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人が多いからちょっと待ってて……と言って人が少ないところで私を待たせて、ちぃくんはぱっと近くの屋台に買いに出てしまった。一人で立ってるのって、ちょっと寂しい。さっきは自分で握る手を緩めた癖に、ぱっと離された左手が妙にヒンヤリして切なくなる。ギュッと手を握りしめると、汗が引いて乾いたのを感じた。
ほんの少しの時間だと思うけど俯いたまま立っているうちに、にこっと笑ったちぃくんが袋を下げて目の前にいた。
「ことちゃん? お待たせ」
「ちー、くん」
「ん?」
どうした? って感じの顔で見られて、フルフルと顔を振った。ほんの少しの間なのに、一人にされて寂しかったなんて恥ずかしくて言えない……
「いこっか」
俯いて何も言えない私に、ちぃくんがそっと右手を差し出してくれたから、私はぎこちないながらも手を差し出して握りしめ返した。少しずつ、だけど。ちぃくんの温もりを感じている方が安心するって感じるようになってきた……って思う。さっきまで感じていた寂しさなんて吹き飛んで、私はその温かさを噛みしめながらギュッと握りしめた。そうしたらさらに温かさが広がって、心が少し軽くなる。
前に公園で座ってたとこから見えるんだよね、と嬉しそうに言うちぃくんに連れられて公園までテクテク歩いた。少しだけメイン場所から離れるその公園は、マル秘スポットなのかなんなのか。まばらにだけど、人がそこここに集まっている。徐々に屋台も減ってきて、最後に目についたのが『リンゴ飴』。なぜだか目についたそれを凝視していると、ことちゃん食べる? って尋ねられて、また私は困り顔。すぐに返事が出来ない自分がやっぱり少し情けない。
「えっと……」
「なんか、好きそうだよねリンゴ飴とか」
「えと、りんごと言うよりは―――」
なんて会話をしてる間にも、屋台の前に立っていた。でもどうしよう、アレってあるのかな。
「じゃあ、俺小さいの。ことちゃんは?」
ちぃくんがサクサクと決める横で、私はその屋台の端から端まで吟味する。そしてホッと息を吐くと、ようやく返事が出来た。
「あのっ。みかんで」
「あいよー」
威勢のいいおじさんが、注文を受けて袋に商品を入れてくれる。その様子を見ながら隣のちぃくんが
「みかん!? そんなのあったっけ!?」
ってびっくりしていた。私はコクコクと黙って頷きながら、350円ね、と言われたのに慌ててお金を差し出す。これくらい払わせてもらわないとっ。ぽかんと口を半開きにしたちぃくんを余所に、私はさっさとお金を渡して商品を受け取った。
少しばかり口角の上がるのを感じながらキュッとちぃくんの手を握ると、私をチラリと見て笑った。
「ふふっ。やっぱりことちゃんって、期待を裏切るけど裏切らないよね」
なんて意味不明な日本語を繰り出す。意味が分からずに小首をかしげると、やっぱりちぃくんはクスクス笑っていた。
「普通、ククッ……りんごでしょ?」
――別に、りんごだけが全てじゃないもん。
なんて反論の言葉が浮かぶ。けれど、そんな私の気持ちと裏腹に笑いの止まらないちぃくんに、少しばかり釈然としない想いを抱きながら、きゅうっと強く手を握りしめた。
「膨れんなよ」
ガサッ
ちぃくんが、屋台で買った商品が入った袋を持ったまま私の頬をぷすりと刺した。
「なっ!? ふ、膨れてませんっ」
「膨れてますって、琴莉さん」
おどけてそう言うちぃくんは、またクククッって笑う。……なんか、悔しい。
横断歩道にさしかかって、丁度信号が赤になって立ち止まる。いつもならちぃくんを見つめるところだけど、今なんとなく面白くない私はプイと横を向いた。しばらくそっぽを向いていたら、笑いを収めようとしつつも堪えきれない様子のちぃくんが私の顔を覗きこもうとしてきた。
「こーとーちゃん。こっち向こうよ」
「……やだ」
子供っぽいって思うけど、そんな言葉と共にさらに首を捩った。別に、怒ってるわけじゃないけど――とは思いつつ、どこか収集のつかなくなった自分もいて。信号、早く青になればいいのにと思いながら俯いた。すると突然、ふわりと私の耳に柔らかな感触がして……
「そんなに可愛いと、ここでキスしちゃうよ?」
なんて囁かれ、顔がみるみるうちに真っ赤になってしまった。というか……
き、キスって!!!
しかも、こ、こ、ココで!?
それに、耳、耳ーー!!
ち、ちぃくんの唇が、み、耳に!!
という叫び声を心の中であげっぱなしのまま、勢いよくちぃくんを見つめた。そこでようやく目が合うと、ちぃくんはにんまり笑顔を浮かべる。
「やっぱりことちゃんは可愛いね」
そうやって爽やかにそんなことをいうから、私はやっぱりちぃくんには勝てそうにないって思う。
心臓のバクバクが静まらなくて、さっきまでの気まずい気持ちはどこへやら。今はただ心臓に静まれって念を送るぐらいしか出来なくなっていると、いこっか、ってさっきの言葉はどこ吹く風の様子で強く私を握りしめる右手が、勢いよく私を引き寄せて歩きはじめる。心臓を思うままに操られている私はまた何も考えられなくなって、無言で一歩を踏み出すのが精一杯だった。




