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誰でも最初は無名

 建物の最上階に協会長の部屋があり、そこに四十歳くらいの男性と三十代の男性、さらに二十代の女性がいた。

 なかなか立派そうな黒色の椅子に座っているのが四十歳くらいの銀髪の眼光が鋭い男で、おそらくこれが協会長だろう。


「協会長、お連れしました」


 ペネロペさんがそう声をかけると、三対の視線がまずネティスに、次に俺たちをながめる。

 値踏みすると言うよりは検品する調査員みたいと言ったほうがしっくりくる目つきだった。


「ジェヴォーダンが出て、君たちが討伐したということだが?」


「はい。おそらくフェロスモードだったと思います。三つの瞳がすべて赤くなったジェヴォーダンなんて、今まで見たことがありませんでしたから」


 ネティスの報告に協会長はうなずく。


「フェロスモードのジェヴォーダンが山級バスターたちを蹴散らしたというのは納得できる」


 協会長はそう言うと、俺たちに視線を向けた。

 そこでポリーヌがアイテム袋からジェヴォーダンの首を取り出して見せる。


「うむ。疑っているわけではない。というか、この目で見て理解したというべきか」


 協会長はじっと俺を見ながら椅子にもたれかかった。

 きしむ音がしないのは高級品だからだろうか。


「たしかに」


 男女二人は俺を見ながらうなずいている。

 立ち振る舞いに隙らしい隙がなく、相当強そうだ。

 もしかして有名なバスターで協会長の護衛をやっているんだろうか。


「無名バスターが運よく倒せたというわけじゃなさそうだ」


「誰でも最初は無名だものね。運がよかったのは彼に助けてもらったという人のほうね」


 見ただけで納得されるのも奇妙な気分だが、疑われて力を見せてみろと絡まれるよりはマシか。


「まったくです。このロイが通りかかってくれたのは運がよかったです」


「俺一人じゃ死んでましたよ。あなたの治療したのはポリーヌです」


 ネティスまでそう言うので、ポリーヌのことを忘れるなと忠告する。

 攻撃魔法に関してはかなり会得できたと思うが、治癒魔法はさっぱりだったからな。

 彼女がいなければジェヴォーダンを倒すことはできても、死にかけていたネティスを助けるのは不可能だった。


「もちろん忘れていないさ」


 ネティスがあわてるとポリーヌがクスリと笑う。

 本人はあまり気にしていないようだった。


「<アンビシオン>の功績を認め、君たちを山級へと昇格させる。君たちが持ち帰った素材は買い取らせてもらうが、それとは別に報酬を用意する。一人二千万ゼルクだ」


 高いのか安いのかわからないが昇格ができたのはうれしい。

 森級をすっ飛ばせるとは思わなかったが。


「山級ですか? 彼らの強さ的には最低でも雲級はあると思うのですが」


 ネティスがちょっと不満そうに協会長に聞く。

 協会長はうなずいて答える。


「雲級となればそれなりに求められるものが増えてくる。いくら強くても迷宮にもぐりはじめて三日もたっていない新人を昇格させるわけにはいかない。経験を積むか、特例を認めるしかないほどの手柄をあげるかすれば別だが」


 フェロスモードのジェヴォーダンを倒した程度じゃ認められないということなのだろう。

 ベレンガリア様を待たせている手前、簡単に昇格できるのはつまらないなんてカッコつけたことを言う余裕はない。

 

「どれくらいの経験を積めばいいのでしょう?」


 具体的な条件を教えてもらえればと思い、質問してみる。


「第十階層に到達すること。ジェヴォーダン並みの魔物を最低三種類、十頭以上倒すこと。納品系依頼を五種類以上、三十回以上達成すること。だいたいこれくらいが目安だな。強いだけではなく、素材などの知識も必要になる。そしていろんな魔物に対応する力があることも証明してもらいたい」


 協会長は予期していたのか、迷わずにスラスラ答えた。

 山級のネティスが驚いていないあたり、正規の昇格条件なのだろう。

 いろんな種類の魔物に対応できる実力と、素材系の知識を要求されるのはじつにまっとうだと思う。

 

「わかりました。条件を満たせるように経験を積んでいきたいと思います」


 俺が答えると協会長は満足そうにうなずいたが、左右にひかえる男女は目を丸くしている。

 まるで俺がワガママを言うと予想していたみたいだ。


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