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「しかし、今年の夏は忙しくなるねー」
帰り道、すっかりお馴染みになったアイスクリームショップに立ち寄って、真理亜と向かい合わせに座りながらスプラッシュマウンテンなんて激しい名前のアイスに齧り付いた。口の中で何かがパチパチ弾けて、小さく音を立てている……何これ、強烈なアイス。なんて思っていたら、真理亜にパチンと音を立てて両手を合わせられ、驚いて顔を上げた。
「コト、聞いてるの!?」
「え? あ、いや……うん。聞いてる、よ?」
口の中をパチパチ言わせながら、締まり切らない返事をすると、ジト目で睨まれる。
「どーせ、ちぃくんのことでも考えてたでしょー?」
「ち、違うよっ」
「どーだか。せっかくの夏休み、だもんね?」
したり顔で覗き込むように見つめられると、真理亜の視線に耐えかねて隣の空席へと目線をずらした。真理亜の暗に指している内容が分かるだけに、恥ずかしさと寂しさが同時に沸き起こる。
――夏休みだから、って関係あるかなぁ……
ちぃくんの『我慢』とやらは3月3日を過ぎ、ちぃくんが20歳になって。それでもまだ継続されている。
私だって、あんなふうに言われたから覚悟していた。誕生日が来たら……って。だけど、私もちぃくんも誕生日が終わったというのに、私たちの何かが進展する気配は微塵もない。少しだけ。ほんの少し口づけが深くなったくらい。それもたまにのことだけど。
そんな私たちの関係が、夏休みというだけで変わるとは思えなかった。
分かってる、大事にしてくれてるんだってことは。でも真理亜の茶化す言葉が辛く感じるようになった程度には、私も手を出してくれない状況に不安を感じていた。
――もしかして、私のこともう好きじゃなくなってきた?
苦い気持ちに蓋をして、真理亜に目を合わせられないまま、そうだねって呟くように返事をした。でも、そんな私の態度を見逃す真理亜じゃない。
「コト……ちぃくんにも、考えがあるんだよきっと」
「……うん、分かってる」
「ホラ、そういうのだけが付き合ってるってことでもないし、さ?」
慰めようとしてくれる真理亜。その気持ちは嬉しいけど、ナーバスまっしぐらの私には、そんな慰め方は少し辛い。
「そんなの、真理亜には私の気持ちなんて分かんないじゃん」
「コト……」
「――ごめん、今のナシ」
垂れそうなアイスに齧り付くと、口の中でパチパチとまた弾ける。気持ちとは裏腹に元気すぎるアイスクリームに少し苛立ちながら、もう一口食べてコーンに巻かれた紙を剥いだ。
「うん。私も、ごめん」
私のせいで、一つも悪くない真理亜が謝る。それも心苦しいのに、何にも言葉が出ない。お互い無言のままコーンを食べて、最後の先っぽをバリバリ音を立てながら噛み砕いた。無言過ぎて、響く音が余計に二人の間の沈黙を感じる。手持ち無沙汰になって、いつもみたいに剥いだ紙を折りたたんでいたら、向かいの椅子で真理亜も同じことをしているのが分かった。
「ぶふっ。コト、癖感染っちゃったね」
「えー、私が元々してたんだってばー」
「そうだった?」
視線を上げて目が合うと、2人でふふふって笑った。それだけで私と真理亜のわだかまりは解消する。
「真理亜」
「ん?」
「私、ダメなのかな」
「何が?」
「だからさ。魅力、ないのかも。というか……ちぃくんに、飽きられたのかなって。ははは」
まるで元気のない乾ききった笑い声を出すと、真理亜がしかめっ面を浮かべたあと私を睨んできた。その視線が痛くて、私は首をすくめてからテーブルに視線を落とす。
「馬鹿」
「……」
「琴莉のばーっか」
「ば、バカバカ言わないでよ」
「だって馬鹿なんだもーん」
真理亜は私を馬鹿と言いながら立ち上がって、丸めた紙くずをゴミ箱に捨てた。ついでに私のまで摘んで、同じような塊をポイっと投げ捨てる。まるで、私の馬鹿なところを切り捨てるように……
「アンタさ。あんなにメロメロなちぃくんが、コトに飽きたなんて思うなら、可哀想だよむしろ」
「メロメロって、そんな……」
「いやいやいや。分かってないコトのが理解できない」
「う……ん。そ、かな?」
真理亜の指摘が恥ずかしくて、そわそわする指先をクルクルと髪先に巻きつけて解いていると、真理亜はそんな私を見てため息を吐いた。
「最後に会ったの。ほら、お花見行った時に偶然電車で会ったでしょ」
「うん」
「ちぃくん、コトが押されても痛くないように、壁際に押しやってガードしてくれてたよ?」
「え、そうだった?」
言われたことに記憶がなくて尋ねると、真理亜が信じられないって表情で目を見開いて私を見つめる。その目に耐えられなくて、私は今日何度目かの落ち着かない気持ちで、視線を逸らした。しかし、それでもなお逃げ切れない視線を体中にビシバシ受けながら真理亜の続きの言葉を聞いた。
「それにさ、ちぃくん新しく入った生徒会メンバーのこと、殆ど理解してるし」
「嘘ー。そんなの、あんまり話してないよ?」
「だって、颯ちゃんのこと、どんな奴? って聞かれたし」
「颯ちゃんって工藤くんの、こと? いつ? なんで?」
真理亜の言う事に全く覚えがなくて、動揺するのを抑え切れずに捲し立てるように質問をした。だって、なんか複雑だ。私の知らない所で、真理亜とちぃくんがやり取りしてるみたいで……そんなの、耐えられない。
せっかく浮上した気持ちが落ち込んでいくのを感じながら真理亜を見ると、真理亜は私を『ありえない』って言ってるのがありありと分かる顔で見つめていた。
「いつって。だから、偶然会った時だって。コトが創と話してる時に、コソっと聞かれたんだよ」
「ホントに?」
「本当に。って、あーもぉ! こんなことで涙まで浮かべないでよ」
そう言われながら、私の目元はぐいっと真理亜の手の甲で拭われた。なんか、私って馬鹿みたいに恥ずかしい子だなって思うと、顔が赤くなってきた。友達の前で、私って何やってるんだろう……情けなさすぎて、自分に落ち込む。
「ちぃくん、聡先輩にいろいろ聞いてるみたい」
「会長に? 何を?」
「だからぁ。今の生徒会のことだって」
「なんで?」
そう尋ねた私を見て、真理亜は驚愕していた。なんて言うか、さっきの『ありえない!』って顔にプラスして、『コトって馬鹿なの?』って顔が言ってる。その表情にムッとすると、真理亜は大げさなため息を吐いて椅子をテーブルの下に押し込んだ。もう帰るよ、の合図だ。
私も立ち上がって椅子を仕舞うと、向かい合った私にポツリと言った。
「琴莉」
「何?」
「とにかくさ。ちぃくんを信じてついていきなよ」
「何それ」
「あの人は……絶対にコトを裏切ったりしない人だって、私思うから」
真剣な目をしてそう言い切るのが、私じゃなくて真理亜だということが複雑だけれど、私は黙ってウンと頷いた。




