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これで、帰るなんて、やだなぁーって思ったその時。
「ハンバーガー、好き?」
言いながら差し出されたちぃくんの右手。
「えと、好き、です」
「じゃ、行こう」
「え……?」
「昼飯。デートっぽくない?」
そういって照れくさそうに笑うちぃくん。
――良かった、離れたくないって思ってたの、私だけじゃなかったんだ。
分かったらうれしくて、私は二ヤけた顔を締められないままにきゅっと手を握って強く答えた。
「思い、ますっ」
自習室と公園、それ以外の初めての場所。ちぃくんとの初めては、どれも新鮮でワクワクする。
初めて、ちぃくんとおにぎりを食べたことを思い出せば良かった……と思ったのは、実際に購入して席に着き、バーガーを包む紙を外した時だった。
――食べてる姿見られるって恥ずかしいこと、忘れてたっ!
ハンバーガーなんて、最高に大口を開けて食べなきゃいけないうえに、ソースとかが横から零れかねない代物で、上品に食べるなんて概念は全くと言っていいほどにない食べ物。
しかも私が選んだのは、大きなレタスが数枚混入されているという、一見ヘルシーだけど、千切ることなど不可能というもっとも手ごわい敵だった。
ど、どうしよう……
自分で自爆した、って心底落ち込みながら、恨めし気にバーガーを睨むと、がぶっと大口を開けて食べるちぃくん。
「いただき~……あ、これ旨いわ」
新商品の味噌カツが挟まれているらしいバーガーを感動の表情で、食べている。
――お、おいしそ。
自分の手元から発せられる匂いと、目の前の嬉しそうな表情のちぃくんを見ていると、自分のお腹もきゅうっとなりそうな雰囲気を醸し出し始めた。
食べるしか、ないよね。
意を決して小さめに口を開いてかぶりつこうとするも、やはりバーガーが入りきらない。むっとシカメ面をして、もう少しだけ口を開けるとようやく入りそうな感じがした。
よし、このまま食べよ。
あ、でもちぃくんにはあんまり大口開けてるのは見られたくないから、少しだけ下向こうかな。
必死だった。本気で。
だから、2口目ですでに半分を食べ終えているちぃくんが、私を見ていたなんて全く気が付いていなかった。
これぞ本末転倒、なほどに。
ようやく自分なりに精いっぱい小さな口で、やっとの思いで一口目を流し込んだ私はその感動にガッツポーズを心の中でして、喜ぶ胃にオレンジジュースを流し込んで笑顔を浮かべた。
おいしいっ!
ふぅっと息をついてまたバーガーを見つめる。
よし、2口目……!
と勢いをつけてかぶりつこうとした瞬間、くすくすと笑い声が正面から聞こえてきた。
「ことちゃん、どうしてそんなに面白いの?」
言いながら、ククッと小さく肩を震わせているちぃくん。
笑い声の犯人だ。
お、面白い……!? 何のこと!?
いっぱいいっぱい、ハンバーガーと格闘していた私は、ちぃくんの笑いのツボが分からなくて「?」を頭に飛ばしながら首を傾げた。
「ち、、ちぃくん……?」
「ふくくっ、いや、なんでもない。ごめっ、くっくっ」
「??」
なんだか収まりがつかないほどに笑い始めちゃったちぃくん。どうやら理由を話せる状況にはなさそうだ。
よし、今のうちに食べよっ。
私はちぃくんの目が自分にないうちにと、先ほどよりも幾分か大きめの口を開けてがぶっとかぶりついた。大きく口を開けて食べたら、さっきよりおいしい気がして目を見開いた。
お腹空いてたしやっぱりおいしい。
自然と表情が緩んで、口端にはみ出たソースを舌でぺろりと舐めた。
「しかも、食べてるしっ。あーもー、ほんとことちゃん、いいわー」
そう言ってちぃくんの笑いはまた一瞬盛り上がって、それからようやく落ち着きを見せ始めてくれた。う、あ……み、見られた?
「私、ですか?」
「そうだけど?」
笑いの元凶が私かと尋ねたら、また笑いのスイッチを入れてしまったようだ。
それがなんだか意味不明で少し唇を尖らせると、ちぃくんは優しい顔を浮かべながら首を少し横へ倒す。その表情は穏やかそのもので温かい。
「ごめん。ことちゃんが可愛いすぎた」
「そんなこと、ないです」
でも私にはそんなちぃくんがちょっぴり不満で、少しだけ拗ねながらハンバーガーを口にした。




