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受け取ったものの、ちぃくんに要求したいお願いなんてない私はうーんと唸った。
正直、一緒にこうやっていてくれるだけで幸せで、話できるのが夢みたいで。
だから、これ以上なんにもいらないんだけどな――そう思った瞬間。
とっても大事なことを思い出した。
紙ナプキンで指先をきゅっときれいに拭くと、真新しいピンクの機体を鞄から取り出す。
入学祝いに買ってもらった『携帯電話』だ。
「こ、これっっ! あの、電話! 教えてくださいっ」
自分から携帯番号教えてって言うのすっごく恥ずかしい。
でも、どうしてもちぃくんを1番に登録したくて、私はずっと「1」を登録せずに空けていた。
「持ってたの?」
びっくり顔でちぃくんに尋ねられて、照れながら答える。
「入学祝いです」
「それ、俺の方が聞きたかったよ」
クスリと笑ってちぃくんはズボンのポケットに手を突っ込むと、黒のメタリックな携帯を取り出した。
「赤外線、分かる?」
「はい、多分。あ、あのねっ」
「ん?」
まだ触って間もない私は、困ったことに気が付いた。
「1番に登録したいんですけど。その方法が……」
「大丈夫、出来るよ。ってか1番? 空けてるの?」
「はいっ」
満足げに胸を張って答えると、ちぃくんが申し訳なさそうな顔をする。
「そっか。いいの、俺で」
「ちぃくんのための1番です」
私が胸を張って強く頷きながらそう言うと、手が伸びてきてくしゃりと髪を撫でられた。
この手は凄く温かくて好きだ。
「ばか」
初めてちぃくんに暴言を吐かれたけど、嬉しかった。
ちぃくんの顔が照れ臭そうだったから、そんな表情も初めて見られてなんだか幸せだ。
ちぃくんに教えてもらいながら、無事1番に登録して私は満足した。けれど、なぜかちぃくんは落ち込んだ表情をしている。
無事に番号交換できたのに、どうしたんだろう?
「どうしたんですか?」
「うーん、俺さ。1番は家なんだよな。2が母親で、3が父親で。最後になったら93番とかでさ。微妙じゃない?」
めっちゃくちゃ悩んだ顔をして、ちぃくんはひたすらアドレス帳とにらめっこしているようだ。その表情が本当に困ったって感じでおかしい。
「いいですよ、なんでも。私が勝手にこだわっただけなんで」
そう言いながらも、同じように感じてくれたちぃくんのその気持ちが嬉しくてホッとした。
ところが私がそう言った瞬間、ちぃくんの顔が輝いた。
――? 何?
「ふっふ、やったね」
なぜかちぃくんはピースしていた。
なぜ??
「どうしたんですか?」
「0番があった。俺の勝ち」
そういってピースしたまま、人差し指と中指を2回折り曲げて、すっごく嬉しそうな顔で私にニカって笑ってくれた。
それがなんだか可愛くて、私も笑いが込み上げてくる。
「ふふっ、負けましたね」
また顔を見合わせて、どちらからともなくまた笑った。
ちぃくんとの何気ないやり取りが、私は本当に好きだな――って、この時改めてそう思った。
結局、携帯の番号もアドレスも知りたかったのはお互い様って言われてまたちぃくんにせっつかれた私は、また新たなお願いを要求された。
「じゃ、じゃあ。今度は映画見に行きたいです」
悩んだ挙句、王道デート候補1を挙げてみた。でもちぃくんは笑って言い返す。
「それ、俺も行きたいから一緒だろ?」
って。でも、そう言いながらも了承してくれた。
「あー。もっとすっごいおねだりされると思ったのに」
なんてちぃくんが言うから、ケラケラ笑ってしまった。
すっごいおねだり……私にはスキル不足だな、って思って。
手をつないで駅まで歩くともう夕方で、ちぃくんと過ごす時間はあっという間だった。
それがとっても寂しい。
「気を付けて帰れよ」
ポンと手を頭の上に乗せて言うちぃくんを見上げて「はあい」と答える。でも、離れることがすごくさびしい。
最後にきゅっと握りしめてから離された手。
それが、ちぃくんも離れたくないって思ってくれてるんだと感じ取れて嬉しかった。
「家、着いたら連絡して」
ちぃくんが携帯を手に持って振るから、改札を通ってしまった私は無言だけれど笑顔で頷いた。
家路の心配をしてくれてると思うと、心がほっこりする。
早く、早く家に着いて、初めてのメールをしたいな――そう思うと、電車が早く来るわけでもないのに、訳もなく階段を駆け上がった。




