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――それよりも、ハーブティーなんて飲んだことないよ私!!
焦りを感じたけれど、まぁ紅茶みたいなものに違いない、と勝手に解釈して腹を括る。そんな焦りを見せる私を余所に「ここ座って?」と朗らかな促され、ダイニングテーブルにちぃくんと並んで座ると、そっとソーサーに乗ったカップが差し出された。
「いい匂い」
「ふふっ、良かった」
思わず零れた感想に、ちぃくんのお母さんににっこりと微笑まれる。
その顔を見て、ほんとに笑顔がそっくりだなって改めて同じ感想を抱いた。
「いただきます」
ちぃくんが飲み始めたのを横で見て、私もカップに手を掛ける。赤い色がきれいで、ハーブティーってこんなのかぁって感心する。ちょっと、紅茶と同じだと思いこもうとしたのは無謀だったのかもしれない。
意を決して一口飲んでみると、なんだか少し酸っぱい。
何味? 分かんない……でも、意外といけるかも。
なんて独りで脳内おしゃべりをしていたら、どうやら顔に出てたみたいで「ローズヒップだよ」ってちぃくんが笑いながら教えてくれた。
う……言われても分かんない。
よっぽど困った顔をしていたのか、ちぃくんはクスクス笑いながらも申し訳なさそうな表情を浮かべてさらに教えてくれた。
「ごめんね。母さんの仕事のものだから、うちには普通なんだけど」
「お仕事?」
そういえば、前にもちぃくんがお母さんの仕事をなんか言ってたな……なんて思い出す。
「アロマとかそっち方面の仕事をしてるの。これでも社長なの。あはっ」
軽い口調で話し始めたちぃくんのお母さん。しかし、それって軽すぎる!!
「しゃ、社長!? ですか!?」
お母さんが社長だなんて、私の中の常識にはない感覚だ。それに目を白黒させながらしどろもどろで答える、にんまりと微笑んでとんでもないことを言い出された。
「一応ねー。趣味なんだけど。まぁ普通のおばさんだから気にしないで」
どう考えても普通じゃない、と心の中で突っ込みながらも笑顔を張り付けて、私はため息を漏らすような相槌しか打てなかった。
なんだか池波琴莉には、神楽千歳ワールドが随分遠い世界な気がしてきた。
「さ、ケーキ食べましょうか!!」
そんな宇宙を彷徨いだしそうな私を振り切り、張り切ってテンション高い掛け声をあげる。そういって、冷蔵庫にパタパタと向かったちぃくんのお母さんはホールケーキが入っているだろう箱を取り出して、なにやら準備を始めた。
――ホールケーキ? なんで、なんで?? もしかして、来客の日には普通、とか?
頭にはてながいっぱい浮かぶ私。
そんな私の前に出てきたホールケーキ。
でも、その上には……
「ハッピーバースデイ、ちとせ」
文字を目で追って読み上げながら、私は驚きのあまり目を見開いてから、分かりやす過ぎるくらい分かりやすく叫んだ。
「えぇ!!?」
「もう、これ止めてよ母さん」
私の驚きの叫びと、苦言を零すちぃくんの声が重なった。そこに、のんびりとちぃくんのお母さんの声が返ってくる。
「いいじゃない。息子の誕生日くらい精いっぱいお祝いしたい母の気持ちよ? ねぇことちゃん?」
いきなり振られた私はそれどころではなくて、今日一番の驚きを前に相手がちぃくんのお母さんとは言え、普通の対応が出来ずに戸惑っている。
「ふぇえ!? え、あ、えとえと……」
「ふふふっ。ことちゃん可愛いわぁ」
まともに返答できない私を、嬉しそうに見つめながらちぃくんのお母さんは笑っている。そのことにもますます赤面して、挙動不審になるばかりだ。
「蝋燭消す?」
「ありえないって。マジ勘弁してよ」
「仕方ないわねー」
けれど、私のそのオタオタ加減を無視して、ちぃくんとお母さんは蝋燭を消すかどうかの話を始めた。……って、ちょっと待って。
ちょーーーっと待って!!
「ちぃくん。あの、まさかだけど。今日、誕生日なの?」
思い切り頭がパンクしそうな私がとりあえず聞きたいこと。それをようやく尋ねると、ちぃくんのお母さんはびっくりした顔をして、そしてちぃくんは苦みを帯びた表情を浮かべてぎこちなく笑った。
「あんた、言ってないの?」
「うん……黙っててごめんね?」
びっくりしてちぃくんを見るお母さんと、私にごめんと謝るちぃくん。もう何がなんだかさっぱりだ。
「なんか、誕生日って自分で言うの恥ずかしくてさ。でも、一緒に居たかったから」
「えぇえっ、だ、だって、プレゼントとか! 用意できなかったよ!!」
「いらないって、何にも」
さっきの苦い顔はどこへやら、の爽やかな表情でにっこり、を返された。
うううー、そんな顔で誤魔化されないんだからぁあっ。って感情を込めてちょっぴり睨んでみるけれど、ちぃくんはどこ吹く風って顔をして変わらずにこにこしている。
「ちょっとー。あんまり恥ずかしい会話しないでくれる? 私だってパパが居なくて寂しいんだからー」
なんて横やりが入って、ぱっとちぃくんのお母さんを見ると、やだ恥ずかしい、なんて言われてまた私はぼぼぼって顔が赤くなった。もぉ、なんて言うか、ちぃくんのお母さんには敵わないなって思う。
「えと、えと。じゃあ……おめでとう、ございます」
場の空気を変えたい意図もあって、気持ちを切り替え何もプレゼントできないのを申し訳なく思いながら、おめでとうを恥ずかしくも気持ちを込めて伝える。
「ありがとう」
そうしたら、それをにこりと笑って受け止めてくれたちぃくんと目があった。こんな私のおめでとう一つで嬉しそうな顔をしてくれるちぃくんが、やっぱり好き。だからこそ、誕生日知らなかったとか、スッゴク悔しい。
でも、そんな大事な日にちぃくんのお家に招待されたことがとっても嬉しい。ちぃくんの笑顔に私も笑顔を返すと、同じタイミングで二人そろって笑ってしまった。
「んんっ! ほーらケーキ切りますよぉーお二人さん!」
ちぃくんのお母さんが困ったような怒ったような顔を浮かべて、と言ってもそれはさっきの言葉を借りると「ズルい」みたいな気持ちのこめられたモノだってよく分かるもので。
私はそう言われているのが見て取れたことにまた恥ずかしくなって、顔を赤くしながら切り分けられたケーキを受け取った。




