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『駅のホームに17時頃』
そうメールに書いてたから、16時45分には到着するように出かけた。ドキドキし過ぎて、待ってる間に落ち着きたかったから……なのにっ!
「あれ? ことちゃん早すぎる」
「ちぃ……くん!?」
「久しぶり」
にっこりと笑うちぃくんが、当たり前のようにそこに居た。これでは落ち着くなんて時間も、準備もあったもんじゃない。ちらりと顔を見ると、こないだあった以来の再会に一気に心臓の動きが加速する。バクバクと稼働する心臓についていけなくて、まともにちぃくんが見れなくなった。
だって、だって……!
き、キスして、以来なんだもんっ。どんな顔していいのか分かんないし、やっぱり、やっぱり恥ずかしすぎる!
いつもならまっすぐ見つめるちぃくんの顔がまともに見られなくて……私は両手を重ねて握りしめてホームで俯いていた。
「ことちゃん?」
ちぃくんが私の顔を覗きこんで、右手をひらひらさせる。突然視界に映りこんだちぃくんに、ドキドキとともに顔が熱を持った。
「手、出して?」
「あ……」
そうだ、思い出した。
いつも言われてたのに――と思いだし、そっと手を差し出す。
「いこっか」
その言葉に合わせて、温かく私の手を当たり前に包んでぎゅっと握りしめてくれた。いつも、ちぃくんの手は温かくてホッとする。でも……今日ばかりはホッとするどころか、緊張し過ぎて汗を掻いてるんじゃないかと気になって落ち着くなんてものじゃない。そんなことを感じながら、ちょうど到着した電車に乗り込んだ。やっぱり今日は多いな、なんて思いつつ周りを見て、浴衣率の多さに不安になってきた。
今さらだけど、調子に乗って浴衣なんて着てきたけどそもそもそのチョイスは間違ってなかったのだろうか。私に似合ってるの、かな? その上、け、化粧とかっ。私、似合ってないとか思われてたらどうしよう……とか。
馬鹿みたいに、何度も鏡の前で自分をチェックしたけど、本当に大丈夫だったのだろうか。今さら過ぎる心配事が、次から次へと頭を過っていく。久しぶりに会えて嬉しいはずなのに、あれこれ考えすぎて押し黙ってしまう。
何話せばいい?
どう切り出せばいいの? と言うより、恥ずかしすぎて顔が見れない!
いっぱい考えすぎて、ますます俯いてしまって。知らないうちに、無言のまま、しかめ面でちぃくんの手を強く握りしめ過ぎてしまっていた。
「気持ちは嬉しいんだけど……ちょっと緩めてもらえた方が楽かも」
隣で何かボソボソと言うちぃくんの声が聞こえて、はっとして顔を上げた。
「え?」
「手。どうしちゃったの、ことちゃん?」
私と繋がるソレを持ち上げると、不安げな顔を浮かべたちぃくんがユラユラと揺らす。
――あ、私……
「ご、ごめんなさっ」
慌てて、握りしめすぎた手を離すと、今度は怪訝な顔をされた。
「もう。離さなくていいんだってば」
そう言って、離れたばかりの私の手をまた繋ぎなおすと、次の駅に到着して込み合ってきたせいもあるのか……手を後ろに引っ張って、私の体ごと引き寄せた。
少しだけ。ほんの少しだけ、ちぃくんの服に頬が触れる距離に近づいてさらにドキドキが増していく。ふわりといつもの香りを感じたのが、いつものアクセサリーからで。
その香りに安堵を感じると同時に、ちぃくんを強く意識してやっぱり落ち着かない気持ちになってきた。バクバクと動きの激しい心臓と赤みを増していく顔を余所に。空いたちぃくんの左手が私の背にそっと添えられて触れた。
背から伝わるちぃくんの掌の温もりと、その大きさと……それを感じるとともに、ドクドクと脈打つ鼓動を感じた。それだけ――近くにいるってことを感じると、身体がふるっと震えた。
「もしかして、行くの嫌だった?」
「へ?」
「花火」
ちぃくんからの問いかけに思わず顔を上げると、近いからすぐに視界に入った唇。言葉を紡ぎだすのと同時に柔らかく動くそれが、この間私に……なんて思ったらいてもたってもいられなくて、慌てて目を逸らして俯いた。
「ち、違いますっ、よ?」
「そう? だったら……いいけど。あ、もっとこっち寄った方がいいよ」
私の気持ちが伝わったかは怪しいけれど。とにかく花火が嫌だということはない、ってことが伝わったのかな? と思った瞬間。左手が強く私を引き寄せたから――
「ひゃぁっ」
思わず私はちぃくんの腕の中で叫んでしまった。それを悪いと思ったのかなんなのか「ごめんね」って謝る声が、ドキドキし過ぎてぼんやりした耳にかすかに聞こえた気がしたけれど、何も言えなくて私はただ俯いた。
花火大会の行われる場所に近づくにつれ、徐々に人が溢れてくるのを感じた。まだ開始までは2時間以上もあるというのに、この人ごみ。人、人、人……で少し眩暈がする。
くらっとした瞬間にギュッと手を握られて、顔を上げるとちぃくんが私を見つめていた。
「大丈夫?」
「大丈夫です。なんか、人多くてびっくりしちゃって」
「だね。俺もビックリ」
お互い苦笑いをしてから、絡めた手に力を込めた。
「食べものとか買うだけ買って。見る場所まで移動しよっか」
そう言うちぃくんに静かに頷き、私たちは屋台の連なる場所へと歩いて行った。祭りと違うから、神社に参拝に……なんて儀式が無くて、なんだか変な感じがする。
「ことちゃん、焼きそば食べる?」
「はいっ」
「タコやきは?」
「……食べます」
「いか焼きもいるかな?」
……どうしよう、お母さんにいっぱい食べたら苦しくなるよって言われてるんだった!!
うん、と言いかけて慌てて口を噤んでいると、ちぃくんに苦笑された。
「そんなに食べない?」
「えと、あの……」
「もうちょっと見てから決めようか」
「……はい」
すぐに答えられない自分がもどかしい。結局最後はちぃくんに気を遣わせて、私が一言はっきり言えばいいだけなのに。そんなこと一つに馬鹿みたいに落ち込んで、自然と手を握る力が弱まった。




