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『花火、見に行かない?』
という誘いがあったのは、3日前のことだった。
有名な花火大会で、だけど人ごみが凄いから見に行ったことはなかった。でも――
『行きたいです』
ちぃくんの誘いとあれば、人ごみが嫌だ……なんて言ってられない!
嬉しくてにやけるのを抑えられない表情のまま、急いで走って行った。その先はと言うと。
「お母さんっ、浴衣! 浴衣出して!!」
「何、突然」
「花火、花火見に行くの! お願いっ」
お母さんの元だ。両肩を肩をがっしりと掴んで、お母さんを揺さぶりながら私は懇願した。
だって、ちぃくんと花火大会なんて……絶対、絶対浴衣着たい!!
「花火ぃ?」
「うんっ、だからお願い、浴衣を……」
目をうるうるさせて、両手を組んでお願いする。
そのやり過ぎ感あふれる私の態度に、やれやれ……と言った表情をお母さんが浮かべている気もするけれど。そんなこと気にしてられないしっ!
「コト。前に浴衣着たのいつだっけ」
「えっとぉ。……中……あ、小6だと思う」
「だよね」
「う、ん」
――何か、まずいの?
お母さんの渋った態度が気になってドキドキしながら見つめていると、はぁあー……とため息を吐かれた。
「まぁ、仕方ないわね」
「何が?」
「だって、琴莉。デートでしょ?」
「で、でででっ!? お、お母さん!?」
「もぉ。照れないでよ。こっちが恥ずかしいじゃない」
って、なぜお母さんニヤニヤ顔!?
花火行くって言っただけなのに、デートとか言わないでよ、って思う。
まだ、恥ずかしいんだもん。その、付き合ってますっみたいな表現が、さ。
そんな私を横目に、お母さんはバシッて私の肩を叩いて青春ねぇーと言いながらニヤニヤ顔を浮かべる。そういうお母さんが若干気に入らないけど、今の私は文句言える立場じゃないし、グッと押し黙って耐えた。
すると――徐にお母さんは鞄を引き寄せて、財布を出し始めた。
……え?
「足りない分は自分で貯めてたのあるでしょ? そっから出しなさい」
「え、え……っ?」
「浴衣。買ってきなさいって言ってるの」
ぴらりと手渡されたのは、滅多にお目にかかることのない諭吉様。その微妙にニヒルな顔を思わず凝視してから、お母さんを見直した。
「……いいの?」
「流石に小学生のときのは着れないからね。なぁに? 要らないの?」
そう言って意地悪くニヤッと笑いながら、お金を取り返す素振りを見せるお母さんからサッとお金を引っ込めた。そんな小さな攻防をした後「ありがと」って恥ずかしいながら、精一杯の感謝の気持ちを込めてお礼を言った。
「どーいたしまして。あ、琴莉」
「何?」
「直ぐに、とは言わないけど。紹介、しなさいよ」
「う……、はい」
「お父さんも気にしてるしね」
お母さんの申し出を、今お金まで出してもらった手前、もちろん断れる筈もない。少し苦い顔をしつつ返事をしてから、私は部屋に逃げ戻った。
ベッドにゴロリと転がってから、ため息を吐く。
「紹介、かぁ……」
想像もしなかったそれを思い浮かべて、ドキドキというか何というか。複雑な思いがした。
だって、ちぃくんが家に来るとか! しかもお父さんと対面するとか!!
無理無理ムリー!
2人が対面で座るのを想像するだけで耐えられなくて、枕に顔を埋めて思わずバタバタしてしまう。
でも言われてみて……そうだなって考えた。
お父さんやお母さんにも会ってもらわなきゃ、ううん、会ってもらいたいなって。
でもでも! それ以上に恥ずかしいんだけどっ。
うきゃーーー!
って心の中で叫んで、また足をバタバタさせた。
そうしたらタイミング良く、真理亜からメールが届いた。
『コト、明日暇?』
これは有難い申し出!!
直ぐに食いついた私は、速攻でメールを返す。
『大丈夫! ねぇ、お買い物付き合ってー』
ニヤニヤしながら送信して、その返事にホッとしながら私はいつの間にか眠りに落ちた。
――――――
翌日、テンションの高い真理亜と会ってワクワクしてきた。
今年は水着に浴衣にと新しいモノが増えていく。どこか、中学生から1歩を踏み出した気がしてちょっぴりだけだけど、大人になったような。そんな中学生とは何か違う優越感を感じながら、真理亜と並んでショップへと入って行った。
「やっぱ、コトは奇抜系よりノーマルがいいよね」
あれもこれも可愛いとキャーキャー言いながら、真理亜はちゃっかりと私に合わせた浴衣を考えてくれているようだ。やはりズバリとなんでも言ってくれる親友は凄い、と思いながら真理亜の横顔を見つめていると、さらにずらずらと私の候補を挙げていく。
「ピンクとかさ、レースが付いたのとかあるけど……コトは絶対に紺だよ」
「えー、でもこっちの白地とかも可愛いけど」
私なりに気になった商品を指して訴えるも、真理亜は小さく首を振った。
「アレはダメ」
「えー、なんでよぉ」
「あんた、白は水着で買ったでしょ?」
「う。だ、だってアレは、真理亜がっ」
真理亜の鋭い一言にたじろぎつつ反論するけれど、そんなものは一言でばっさりと片付けられた。
「煩い。コトのことは私が一番分かってるから」
「うー……おっしゃる通りですけど」
「分かればいいの、分かれば」
もはや私の意見などいらない、とばかりの勢いで、すでに真理亜が決めたらしい3着に浴衣が絞られていた。
「この辺りでどう?」
任せなさいと言わんばかりのドヤ顔で、私を見つめる真理亜。それに少しだけ反抗心を出したい気持ちを抑えつつ、出されたものを見た。
――うん、やっぱ真理亜ってすごいかも。
私の趣味を理解しつつ、程よく真理亜主張のノーマルで。それでいて……
「ちぃくんなら、コレ系が好きだと思うんだよね」
さらにニヤリとしたり顔を浮かべて、私にずい、と一着差し出してきた。
恐るべし、親友!!




