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逃げてないと言えば、嘘になるかもしれない。
でもね? 私だって逃げたいわけじゃないんだもん。ただ、どうしても……どうしても、恥ずかしいだけで。そこにちぃくんが居るだけで、もうドキドキして止まらない。
だから顔を見るのも精一杯。ましてやこんな距離で引き寄せられたりしちゃったら、私の精神はギリギリなの。
悲しさにじんわりと瞳が潤ってくる気がした。けれど、思うことのどれもが言葉にならなくて、でも目も逸らせなくてどうしようもない。俯いてもちぃくんの視界に入るこの体制に、どうしたらいいのか訳が分からなくなってパニックを起こしそうになった時。
私の腰から手を離したちぃくんが、ズリッと後ろに下がって座りなおした。私とちぃくんの間には少しばかりの距離が出来る。その距離にもまた困惑していた。
「琴莉」
名前で呼ばれて反応すると、手でコイコイとジェスチャーされた。
コイコイ? どこに?
突然のちぃくんの行動がわからなくて首を傾げると――
「ココ」
ちぃくんは薄く笑って、ベンチを跨いだ自分の足の間を指さした。
「こ、こ……?」
言われた意味が今一つ理解できなくて、言われた言葉を反芻する。ちぃくんは一体、何を言ってるんだろうか。
「ん。座る」
「す、すわ……るっ!?」
まさかの提案に、自分がそこに座った時の状況が頭に浮かんでキャーっと叫びだしたくなった。
い、いくらなんでもっ! ち、近い。近すぎるっ。
焦ってブンブン顔を左右に振って拒否を示す。けれど、ちぃくんはどうにもこうにも強引だった。
「ホラ、早くする! 始まるから」
ちぃくんで頭がいっぱいだった私の耳に、その言葉と同時にようやく開始のアナウンスが耳に届いた。もうすぐ花火が上がり始めるらしい。少し後ろを振り返ると、確かにさっきより人が増えている。
……って、じゃあますます人目につくじゃない!!
「む、無理っ」
頑なに両手を突き出してブンブンと首を振っていると、少しだけちぃくんはイラッとした表情を見せた……気がした。
「無理なのはお互い様っ」
「ひゃああっっ」
突き出した手を掴まれて引き寄せられて、私の体は華麗にクルリとターンさせられた。
そしてドサッと着地したのはもちろん……
ギュウ――
背後から回された手が、私のお腹をぎゅっと引き寄せている。少しばかり帯のせいで邪魔されているものの、密着した背中が熱くてしょうがない。今までにないちぃくんとの新たな距離感に、あの時とは違うドキドキが押し寄せてきて我ながら恥ずかしいほどに口をパクパク動かしていたら、右耳に柔らかくて温かな感触がした。
「ホラ、上見て」
優しくて大好きな声が、耳の奥まで広がる。堪らないドキドキを抱えたまま、言われた通りに空を見上げると木々の間に綺麗な花が咲いた。
「う、わぁ……」
状況は依然ドキドキだけど、一瞬それを忘れて感嘆の声を漏らす。流石、マル秘スポットだって思うくらい、それは鮮やかで綺麗だ。
「綺麗に見えるだろ?」
「うん……」
ただただ花火に見入ってしまって、さっきまでの恥ずかしさはどこへやら。私は咲いては散る色とりどりの花火たちに、すっかり虜になっていて、気がついたときには、ちぃくんに寄りかかってさらに密着していた。
花火の演目が半ばを過ぎたころだろうか。周囲のだれもが上空に釘付けで、誰も自分たちに注目していないことに安堵しつつ、徐々にちぃくんとのこの距離に幸せを感じ始めていた。
恥ずかしい恥ずかしいって思っていたけれど、後ろからぎゅうってされてるってとても温かくてずっとこのまま居たくなる。少しばかり休憩の時間が入った時に、交差された手の上にそっと自分の手を重ねてみた。やっぱり大きいなって感じる。
当たり前だけど……男の人の手って感じ。
弟やお父さんの手ぐらいしか触れることもないから、まじまじ見て触れてみるとドキドキした。
いつも私を包んでくれる、優しい手。
見つめていたら、恥ずかしくて避けてたことが本当に悪いことをしたと思えてきて、気持ちが沈みそうになってきた。俯いていたせいか、後ろから私をぐっと引き寄せる力を感じて思わず少し右に振り返る。
「どうしたの?」
少し前のちょっぴり怖いちぃくんはすっかりナリを潜めていて、穏やかで温かな表情を浮かべるちぃくんが至近距離で私を覗き込んできた。
「べ、別にっ」
「そ?」
この距離で振り返ったらこんなに近かったのか! ってビックリした私は、慌てて正面を向いてちぃくんから目を逸らした。だって、またしても急に視界に飛び込んできたちぃくんのアレに、ドキドキしてきてしまうから、見られないんだもん。
――あぁもうっ。忘れてたのに!
そんなことをあれこれ思いながら、一人顔を赤らめて自分を叱咤していると……




