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家に着いてから、初めて送るちぃくんへのメール。
ドキドキしながら震える指先で送信ボタンを押した。
『今日はありがとうございました。
無事、家に着きました。
ちぃくんと一緒にいると、本当に楽しくて、幸せです。
やっぱり、大好き、です』
初めて……ずっと言えなかった思いを口に、いや、正確には言葉にして出した。
――あぁあっっ、送っちゃったよ~~!!
大丈夫かな?
どうしよ、どうしよ!?
送ってしまった今となってはどうしようもないことは十分に分かっているのに、ちぃくんに初めて送ったメールの余波が激しい。
どんな返事が返ってくるんだろう。
そう思って、手に汗をかきすぎて携帯を落としそう……と思ってタオルで手を拭いたその時。
ピピピピピッ
携帯が鳴った。
しかも――コレ、電話の着信!?
パニックを起こしそうになりながら、アワアワして携帯を見ると相手は「神楽千歳」。
もちろんちぃくんだ。
初めてのメール送信と同じくらいの緊張感を与えるその着信に、心臓が飛び跳ねそうになりながら受話ボタンを押した。
「もしも」「こらっ、ばか琴莉!」
もしもしを言う前に、初めての電話で怒られた。
と言っても茶目っ気たっぷりな言い方で、だけど。
「ち、ちぃく」「こんな大事なことメールで言うんじゃない!」
と、さらに続けて怒られる。
ううう、そんなに怒らなくたって。でもそのあとに……
「ぷくくっ、ほんと、ことちゃんには参る」
そう笑いながら言われた。
なんだか訳わかんない。
「このメール、永久保存しとく」
ふんわりと優しい声でそう言われたから、私は恥ずかしくなって一人で顔を赤くした。
終始黙ったままの私に「ことちゃん?」と不安げな声が聞こえる。
私は、何か返事しなくちゃってただそれだけで、急いで慌てて返事をした。
「だ、大丈夫、ですっ」
でも、慌てすぎて意味不明な返事をしたせいでまた笑われた。
くすくす笑った後、ぴたりと笑いを止めたちぃくん。
どうしたの? そう思って耳を澄ますと
「琴莉――好きだよ、やっぱり」
私のメールの文面を少し弄った返答に、私は今度はしゃがみこんで赤面した。
とてもじゃないけど、自分の体が支えられなくて、ふわふわした。
電話の声は永久保存できないから、私は一生脳裏に残るように保存しなくちゃ。
電話を切った後も何度も何度もちぃくんの声をリプレイさせて、またひとりで
「うきゃーーー」
って叫んで、ベッドにダイブした。
初めてのデートに。
初めてのアドレス交換。
初めてのメールに、初めての電話。
全部、全部が初めてで。
全部がちぃくんと私の二人のものだった。
私は最高に幸せを感じていた。
――――――
「おはよう!」
始業式の日が来た。
クラス分けで見事同じクラスになった私と真理亜は、麻生と池波で机も前後だ。幸先がいいって感じる。もちろん、幸先の良い一つは朝から届いたちぃくんのメール。
『頑張れよ』
それだけなんだけど、なんかそれがちぃくんの言いたいこと全部含まれてる感じがして、朝からニヤニヤした。
そんな私を弟に見られて 「姉ちゃんキモイ」と一言ぐっさり。そんな弟のほっぺを抓ってたらお母さんにバレて怒られるというオプション付き……だったけど。
朝の回想はさておきとして、真理亜を見るとなぜかそわそわしていた。
そりゃあ初めての学校だしドキドキするけど、いつも私より落ち着いてる真理亜らしくなくて首を傾げた。
「どしたの?」
「あ、う、うん―――」
真理亜らしくない、よく分からない回答だ。
そうこうしてるうちに、新入生はこっちから体育館に行けって指示されて、私たちは話もそこそこに席を立つことになった。
「コト……ちょっと時間、ある?」
そう真理亜から切り出されたのは、始業式も終わって担任の先生の挨拶やらなんやらがすべて終わって。もう帰りましょうってなったころだった。
今日の真理亜はずっとぼんやりしてて、私が話を振っても生返事ばかりだ。
この間、ちぃくんに会った後のことなんかも問いただされることなく……ちょっとつまらなかった。
だから、真理亜がそう切り出してきて、いよいよ何か言ってくれるのかなって思ったらなぜか緊張してきて、ごくりと唾を飲んだ。
「いい、よ? あ、じゃあ言ってたアイス行ってみる?」
「う、ん。そだね」
地元の駅前にできたアイスクリームショップ。
中学に通ってるときは通ることもなかったんだけど、高校生になって電車通学をしだすといろいろなものが目に入ってきて、気になるお店の一つがそこだった。
入学式の後は一緒に行けなかったから、学校始まったら行こうって言ってたそこは、私と真理亜が一番狙っていたところでもある。
それなのに、やっぱり反応は薄かった。
今日は残念なことに、ちぃくんも用事があるみたいだから会う予定もないし、私も二つ返事でOKを出したけれど。
――一体、真理亜はどうしたんだろう……?




