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おにぎりを食べ終わった後、ちぃくんの大学合格通知を約束通り見せてもらい、おめでとうを伝えた。
そして私は、ポケットに入れたままのお守りと……ボタンを見せた。
「ボタン、御利益あった?」
「とっても!」
可笑しそう笑いながら問いかけるちぃくんに、私は満面の笑みで答えた。するとニコリと返すちぃくんの笑顔が、初めて自習室で見た時の笑顔と重なって、ドキドキする。
そんなドキドキを抱えながら、学校で待つ真理亜を待たせたままにするわけにもいかず、おにぎりを食べてから駅までの道のりをゆっくりと歩いた。
もちろん、左手はちぃくんと繋がったまま―――
『次は入学式に迎えに来るよ。いい?』
そう言われて、コクコク頷くとちぃくんはおもちゃみたいだと言って笑いながら『またな』と言って、去って行ってしまった。
最後にキュッと繋がっていた手を握りしめてから左手が離された。
離れてもなお左手が熱くて、右手でギュッと握りしめる。
温もりが逃げて欲しくなくて閉じ込めるように……電車に乗ってから、恥ずかしいけど温もりを失いつつある左手の甲に、まだ消えないでと願いながらキスをした。
――――――
離れていた時間、連絡手段がないことが当り前の状態で始まった私達。
だから私は、すっかりさっぱり「連絡先」というモノを聞くことを忘れていた。
……ということに、卒業したばかりの中学校で再会した真理亜に指摘されて気がついた。
「もぉー。コトはほんと、しっかりしてるか抜けてるか分かんないとこあるよね~」
呆れながらそう言われて苦笑いを浮かべる。ごもっともだ。
自分でも、どうしてそういうことに頭が回らなかったんだろうって思うけれど、そう思わせないほどごく自然にちぃくんが迎えに来るって言ったから仕方ない。
「まぁ、次でいいよ」
「いやいや、そうだけどさぁ?」
「大丈夫、ちぃくんだから」
「はぁー。信頼と言うか何と言うか……」
ため息を盛大につく真理亜を余所に、ウキウキの止まらない私。
そもそも、中学生の私は『携帯電話』を持っていない。
いらなかったし、中学生には必要ないだろうって言われ続けていたし。
でも……
「携帯、欲しいかも」
ポツリとそう漏らす程度には、後悔していた。
連絡先を聞かなかったことを。
ここで漫画とかだとすれ違って彼に会えない……なんて悲しい展開を迎えるんだろうけど。
私とちぃくんに限っては嬉しいことに、そんな展開は起こる事はなかった。
「待ってた。おめでとう」
ふわりと笑うちぃくんは、正門前でごく普通に私を待っていた。
卒業した以上、ちぃくんは中には入ってこないだろうし、こないだ通った門にいるんだろうなって予想は正しかったみたい。
当たり前に佇むちぃくんに笑みを漏らすと、すっかり忘れてた真理亜が
「初めまして-! 麻生真理亜と申します」
と、ニヤニヤしながら挨拶を始めたので、慌てて緩んだ頬を引き締めて真理亜を見つめた。
でもテンパってたのは私だけで……
「こんにちは。神楽千歳です」
私の友達が突然挨拶を始めたにもかかわらず、それを不審に思うこともせずちぃくんは丁寧に受け答えしてくれた。
優しい人だろうって分かってはいても、私はまだまだちぃくんを知らない。だから私の大事な真理亜にも丁寧に対応してくれたちぃくんにホッとして、そしてそれが嬉しかったりする。
「お噂は聞いてます。コトは私の1番大事な友達です。泣かせたりしたら……私が怒りますよ?」
キリリとちぃくんを小さく睨む真理亜。
「それは大変だな。鋭意努力するよ」
ちぃくんはハハハって笑いながら笑顔で答えた。
その光景を私はハラハラして見ているのに、当の二人はそうでもないらしい。
「じゃあお邪魔虫は退散です。じゃね、コト。……と、ちぃくん?」
「ははっ! またね麻生さん」
なんともあっさりした会話で話を締めて、別れの挨拶を申していた。
私の方が一拍遅れてその会話に追い付く。
「真理亜、ごめんね-」
慌ててそう呼び掛けると、ひらひらと手を振られた。
手を振る真理亜の後を追う男の子が居たのを私はすっかり見落としながら、高鳴り始めた心臓を胸にようやく落ち着いてちぃくんを見上げた。
「いこっか」
ごく自然に手を差し出されて、熱を帯びる指先をそっと差し出す。
それにゆっくりとちぃくんの右手が絡められて、ぎゅっと握りしめられた。久しぶりに指先から伝わるちぃくんの温もりと……横に立っているその姿にドキリとして、私は俯く。
なんだか、カッコいいんだもん。ちぃくん。
キュッと手を握り返して歩きはじめると、ちぃくんは私を見てふわっと笑顔を浮かべながら私に尋ねてくれた。
「前に行った公園。あーっと図書館のほうね。あそこ行こうと思うんだけどいい?」
「大丈夫です!」
ちぃくんとお出かけ……それだけで幸せで私は満面の笑みを浮かべて返事をした。
そんな私を見てちぃくんは照れたように笑う。
「桜、見ごろだよきっと」
そしてキュッと手を握り返してくれた。
――大好き。
気持ちが溢れてきて、思いを込めてちぃくんを見上げてしまう。
「ん?」
不思議そうな顔をして見返されたから、私は慌てて顔を正面に戻した。
まだまだ恥ずかしくて、顔を合わせると赤面しちゃう。
繋がれた温もりだけを頼りに私は黙々とちぃくんについて歩き、二人で一緒に初めてのデートへと繰り出した。




