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ちぃくんの態度が変わった気がする――
そう思い始めたのはいつのころからだろうか? ……いや、違う。ほんとは私、分かってる。
ちぃくんが変わったのは、あの日。……あの日、あの人に出会ってからだ。
そのことに気がついているけれど、それを問いただす勇気もなくて。ただやるせない気持ちでいつも通りに過ごしてる。でも本当は自信が無い。いつも通り、が出来てるのかどうか。
だって、ほら……ちぃくんの握りしめる手を緩める癖がついたから。
『3月3日のコトちゃんの誕生日を過ぎてから』
そう言われてから、早一年。私とちぃくんは順調な交際を続けてきた……と思う。
約束通り、お正月は二人で初詣に出かけて、合格祈願のお守りを返しに行ったし。お誕生日には、すみれさんと一緒に誕生日会もしてもらってケーキも食べた。うちにもちぃくんを招いて、お父さんお母さんにも紹介した。弟が『これが噂のおにぎり彼氏』なんて言った時には、思わず殴って口を塞いだっけ。
けれど――ちぃくんとの思い出は楽しいことがいっぱいで、幸せで笑いが絶えない。
高校生になってから新しく作ったアルバムは、真理亜と一緒よりは少ないけれど、それでもちぃくんと一緒に写るものも多い。ペラリと捲ると、絡み合った手が目に入った。
――手、繋いでる
いつもしてることなのに、過去の自分を見てふっと笑った。なぜだろう、懐かしく思っちゃうのは。そう思いながら、アルバムを閉じて、私は笑うちぃくんの顔を脳裏に思い浮かべた。
――――――
高校2年の夏休み。それはあまりにも速いスピードで訪れた。
受験から一切解放されて、高校生として最高に満喫できるだろう2年の夏。進級して新しいクラスになったのに、担任は相変わらずの緩いあの人で、同じクラスには真理亜だけでなくモッカまで増えて賑やかだった。
「ねぇ今年もプール行く?」
「う……ぷ、プール」
「池波、いい加減慣れろよ。お前ほんと面白いなー」
水着を着なければ、ということに抵抗を示す私とは裏腹に、モッカと真理亜はすでに行く気満々の顔をしている。聡先輩が3月に卒業して新生徒会の顔ぶれは少し変わった。
生徒会長にはモッカが、副会長には真理亜と隣のクラスの吉井武久くん。私は変わらず書記を担当して、会計には1年生の工藤颯太くんが来た。他にもいるけれど、メインで動いているのはこの5人だ。
今日は1学期最後の生徒会と言うことで、各クラスの委員長を集めての全体集会を行うことになっていて、今はみんなが集まる時刻の前で、私たちは生徒会室でダラダラと喋っていた。
「コトはいつまでも初心なところがいいのっ」
「う、うぶって!」
真理亜の言い方がなんだかいやらしくて、ついつい赤くなる。それを早速夏休みの宿題に取り掛かっていた工藤君が、顔も上げずに指摘してきた。
「琴莉さん、部屋の温度上げないでもらえますか?」
「あ、あげてない、上げてないから!」
「いちいちそういうの、反応するから顔が赤くなるんですよ」
「な、な……なってないっ」
「見てませんが、なってるでしょ」
言うだけ言いながら、工藤君はひたすらシャーペンを紙の上に走らせる。頭のいい彼の所業を恨めしく思いながらも、私はむっとしながら持っていたペンを机に転がした。
――なんだって、私にだけこんなにきついのかな
生徒会の始まった当初から、私にだけ工藤くんは厳しい。……悪いこと、何かしたのかも。
凹んで落ちていきそうな私の横で、なぜかモッカが少し冷たい声音で口を開いた。
「颯太。池波に当たるな」
「……」
「そーた」
「……はい」
中学の部活の後輩だと言う工藤君は、モッカが引っ張ってきて会計になった。後輩とは思えないほど頭の切れる子で、私なんか先輩としての威厳なんてまるでない。それでいていつもけちょんけちょんだから――うーん、私って一体。
そんなことを思いながら、瞬時にモッカによって黙らされた工藤君を見つめた。見つめた、というよりはぼんやり見てたって感じなんだけど……しばらくして、バッと顔を上げた工藤君に『見物料、頂きますよ』なんて脅されて、慌てて視線を逸らした。
――やっぱり、私には冷たい。
それもこれも今日で一先ず最後。打ち解けられない残念さはあるものの、私は熱い頬をぺたりと机にくっ付けて窓の外に広がる空を見つめた。
――ちぃくんにも、会えるかなぁ……
私の頭の中は、暇さえあればちぃくんで。それは出会って1年半経った今も、ちっとも変わっていなかった。




