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「ちっ、ちぃくんっっ!!」
「ん?」
「こ、こここここって!?」
「俺ん家、だけど」
「き、ッ聞いてないっ」
「うん、言ってない」
そう言って、にっこり笑われた。なんだかちぃくんは嬉しそうにしている。心中、暴風が起きている私とは大違いの表情だ。
しかも、そんな私にさらに爆弾を投下させた。
「ごめんね。母さんの希望なんだ。出資者だから拒否できなくて」
「へぇえっっ!?」
それは、つまりは、お母さんが家にいるって暗に言ってるってことで……私はついにコチコチに固まったけれど、すでにエレベーターの中だから逃げ出せない。
「大丈夫。畏まる必要ないよ、普通にしてて」
なんて言うけれど、私はもう何も考えられなくて頭が真っ白のままちぃくんの家へと引きずられていった。
ドアの前に来てもなお、足をつっぱって最大限の抵抗を示す。
――そんなに簡単に、お会い出来ないってばぁああっ
「む、無理無理っ。大丈夫じゃないです!」
どう考えたって無理だ。
付き合って2か月弱。
会ったのはまだ数回で。
初めて彼氏の家にお邪魔するってだけで相当な難関の上に、彼氏のお母さんが在宅している!!
……って、無理無理無理!!!
私の脳内ががくがく震えるほどに頭を振って、ノーを告げる。
けれどにこっと笑ってちぃくんは「大丈夫だって」の一点張りだ。
そんな問答を玄関でしていたら恐れていた事態が起きた。
ガチャ
っと、ドアが開いて――
「千歳? 帰ったなら早く入ってきなさいよ」
綺麗な女の人が出てきた。うん、なんかうちのお母さんと全然違うんですけど!?
固まる私をよそに「うん。ただいま」と普通に挨拶をするちぃくん。
私は突っ張っていた足を直立に戻して、もう出会っちゃったが百年目。腹を括るしかない! と勢いよく頭を下げた。
「は、じめましてっ!! い、池波ここ琴莉ですっっ」
思い切りべりっとちぃくんの手を離して深く頭を下げ、とにかく挨拶も出来ない子、みたいなレッテルだけは免れようと必死だ。
いきなりのことに大パニックの私はしどろもどろだけど、もうどうにでもなれって感じで頭を下げた。
しばらくしてそろりと顔を上げると
「いらっしゃい」
にこっと笑うちぃくんのお母さんと目があった。
あ……ちぃくんと笑顔がそっくり。
そう思ったらホッとして、私は少しだけ力を抜いた比較的自然な笑みを浮かべることがようやくできた。
「入るよ?」
放した手をまた掴まれた私は、いよいよだ、と緊張感がまた増幅していく。
「お邪魔、します」
ぺこりとお辞儀をして……突然だけれど、ついにちぃくんの家にお邪魔することになった。
玄関からまっすぐに伸びる廊下を恐る恐る歩きながら、恐る恐るちぃくんについて歩く。うちには廊下なんて家にないからドキドキだ。そこかしこから薫る、いい匂いも私には新鮮でドキドキする。
綺麗なお家だなぁ……っていうのが私の第一印象。
それに、ちぃくんの匂いがする――って、変態だ私。
そう思ったら顔が急に熱を持った。
リビングに入ってコチラを振り返ると、ちぃくんが怪訝な顔をして私を見る。
「ことちゃん?」
「だ、いじょう、ぶです」
さっきとは打って変わって、問題ないと必死でアピールした。だって、ちぃくんの匂いだとかなんだとか考えてたなんてばれたら、私死んじゃう。
――ここが、ちぃくんのお家かぁ……ってぐるりとお家を見回して納得する。
清潔感のある素敵なお家だ。
「ことちゃんはハーブティーは飲めるかしら?」
「は、はいっっ」
「クスクス……そんなに緊張しないで? 普通のおばさんなんだから」
突然、ちぃくんのお母さんに声を掛けられてドキドキが止まらない。というよりも、今私のこと『ことちゃん』って呼んでなかった!?
うわー、うわぁあああ!!
心臓がぴょんぴょん飛び跳ねて止まらない。




