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――一体、何?
「お願い、ことちゃん」
わざとらしく、両手を擦り合わせて拝まれた。
うぅう……
「1回、だけだよ?」
「十分っ」
そう言って、犬が尻尾振ってるみたいな笑顔を見せたちぃくんは私を凝視した。
「じゃあ」
そっと周りを見回すと、以外にも桜並木から離れてるせいか人がいない感じがする。
よし。
すこしだけプリーツが広がる感じでくるりと回る。ゆっくりって言われたけど、そんなことやっぱりできないし。モデルじゃないしっ。
タン
と音を立ててターンを終え、恥ずかしくて前髪を縦に梳きながら弄った。
は、ずかし、ぃ……
この恥ずかしさを一人だけで噛みしめたくなくて、トタトタっとちぃくんの元に駆け寄った。
すると、そっと横にずれて私の席分を空けてくれた。前は向かいに座ったのに、グッと近づいた距離。それが嬉しくて、恥ずかしくて小さく笑って座った。
「あれで、良かった?」
「うん」
「あの……何のため?」
人前(いや、見渡す限りいなかったけど)で、あんなことさせたからには理由があるはず。
そう思って聞くと「やばい」って言いながらちぃくんは、両手で顔を覆って俯いた。
???
ちぃくん、おかしいよ……?
そう思っていたら
「その姿、俺が居た時に見たかったな。俺のって言いたかった」
「ふへ??」
『俺の』なんて言われてドキドキが止まんなくて、意味分かんなくなって。
心の中でひゃあああぁって叫びながら首筋まで真っ赤になって俯いた。
熱くなり過ぎた顔を両手で覆う。
ちらりと指の隙間から横を見れば、ちぃくんはもう顔を上げていて左ひじをテーブルについて、体をこちらに向けていた。じっとこちらを見つめる視線を感じて、私はピシッと指の隙間を閉じた。
「後1年でいいから遅く生まれてたら、一緒に通えたのに。残念」
そっと手を顔の前から退けると、包み込むような笑顔で私を見つめて、しゅんと残念そうな顔をするちぃくんがいた。
「もしかして、制服、見てた?」
やっとちぃくんの妙な提案の意図に気がついた私は、そおっと顔を上げてちぃくんをチラと見る。
「うん」
当たり前だろって顔で頷かれて、私の方が恥ずかしい思いをした。
――言ってくれればいいのに。
そう心の中で突っ込みながら、反面、制服姿を見たいと思ってくれた気持ちが嬉しかったりもした。
ちぃくんがこの間まで、3年間見続けてきた制服。それと同じモノを私が纏ってるから、面白味もないし、興味もないと思ってた。
なのに……
「どう、ですか?」
今さらでおずおずと尋ねると
「ことちゃんが一番」
恥ずかしげもなくそう言うから、私の方がやっぱり恥ずかしくなってしまった。
「ちぃくんも……カッコいい、よ?」
「俺? 俺なんかどうでもいいよ」
私もちぃくんに自分の想いを返すと、拗ねてしまった。尖らした唇がちょっと可愛いなって思う。
言えないけど。
でも、今日のちぃくんは大学生になったって感じで、カッコ良かったのはほんと。
黒の綿パンに、Tシャツ。足が長く見える。気のせいかな?
上にチェックの青シャツを合わせてて、胸元にはいつものロザリオ……
――ん?
「変わったの?」
思ったまま、口に出して尋ねてしまっていた。
「え?」
突然質問を繰り出した私の言葉に理解ができなかった様子のちぃくんは、私を見つめ返す。
「えと、あの、コレ」
右手の人差し指でちぃくんの胸元を指すと、ちぃくんは自分の胸元へと視線を落とした。
「あー、これか。よく気づいたね」
「へへっ。前のよりちょっと可愛らしい気がしたので」
「母さんが、こっちにしてくれって」
「お母さん、ですか?」
不思議な反応に違和感を感じて尋ねると、ちぃくんはこめかみをポリポリと掻いて答えた。
「モデル……とは言わないんだけど。イメージのために利用されてるというか」
「ん?」
「まぁ、仕事の関係でつけさせられてるんだよ」
「う、うん」
「じゃ、行くか」
よくわからないけど、とりあえずちぃくんの好みではないらしいことは分かって、気持ちを切り替えて私も立ち上がった。
微妙な反応のちぃくんにこれ以上突っ込むのもどうかと思うし……
今日は最初におにぎりはないって言ったから、ここで食べることもなくて。
やっぱり作ればよかったかな? って少し後悔……かも。




