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「でさぁ。もちろん教えてくれるんだよね」
「何を?」
「何を、ってヒド。昨日からずーっと我慢してたんだからね!」
「え?」
ニヤリと笑いながら尋ねて来たかと思えば、突然酷いだのなんだのと私を責める真理亜。謂れのない言葉に、今日何度目か分からないクエスチョンに首を傾げると、真理亜はアイスを齧りながら脱力した。
「ちぃくんのことに決まってんじゃん」
「う……」
「というか、瀧本……楓花さん、だっけ?」
「その名前、言わないで」
「ふふっ、やっぱしね」
ちぃくんには言えなかった『言わないで』がするっと真理亜の前では出てしまって、思わず口を閉ざした。そのまま誤魔化すようにアイスに齧りつくと、真理亜も私を真似るようにアイスに齧りつきながら笑う。
「何年コトの親友やってると思うの?」
「……はい」
真理亜を前にして言い訳の一つも出来ない私は、静かに肯定した。そんな私の様子にうんうんと頷きながら真理亜が足を組むと、ワンピースから覗いた綺麗な足がテーブル下から飛び出す。
ミニのデニムスカートを履いていても、ああはならない私は、ちょっとの嫉妬心を覚えながら視線をテーブルに落とした。
「元カノ、とか?」
核心を突く質問に、私はまたしても静かに肯定することしか出来ずに頭を一度縦に振る。
「やっぱり。ちぃくんには、聞いてなかったの?」
「……うん」
「なんで?」
「――なんで? なんでって、そんなの。そんなの私が聞きたいよっ」
真理亜に言われた『なんで』の一言で、急に瞼の裏が濡れてきて声が裏返った。
真理亜相手に当たったって仕方ないとは分かってるけれど、限界に近かった私はなりふり構わず当たってしまった。それに申し訳なさと気恥ずかしさを感じて、また誤魔化すようにアイスを齧る。なぜか、バニラの甘さを感じない。
「昨日、聞いたの?」
恐る恐る、と言った感じで真理亜に尋ねられて、私は少し考えてからゆっくりと口を開いた。唇が、鉛みたいに重い気がする。
「聞いた。けど……教えてくれたのは、会長」
「はぁ? じゃあちぃくんには聞けてないの!?」
「聞けてない。全然、二人きりにもなれなかったし」
ふて腐れた声でそう言ってから、一気にガジガジとコーンを齧る。コーンに巻き付いた紙を剥ぎ取りながら、それをぐしゃりと握りつぶした。
「え、だって。校長室来るより先にちぃくんと会ったんだよね」
「会ったけど。話とかは、全然」
「はぁ……何やってんのよ」
何やってたか、なんて。言葉にできなくてコーンをのどに詰まらせた。
ゴホゴホッと小さく咽て、慌てて紙コップに入った水を飲む。その様子を呆れた顔で見られた気がして、私はますます複雑な気持ちになった。
――真理亜になんか、私の気持ち、分かんないんだ
でも、その言葉は言っちゃいけないと思って、ぐっとこらえて残りのアイスを口に放り込むと、真理亜はため息を吐いてから私に言った。
「コトさ。いい加減言いたいこと言いなよ」
「言いたいことって?」
「ちぃくんに。思ってること、いっぱいあるんでしょ?」
「……」
「あれもこれも悩んでるくせにさ。何一つ言わずにモヤモヤしてるじゃん。それじゃ何にも解決できないよ」
「だって……」
ずばずばと真理亜に言われて、私はまた押し黙った。だって、の先の言葉が喉に引っかかって、そこから先への出かたが分からない。握りしめたままの紙をさらにぎゅっと握りしめたら、チクリと指の腹に刺さって痛みを感じた。
「コトの気持ち、受け止めてあげるだけとか、私には無理だから」
そこまで言われて、私はなぜか込み上げる気持ちが止められなくなった。
感情のまま立ち上がると、がたんと音を立てて椅子がひっくり返る。たまたま人が居ないこともあって、響く音にも気を配らないまま私は思うままに叫んだ。
「そんなのっ、そんなの頼んでない!」
「そんなのって、何よ」
「真理亜に受け止めろとか、私言ってないでしょ!?」
握りしめた紙屑の存在を忘れたまま、両手を開いてテーブルにバンと手をつく。その音に真理亜は驚いてビクッと震えた。けれど頭に血が上りすぎた私は、頭の片隅で真理亜に甘え過ぎてるって思いながらも、衝動のままにぶちまけるのを止められない。
「真理亜はいいじゃない。傍にずっとモッカがいるんだもん。いつも近くに居て、思うままに求められて、うまくいってて。私なんかと違って、ドンくさくもないし、美人で綺麗で。悩むことなんて、何にもないでしょ!?」
「は? 本気で言ってんの。そんなわけないでしょ? 大体そんなこと言うなら、同じ学校の同じ学年の人とでも付き合えばっ」
「そっ、そんなこと言ってない!」
「じゃあ意味わかんないこと言わないでよ。年齢差なんてどうしようもないし、過去にあったことだって誰にも変更なんて出来ないでしょ。そんなの分かってて付き合ってるんだから。私に当たったってしかたないじゃない」
売り言葉に買い言葉。
塞いで止まってた言葉が、あり得ないくらいにボロボロ出て止まらなくて……言っちゃいけないって気持ちよりも吐き出したい想いの方が上回って、のど元を突き破って出てくる。
「真理亜になんか、私の気持ち分かんないよっ!」
はぁはぁと息を乱しながら言い切ると、瞳からボロッと涙が零れた。それを綺麗に拭うなんて余裕もなく腕でごしごしこすって止めると、真理亜が私を睨みながら立ち上がった。
「コトにだって。コトにだって、私の気持ちなんて分かんないでしょ!?」
「そんなの」「創に、前に付き合ってたのは坂下恵美だって言われた」
「え……?」
突然の真理亜の告白に、私は気が動転して言葉が出なくなった。
――坂下、恵美……って。同中の、可愛いって人気だった子、だよね
必死で頭をフル回転させて、中学のデータを引っ張り出す。中学生っぽくないつやつやのグロスリップに、ピンクの可愛い頬が思い出された。くるんと巻かれた髪もすごく可愛くって、読者モデルになったこともあるって噂だった気がする。
「私が無理矢理聞き出したよ。後になって彼女が居たとか聞きたくないから。でも最近、その子が一緒にいるの分かってて、あいつ友達と遊びに行ってさ。それとか私だってめちゃくちゃ気分悪かったし」
「まり、あ……」
「恵美は、可愛らしくて女の子って感じで。私と全然違ってて。そんな子と中学の時に付き合ってて、ヤッたこともある、とか言われて、私は傷ついてないわけじゃないっ」
「……ごめ、ん」
真理亜になんか分かんない、その言葉に対してのごめんって言葉がすぐに出てきた。でもそれは真理亜には届かずに、そのまま話は続けられる。
「それも一回じゃなかった。去年から、3回くらい会ったってこないだ聞いて。すごい腹が立って悔しくて。でもお前が好きだからとか言われたら全然何も言えなくて、それで」
「真理亜、まりあごめん、ごめん……」
真理亜が泣きながら話をするのを見て、近づいて真理亜の腕を引っ張って私も泣いた。そのまま抱き着いてぎゅっと抱きしめる。
自分だけ、そんな奢った気持ちが恥ずかしくて堪らなくなっていた。




