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一人で倒しちゃってごめん

 エリアキーパーとは特定の階層に出現する強力な個体で、倒さない者はなぜか次の階層に進めないという不思議な力を持った特殊な存在である。

 日本人的に言えばボスモンスターと言うところか。

 魔物と迷宮を作り出したとされる悪神モーヴェの加護を受けているのではないかという説が今のところ有力だ。

 当然通常の魔物とは一線を画す強さだ。

 

「しかもフェロスモードかもしれない」


 ポリーヌの声にはおびえがある。

 フェロスモードとは簡単に言うと魔物が激高して我を忘れた暴走状態のことをいう。

 バーサーカーモードの魔物版ってところかな。

 より狂暴でより攻撃的になっていて、危険度が二割増しなると言われているらしい。


「その割には落ち着いた様子で俺たちを観察しているな」


 俺が指摘したように、ジェヴォーダンは三つの目でこちらを観察しているようだ。

 低いうなり声を発しながら、白く鋭い牙を見せているが、問答無用で襲いかかってくるそぶりはない。

 じゃなかったらとっくに殺し合いがはじまっているはずだ。


「わからないです……エリアキーパーだからなのかしら?」


 フェロスモードに入ったからエリアを無視してここまであがってきたし、エリアキーパーだからこそある程度の冷静さを保っているということか?

 ……正直、説明になっているとは思えないな。

 

「き、気をつけろ……攻撃レンジに入ったとたん、狂暴に襲いかかってくるぞ。刺激せずに逃げろ。今ならまだ逃げられるかもしれん」


 入り口付近の黒い壁に背中をあずけながら、ひとりの男が忠告してきた。

 鎧が切り裂かれていて胸が血まみれだから、てっきり死んでいると思ったがまだ息があったか。


「ポリーヌ、ジェヴォーダンは俺が引き受ける」


 そう言うと、彼女は息を飲む。


「私としては撤退を提案したいのですが……」


「俺たちがこのまま引き返しても追いかけてこないという保証は?」


「ありません」


 そうだろうなと思う。


「追いかけられながら戦うのと、ここで戦うのとどっちがいい?」


「どうせ殺されるなら、誰かを癒しながらのほうが私の好みですね」


 俺の質問に答えるポリーヌの声は、意外と落ち着いている。

 さすがに表情をうかがう余裕はないが、物語に出てくる聖女のような表情なのだろうか。

 

「俺が倒しちゃうと、ポリーヌの覚悟は無駄になるかな」

 

 ジョークのたぐいだと思ったらしく、ポリーヌは苦笑する。

 ちらりと視線を合わせてうなずきあうと俺はジェヴォーダンへ、彼女は壁際に向かう。


「グオオオオオオオオオオオオオ」


 すべての瞳を真っ赤に変化させ、敵意を燃え上がらせて咆哮する。

 どちらかと言うとトラのような声だ。

 迷宮をぶっ壊してもいいなら話は早いんだが、それをやるとどれだけ被害が出るかわからないし、俺も生き埋めになって死にそうだからできない。

 効果範囲を限定できて、なおかつ強力な攻撃となれば闇属性が一番だろう。

 ジェヴォーダンの動きは疾風のようなスピードだったが、鍛錬の成果か俺の剣で攻撃を止められる。

 ジェヴォーダンは俺が攻撃を防いだことに驚き、警戒するように後方へ跳躍した。

 流れるような連続攻撃をされたらきつかったが、しょせんは第十階層という上位階層レベルの魔物なんだろうか。


「汝、秩序への反逆者、我、天の目を盗むもの。犯罪の意思、背徳の色、孤高の牙を我に貸し与えよ」


 与しやすいというのはありがたいので、さっさと魔法を詠唱する。

 闇属性はポリーヌに嫌悪されるかもしれないので、呪文を唱える声は小さめにした。

 

「<堕天せし天狼の牙>」


 かつて天に住む聖なる狼でありながら、神に背き魔界に追放されたという伝説の魔獣フェンリルの力を借りる、闇属性の魔法である。

 上下四本の黒い牙がジェヴォーダンののどに出現し、容赦なく引き裂く。

 聞こえたのはジェヴォーダンの断末魔の叫びだった。


「……えっ?」


 ポリーヌと彼女に治療してもらっていた男が、同時に間が抜けた声を出す。

 一撃で倒してしまってすまない。

 冗談は心の中ですませ、彼女たちのところへ小走りに寄る。


「しゅ、瞬殺……? あのフェロスモードのジェヴォーダンを瞬殺?」


 男は驚愕で震えていた。


「ロイさん、もしやとは思っていたのですが、あなたってメチャクチャ強いですよね?」


 ポリーヌは驚き半分、確信半分といったような表情である。

 まあ彼女には特に隠していなかったからな。

 何らかの事情やら秘密があるのはお互いさまだし、隠しあおうとしたらロクなことにはならないと判断したのだ。


「迷宮にもぐるのが初めてなのは本当だから、自分が強いかどうかなんてよくわからないな」

 

 これは本心である。


「ジェヴォーダンをソロ討伐って中堅クラスのバスターでも無理だぞ……」


 男性があきれた声を出す。


「あ、大丈夫ですか? 立てますか?」


「ああ。危ないところを助けてくれてどうもありがとう。俺はネディスという」


 俺の手を取ってネディスは立ち上がる。


「何があったのか、聞いてもいいですか?」


 俺の問いにネディスはこくりとうなずいた。


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