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ちぃこと  作者: 桜倉ちひろ
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 じーっと見つめ返すことおよそ1分。

 その後、何の動きもない私たちの間を切り裂くように、ちぃくんは呆れたようでいて不満そうなため息をついた。

 「なんか、ムカツク」

 そう言ってふいと横を向くと、1本ポテトを摘んで口に放り込んだ。

 あ……私の。

 なんてちょっぴり思ったけど、それは取られたからそう思ったとかじゃなくて、事実としてそう感じただけなんだけど……

 なんだかドキドキした。

 ちぃくんが、私のものを黙って取ったり触ったりすることなんて、ないから。それがなんだか嬉しくて、へへっと頬を緩めてしまった。

 それが、彼の怒りを増長するとも思わずに。

 「ことちゃん?」

 ちょっとだけ怒りを孕ませて、でも大部分はふて腐れた声音で私を呼んだ後、ちぃくんは汚れてない方の指先で――つまりは右手で、私の頬を摘んだ。

 「いひゃい」

 摘まれたまま私が痛みを訴えると、ちぃくんは拗ねた表情を崩すことなく続ける。

 「俺怒ってるのに。にやけてることちゃんが悪い」

 「らっへ」

 「だってじゃないよ、もう」

 そう言ってようやくほっぺから指先が離れた。

 摘ままれていてでも触れてた手が嬉しかった、なんて思う私はちょっと危ないかもしれない。

 でもやっぱり嬉しい気持ちが勝って、ニヘラと笑うとちぃくんはガクッと文字通り肩を落とした。

 「あーもー、やだ」

 ちぃくんは、いつかの時と同じようにあーもーって言って、私のポテトをまた一つ取る。

 やばい。

 こんな、拗ねモードのちぃくんが愛しい。そう思っちゃう自分がやばい。

 そっぽを向いたままポテトを囓るちぃくんに、私は一本ポテトを握って差し出す。

 そして……

 「許して下さい。何でも言うこと聞きます」

 前にちぃくんがした仕返しをすると、上目づかいにチラリとちぃくんを見上げた。

 「何でも?」

 疑わしげに半眼で私を見てちぃくんがそう言うけれど、すでに顔が笑ってるから、私の方もすっかり笑顔に切り替わる。

 「何でも、です」

 「許す」

 笑顔の私を受け止めると、ちぃくんはそう言って私の持つポテトを取り上げ、一口で食べた。

 「美味い」と漏らしながら、「何してもらおうかなー」なんて嬉しそうに、企み顔で私の手を握りしめながらちぃくんは言った。


 ポテトを食べ終えて駅へ向かう道中。

 ちぃくんはいつものように、私の手を右手で握りしめてゆっくりと歩いてくれる。この時間が一番好き。

 そう思いながら黙って歩く私の横で、先ほどの話題を蒸し返した。

 「あの、そんなに期待されても困ります、よ?」

 調子に乗って『なんでも』なんて言ったけど、自分に出来るなんでもなんてしれている。

 それなのにちぃくんが嬉しそうに言うから、ちょっと怖くなってきて思わず牽制した。

 すると、ブッと吹き出しながらちぃくんはクスクス笑った。

 「あーんなこととか、こーんなこと。お願いしようかなぁ-、ことちゃんに」

 なんてニヤニヤしながら私を見て言う。

 むー……なぁんか、遊ばれてる!

 って思うけど、相変わらずスキル差がありすぎて私は言い返すことが出来ない。

 うぅって怯んで、そっとちぃくんを見上げて、目が合うと慌ててバッと逸らした。それにまたクスクス笑われて、もうお手上げって思ったら、ちぃくんは何でもないように、その中身を悟らせないような軽さで、ぽんと一言告げた。

 「ことちゃん、5月5日。空けててよ」

 その願いに何が込められているか想像が膨らまず、おうむ返しに「5月5日、ですか?」と尋ねて見上げると、小さく首を傾げて尋ねられる。

 「うん、駄目?」

 その言い方が可愛く思えて……というより、私がちぃくんのこの願いをNOと言えるわけがない。

 「大丈夫です、空けときます!」

 胸の前でぎゅっと拳を握って、強く返事をすると「やった」って、心底嬉しそうに喜ばれた。

 でも……何があるんだろうか?

 「何かあるんですか?」

 前もって日を決めてから会うことがあまりなくて、今さらながら不思議に思って尋ねる。けれど、ちぃくんはにぃっと口角を上げて、また企み顔だ。

 「んー。内緒」

 人差し指を口元で立てながら、ちぃくんはにやりと笑って内緒と告げた。秘密って言われると無性に気になる。

 「教えて欲しいです」

 「だめ-。ことちゃんには秘密です」

 「えぇー! けちだっ」

 そんな戯れ言を言い返せるほどには、少しずつ縮まってきている距離。

 それでもやっぱり、5月5日について何もピンと来なかった。

 「まぁ、お楽しみに? ってコトで」

 「……はぁい」

 渋々頷くと、ちぃくんはホッとした顔をした。

 なんだろう? と少し気になりつつも、もうその話題には触れないことにして、話しこみ過ぎてうっかり止めてしまった歩みをまたスタートさせた。

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