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宿<芽吹きの季節>

 忘れていたけど私はペネロペよと受付のお姉さんは名乗った。


「宿は決めた?」


「いえ、まだです。まず迷宮にもぐってみようかと」


 ペネロペさんには「脳筋」とあきれられてしまう。


「先に決めたほうがいいわよ。迷宮から帰ってきたら疲れで探すの億劫になりがちなんだから」


「なるほど、そういうものですか」


 言われてみればどの程度消耗するのかという点は考慮してなかった。

 初めての経験で気疲れもあるだろうし、おとなしく忠告に従おう。


「おススメは共同宿<芽吹きの季節>かしらね。あなたみたいな若い新人向けの宿で料金は安めだし、仲間を探すコミュニティーとしての側面もあるの」


「そうなんですか」


 でもパーティーは固まっているんだろう? と思っていたら、表情を読まれたらしくペネロペさんは言った。


「あなたひとりだけなら、入れてもらえる可能性は残っているわ。魔法使いと戦士のダブルは貴重だもの。もっとも、戦力になれることを証明する必要はあるだろうけど」


 それは当然のことなので、不満はない。

 まあすでに人間関係ができあがっているところに入るのは厳しいかもな。

 そういうコミュニケーション能力なんて、あれば前世で苦労は少しくらい減っていただろう。

 

「<芽吹きの季節>はどこに行けばいいんですか?」


「この建物を出てすぐ右隣よ」


 なんとも近い距離にあるものだ。

 

「じゃあ行ってきます」


「それがいいわ。素直な子は好きよ」


 ペネロペさんはにっこりと笑う。

 美人のお姉さんに微笑まれて、他意はないと分かっているのにドキリとしてしまった自分がうらめしい。

 美人の笑顔なら、グエリーヌ侯爵家で少しは耐性が生まれたと思っていたんだけどなあ。

 <芽吹きの季節>という宿は三階建ての白い石の壁の建物で、質素な印象を受ける。

 まあ金のなさそうな新人用の宿が豪華なのも変な話だが。

 宿を開けると受付に若い女性が座っていた。


「いらっしゃい。うちはバスター専用の宿ですが、バスターですか?」


「ええ。さっき登録して、ここをすすめられてきたんですが」


 俺が回答すると女性はにっこりとする。


「新人さんですね。一応規則なので、バスターカードの提示をお願いします」

 

 作ったばかりのカードを見せると、女性はうなずいた。


「宿泊には朝食夕食がついていて、一泊五〇〇〇ゼルクいただきます。食事なしだと三〇〇〇ゼルク、朝のみで四〇〇〇ゼルクです」


 安いのか高いのかよく分からないな。

 リバーシで稼いだ賞金がたっぷり残っているし、自炊はできないから迷う余地はない。


「朝食夕食つきでお願いします」


「ありがとうございます。七日連続宿泊ですと三万二〇〇〇ゼルクと、少しお得になりますがいかがいたしましょうか?」


 他に行くあてもないし、いちいち手続きをするのも面倒なんだよね。


「七日宿泊でお願いします」


「ありがとうございます。料金は前払い制でお願いしております」


 銀貨三枚と大銅貨二枚を出してカウンターの上に並べる。


「たしかにちょうだいいたしました。前日の夜までにお申し付けいただければ、次の日の昼のお弁当をご用意いたします。飲み物つきで一〇〇〇ゼルクいただいております」


 飲み物つきならちょっと得なのかな。


「今日はこのあと迷宮にもぐってみようと思うんですが、今日の分は無理ですよね?」


「はい」


 お姉さんはちょっと申し訳なさそうな顔をしてうなずき、それから口を動かした。


「いまは夕方ですし、いまからもぐるのはおススメいたしません。一部魔物は夜になると狂暴化するとの話ですし、旅の疲れも残っていらっしゃるでしょう。明日になさってはいかがでしょう? 明日なら、お弁当もご用意できますし」


 言われてみればもっともな話だな。

 序盤のうちに出てくる魔物なんて狂暴化したところで大したことはないと思うが、慢心は禁物だ。

 それにどうしても今日中にもぐってみたいというわけじゃない。

 

「分かりました。今日はやめておきます。そして明日の弁当をお願いします」


「かしこまりました」


 女性は安心したような笑顔で応え、一〇〇〇ゼルクを請求してきた。

 意外とまとまったお金が最初のうちに出ていくもんなんだな。

 バスターってやつは上のクラスになっていかないと、生活が厳しいとユーグが言っていた通りなんだろう。

 だが、俺が家族みんなを養えるためにはバスターがいい。

 リバーシだと永遠に勝てる保証はないが、バスターは実力さえあれば収入の安定をはかることが可能なのだ。

 知名度が上がれば貴族のお抱えにもなれるし、貴族の地位も狙える。

 リバーシで勝てなくなってあわててバスターを目指すよりも、バスターやりながらリバーシの大会にも出るくらいのほうがいいはずだ。

 リバーシの大会に勝つだけじゃ貴族にはなれないんだよな。

 俺がこの州のリバーシチャンピオンだってまだ誰にも気づかれないレベルの認知度だし……。

 よし、みんなを養えるくらいになるためにがんばるぞ!

 ひとまずはクエスト達成二十回あたりで、森級へとステップアップしたい。

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