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どこにでもこういう手合いはいる

 それなりに街を散策し終えたところで、老人がうずくまっているのを見かけた。


「どうかしましたか?」


 小走りに駆け寄ってしゃがみたずねてみるとその男性は顔をしかめながら言った。


「どうやらコケた時に足をくじいたらしいんだ」


「分かりました。おぶっていきましょう。家はどちらですか?」


 俺が背中を出すとポリーヌが手伝ってくれて、おじいさんをおんぶする。

 

「家はどちらですか?」


「右側だよ」


 おじいさんの誘導に従って歩いていくとクリーム色の石の壁に赤い屋根の家が見えてきた。


「ごめんください」


 こげ茶色のドアの前で声をかければ、中年の女性が姿を見せる。


「はい……あらお義父さん、どうなさったんですか?」


 小柄な赤い髪の女性は俺がおぶっている老人を見て目を丸くした。


「足をくじいたところをこの人たちに助けてもらったんだよ」


「そうなんですか。それだったら教会に連れて行ってもらったほうが……」


 女性がそう言いかけたところでポリーヌがヒーリングをかける。


「これで痛みはやわらぐはずです。診たところ大したケガじゃないので、二日くらい安静にしていればよくなるでしょう」


 うん、彼女がいるから教会に行かなくても大丈夫だと判断したのだ。

 同意見だったからこそ、彼女も黙ってついてきたのだろう。


「そうですか。ありがとうございます」


 女性は礼を述べ、おじいさんが足をつけて立ち上がるのを手伝う。


「肩を貸しましょうか?」


「いや、そこまでしていただくわけにはいきません」


 老人も女性も遠慮するので、善意の押し売りは自重しよう。

 二人が家の中に入っていくと俺はポリーヌをうながす。


「宿に戻ろうか。宿はどこなんだい?」


「おそらく同じですよ。<芽吹きの季節>ですから」


 たしかに同じだった。

 駆け出し御用達の宿というのはそのとおりらしい。


「感心しました。ごく自然におじいさんを助けに行ったので」


 ポリーヌはほめてくれたが、俺は特別なことをしたという気はしない。


「父さんも困っている人は助けていたからな。それに兄さんたちは年が離れていた俺に優しくしてくれたし」


 だからそういうものだろうという気持ちがある。

 まあ下の兄貴はツンデレって言ったほうがよかったけど。

 ポリーヌはにこにこしているだけで何も言わなかった。

 

「素敵な人と組めてよかったです」


 彼女はそう言うが、まあ神官見習いのヒーラーだもんな。

 人助けをいやがるようなタイプとは組みたくないんだろう。

 宿に戻ったところで大きな笑い声が聞こえてくる。

 ちらりと一階の食堂を見ると、まだ日が沈んでいないのに早くも酒盛りをしている四人組がいた。


「おう。そこの美人の姉ちゃん! 酌をしろよ!」


 呼ばれたのはポリーヌだった。

 

「無視しようか」


「そうですね」


 俺たちはうなずきあい素通りして階段に向かうと、男たちは立ち上がってやってくる。


「あー? 俺様たちの頼みが聞けないっていうのか?」


 男たちは全員寄っているのか、顔が赤いし息が酒臭い。


「お前ら見ない顔ってことは新人だろ? 俺たちの言うことを聞かないと後が怖いぞ」


 すごんでいるつもりなんだろうが、全く怖くなかった。

 そんな大したバスターが駆け出し用の宿に泊まっていて、しかも今の時間から酒盛りしているなんて誰も信じないだろうに。 


「まあ男はいらねえや。きれいな神官の姉ちゃんを貸してくれたらいいからよ」


 そう言うといっせいに下品な笑い声を立てる。


「この子を貸してくれってまるでこの子が俺の所持品みたいな言い方だな。吐き気がする」

 

 女は男の所有物っていう傲慢でゆがんだ意識がなければ、一緒にいる男に「彼女を貸してくれ」という言葉が出てくるはずがない。


「ロイさん? 正論だと思いますし、守ってくれるのはうれしいのですが、もう少しおだやかに?」


 ポリーヌは困惑して小声で話しかけてくる。


「こういう手合いを相手に穏便な解決ってできないんだよなあ」


 できる相手はそもそもこういう絡み方をしてこないもんだ。


「ああ。クソガキがいきがってんじゃねえぞ!」


 男の一人が俺の右頬を殴る。

 ポリーヌが悲鳴をあげたが、もちろんわざと殴られたのだ。

 殴られた跡がないとやっぱり正当防衛を主張しにくいんだよなあ。

 これならやられたからやり返したと言えるし、あっちのほうが人数は多かったという証言だって期待できる。

 あとはうっかりやりすぎないように気をつけるだけだな。

 


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