほうがいいと思うよ」
俺がいないと強敵に勝ち目はないかもしれないが、腕利きヒーラーがいないと生存率が下がるからな。
「ははは、そうだな」
ネティスは失敗したと言うより、俺の意見を受け流したようにも見える。
アタッカーが重要な状況、俺が思っているよりも多いのか?
「ああ、ここだ」
ネティスに案内されて武器屋の中に入る。
「ネティス!」
とたん、若い女性が大きな声を出す。
「ローザ、ただいま」
ネティスは彼女にそう言った。
「よかった。無事だったの。三日も戻らないから心配していたのよ」
二人はどうもただの知り合いという関係ではなさそうである。
俺たちをここに連れてきたのはいい店を紹介する以外にも目的がありそうだなと直感した。
「ああ……そのことで話があるんだ。それはそれとして、この二人の装備を見つくろってほしいんだが」
ネティスの言葉でようやく女性は俺とポリーヌを視界に入れる。
「あら、この二人は?」
「俺の恩人なんだよ」
「そう、そういうことなら、精いっぱい頑張らせてもらわなきゃ」
女性は俺たちに笑顔を見せた。
「ここは<栄光の入り口>亭よ。超一流の装備は残念ながらないけど、雲級を目指す人にはうってつけの装備を用意させてもらうわ」
正直な営業トークには好感が持てる。
ネティスともただならぬ仲みたいだし、ここで買うとしよう。




