ヴィエルゾンの街
俺は無事にヴィエルゾン市に到着した。
シャラント州は財政が豊かなのとグエリーヌ侯爵が善政を敷いているおかげで治安がいい。
ヴィエルゾン市は人口が数万規模の大きな都市で、ベフトン子爵が治めている。
迷宮がある都市を任せられるくらいだから武闘派だし、グエリーヌ侯爵の信任も厚いそうだ。
もっともいまの俺が面会を求めても門前払いを食らわせるのがオチだろう。
迷宮は西門の郊外にあり、その近くに監視門があり、高さ数メートルの土の壁がそびえている。
ここ数百年はないが、過去には「スタンピード」と呼ばれる迷宮内の魔物が外に大量に出現する現象が発生したこともあるらしい。
監視門が撤去されないのはその名残りだし、教訓を伝え続けるためだそうだ。
都市の広さはたぶん一〇〇ヘクタール以上あると思うが、いままでいたルシオン市のほうがずっと大きかったからなあ。
歩くのも大変かというと、農民時代のほうが大変だった。
もっともだいぶ体はなまってしまっているな。
剣の素振りや魔法の練習だけじゃ基礎体力の維持は無理だったか。
街の中心にたどり着けば噴水があり、東西南北に通じる大きな道が走っている。
ここまでくれば分かりやすいと言われたが……「バスター協会」という黒字で殴るように書かれた横文字の看板が、左サイドに映った。
赤い屋根とオレンジ色の壁の洋館という感じの二階建ての建物である。
けっこうサイズが大きいのはちょっと意外だな。
中に入ってみると右手側に受付カウンターがあり、左側には丸いテーブルと椅子が並べられていてホテルのロビーとまではいかないまでも、ちょっとしたお茶をやるスペースでもあるようだった。
とりあえず受付のお姉さんに話しかける。
「バスター志望なんですが」
このあたり昔ゲームでやった冒険者系と似ていて、ちょっとワクワクする。
「はい。ではこのプレートに手を置いてくださいね」
赤い髪に茶色い目、紺色の上着と白いシャツを着たお姉さんは慣れた態度で大きな銀色のプレートをカウンターの上に置く。
言われた通りに右手を置くと白い光が生まれる。
「おお……」
黙ってみていると「ロイ、十四歳。犯罪歴なし。平民」と簡単な文字が浮かんだ。
「これは叡智の神サジェス様が地上に遺したと言われる、神遺物<アカシックレコード>です。これらの前には何者の隠しごとはできません。……もっとも我々が扱えるのはほんの一部だけですが」
これがうわさの神遺物か……実際に目にするととんでもない代物だな。
バスター協会なんて組織がこんなものを持っているのは、それだけ迷宮にもぐることが重要視されているということと考えていいんだろう。
あくまでも支配階級から貸し出されているという扱いらしいし。
「ではこのカードを」
銀色のカードが発行される。
星がひとつだけ刻まれているのは最低ランクの土級のあかしだ。
「これもすごい素材なんですか?」
「いえ、これは違います。まあ加工するのがそれなりに大変ですが」
お姉さんはクスリと笑って説明してくれる。
「バスター協会の制度をどの程度ご存知ですか? よければ最初から説明いたしますが」
さすがに一から十まで聞く気にはなれない。
「そうですね。ランクアップに必要な条件、仲間の探し方を教えてください」
いまのところ気になっているのはこのふたつだ。
「土級の方がランクアップするのは土級クエストを二十回以上達成、もしくはそれに匹敵すると思われる実績を挙げることですね。仲間探しに関しては条件をお聞かせいただければ、こちらで仲間募集の貼り紙を作成し、あちらの掲示板に掲載いたします」
お姉さんは茶色い瞳を右側に向ける。
ここからでははっきりと分からないが、クエスト系掲示板と募集系の掲示板の二種類があるようだ。
「ただ、土級の方ですと条件を厳しくすると誰も応募してこないことがあるので、タイプだけに限定したほうがよいと思いますよ」
「タイプ?」
どういう意味だろうと眉を寄せると、お姉さんはいやな顔をせずに教えてくれる。
「前衛と後衛、戦士、格闘家、魔法使い、ヒーラー、アーチャーといった感じですね」
「一応俺、戦士と魔法使いのダブルなんですけど」
おずおずと申告すると、お姉さんは目を丸くした。
「あら、そうなのですね。それだと応募はあるかも……でもこの時期だからなぁ」
後半は声が小さくて聞き取りにくかったけど、何か難しい理由でもあるのだろうか。
「新しくこの街に来るバスター志望者たちってだいたい冬か春が多くて、いまはちょっとずれているのよね。新人は新人同士で組みはじめるし……まあ上手くいくパーティーばかりじゃないし、あなた以外にも時期はずれの新人が来たりするから、我慢強く待っていてね」
いつの間にか砕けた話し方になっていたが、いまのほうが話しやすい感じがしていいな。
うなずいたものの、ふと思いついたことがあって聞いてみた。
「パーティーを組まないとダメな場合ってあります?」
「あるわよ。最低人数が指定されるクエストもあるし、この迷宮でひとりでもぐっていいのは第三階層まで。それより下はソロ厳禁よ。命の保証ができないし……まあ上の階層なら保証できるわけじゃないけど」
お姉さんは難しい顔で教えてくれる。
まあ迷宮だから絶対はないんだろうけど、それでも第三階層までか。
とりあえず慣れるために第一階層に行ってみようかな。
「希望は何がいいかしら?」
「そうですね。できれば男で、ヒーラーはほしいですね」
前衛と魔法使いは俺ができるので、一番ほしいのは回復役である。
男同士なら気楽でいいだろうし。
「男のヒーラー、少ないわよ? 癒しの神ソラトゥール様は女神だからね」
お姉さんは困った顔で言う。
「あ、はい。できればで」
無理なものは仕方ない……。




