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「じゃな、池波」
「ばいばーい」
モッカが手をあげて別れを告げるのに対して、私は手を振って二人を見送った。
なんだか自分までこそばゆい。
なんとなくにやけそうになる頬を引き締めるべくペちっと叩くと、鞄を持って教室を出た。
まだ明るい日差しの中一人で帰るのはちょっと寂しいけど……でも、なんだかわくわくが止まらない高校生活だって思う。
手持無沙汰になって、携帯をポケットから取り出して見ると着信があることに気が付いた。
――メールだっ
嬉しくなって、急いで開いてみると
『講義疲れたよー』
って、そんな何気ない内容が届いていて、私はふっと笑んで電車に乗りこんだ。
帰りの電車の中、自分は今は一人だけれど、でも一人じゃない気持ちに満たされながら、嬉しさを隠せない表情で返信のメールを作成した。
――――――
「え、マジで?」
2週間ぶりにちぃくんと会って近況を報告しあっていたら、ちぃくんにそう言われた。
私自身、マジで? なことだから、そう言われても不思議ではないし、むしろそう言う反応が返ってきたことが嬉しい。
にんまりと笑いながら、私は喜びを隠さずに相槌を打った。
「マジ、です」
「へえ、そういうことってあるんだ。俺想像もしてなかったよ」
「ですよね。私もです」
照れ笑いを浮かべてそう言うと「でも、嬉しいかも」と、ニッと笑ってそんな風に返されたので、私も嬉しくなって『へへっ』て笑ってしまった。
何の話か、というと……私が生徒会に入ってしかも書記になったという話である。
あのあと真理亜とモッカはうまくいったみたいで、ぎこちないながらも二人のつきあいは始まった。元々、恥ずかしさからお互い罵り合っていたというか――な二人だから、素直になれないときも多いみたい。
でも、そんな二人だからこそ私も応援したいって感じる。
それで、なトバッチリというか……なんだけど。
中学校で生徒会長までしたモッカが、高校でも生徒会に参加する言い出した。まぁそう言いだすんじゃないかってのは予想の範囲内だったから、私はへらへら笑いながら
「へぇー頑張ってね」
なんて気安く応援してるって言ったんだ。
でもそこから予想外の事態が起きた。
いきなり真理亜まで「私もやる!」とか意気込みだしたからだ。
その上、なんと
「コトもやろうよ」
「池波もやろうぜ」
仲良くハモった声に誘われた、というわけだ。
必死の抵抗虚しく、息の合った二人ほど強いものはないと私はこの時知ることになる。まんまと徒会役員に立候補させられてしまったからだ。
それでも悠長に私が構えていたのは、落選するかもって思っていたからなのに……他に立候補がいなくて、ちゃっかり当選。
最早逃げ場はなくて、私は書記担当に就任してしまった。
真理亜は会計で、モッカは1年生なのに、2年生を押さえて副会長に就任してしまうという結果まで起きた。
そんなこんなで、つい先日まではちぃくんが担っていたというT高の書記担当を私はすることになって……そんな驚きの展開の始終を話した反応が、こんな感じだったわけだったりする。
「あれ、でも書記って大崎じゃなかったっけ?」
「あ、聡先輩は生徒会長なんです」
「え?」
私が答えると、ちぃくんがすっごく怪訝な顔をして『え?』と低い声で言った。
一気に機嫌が悪くなった、ような……?
それが怖くてビクッと少し震えながら、恐る恐るちぃくんを見上げるとなんだか釈然としない表情を浮かべている。
向かいから発されている冷気が怖くて、私は見上げるのを止めて目の前のポテトを1本つまんで囓った。
「琴莉さ」
「……ハイ」
突然、琴莉と呼ばれて小さくハイと答える。
加えたポテトを指先でかろうじて摘んで、落とさずにそっと置いた。なんとなく、片手間に聞いてはいけない予感がして。
「大崎のこと、聡って呼んでるの?」
まだまだ低い声でそう続けられて、私はドキドキしながら口を開こうとしたけれど、うまく言葉が出てこない。
だって、こんなちぃくんは初めてだ。
どうしてこんなに怖いのか分からなくて、ぎゅっと指先を握り込んでから、もう一度閉じそうな口を開いてゆっくりと説明をした。
「あ、えと。聡先輩、が。みんなにそう呼べって言ってて。あのみんなそう呼んでるんですっ、けど……」
多分、だけど私が下の名前で会長のこと呼んだりしたのがまずいんじゃないだろうかって思って、みんなも呼んでると付け加えた。
実際、本当のことだし……私には、そのことに深い意味はないんだけど。そんな言い訳を心の中でしながら、チロリとちぃくんを見ると、私のことをじっと見つめてたみたいで、思い切り視線がぶつかった。
その目力があまりにも強すぎて、私は視線が外せない。




