お礼の一品
「やっちまえ!」
相手は四人で同時にかかってきたので、ポリーヌをかばうためにも前に出る。
もう一発くらいもらっておいたほうが被害者ヅラするためにはいいのかもしれないが、わざと何発も殴られるのはちょっと不愉快なのでひょいと避けた。
そしてがらあきの顎にアッパーを叩き込む。
激しく脳を揺さぶったから当分は立てないだろう。
まずは一人め。
そして左右から同時来たのでひょいと後方に下がり、お互いがぶつかったところにまず右側の男のこめかみを拳で打ち抜く。
そして左の男を同じく左拳でこめかめを殴りつける。
見事に意識を刈り取ったので、残りは一人だけだ。
そいつはと言うと、しりもちをついて股間を濡らしてアワアワ震えている。
どうやらビビッてお漏らしをしてしまったらしい。
そこまですごいことをやったつもりはないんだけどなあ。
と思っていたらポリーヌが口をはさんでくる。
「ロイさん、強いですねえ。いくら相手が酔っ払いと言っても、普通四対一で圧倒できませんよ?」
「そうね。相手は駆け出しバスターとは言え、大したものだわ」
それまで知らぬ顔を決め込んでいた宿屋の女性がひょっこり顔を出してそう言う。
ポリーヌは顔にヒーリングをかけてくれた。
「私をかばわなければ、避けられましたよね?」
「いや、叩きのめすために一発くらいもらっておこうかなと思ったんだよ」
彼女に聞かれて俺は正直に答える。
彼女をかばう気持ちがなかったと言えばうそになるが、本人に聞かせるのはちょっと照れくさい。
彼女は腕がよくたちまち痛みは引いてしまった。
たまに村に来てくれた神官は親切だったけど、あんまり腕がよくない人だったからなかなかひかなかったんだよな……。
こういうところでも残酷な実力の差ってやつが出てしまう。
「そういうことにしておきましょう」
あれ? 何か勘違いされてないか? 気のせい?
「ロイさんでしたね? この人たちはちょっと迷惑だったのでお礼に晩ご飯におかずを一品つけましょう」
宿屋の女性が笑顔で言う。
そんなことを従業員側が言ってもいいのかと思ったけど、笑顔に妙な迫力があった。
酔っ払って他人に絡むやつら、どこでも嫌われるもんなんだなー。
「せっかくだからありがたくもらいます」
ここの宿の料理、けっこう美味いしな。
「ではまた降りてきてくださいね」
俺が殴り倒した連中はそのまま放置されるという。
ポリーヌですら印象が悪すぎて手当てをする気にはなれなかったようだ。
「俺は二階なんだよね。ポリーヌは何階?」
「三階です。晩ご飯、一緒に食べましょうか?」
「うん」
別に予定がないのにわざわざ避けることもないだろう。
「十九時に食堂で待ち合わせしましょう」
そう言ってじゃあまたあとでと別れ、部屋に戻った。
小さな部屋だけど、グエリーヌ侯爵家の屋敷よりもずっと落ち着く。
根は貧乏人なんだろうな、やっぱり。
一応武器のチェックや手入れをやっておく。
大した相手はいなかったし、苦戦もしなかったから大丈夫のはずだが……。
うん、大丈夫だな。
装備を何度も買いなおすのは痛い。
魔法で倒したほうがいい相手は魔法で倒したいが、それだとポリーヌとの連携が確認できない。
悩ましい問題だ。
一人でどこまでいけるのか試してみたい気持ちがないと言えばうそになるが、無理はしたくない。
父さんたちは今も村できつい暮らしを送っているのだろう。
冒険して大ケガして遠回りになってしまったら、その分だけ苦労をかけることになる。
幸いポリーヌは腕がいいからあせらず一緒に強くなっていこう。
時間より少し早めに部屋の外に出て階段に行くと、降りてきたポリーヌとばったりと出くわした。
「おや」
彼女はピンク色のゆったりとした上着に茶色のズボンを履いている。
装備を外しただけの俺とは大違いだなと思った。
こういうところは彼女の女の子なんだな。
「少し早いですが向かいましょう」
二人並んで食堂に行くと、先に来ている客がこっちを見てひそひそ話している。
「あいつだ。一人で四人を叩きのめした新人ロイだ」
もう有名になっているのか。
うわさが広がるのが早いな。
あいていた道路側の席に座ると、給仕の女性が水と一緒にジャガイモグラタンを持ってきてくれる。
「はい。お礼の一品ですね」
グラタンはアツアツで美味かった。
ジャガイモグラタンと言っても玉ねぎとニンジンも少し入っていた。
他にはパンとスープ、野菜である。
庶民食なんてこんなものだし、三品も四品も出てくるだけで大したものだろう。




