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ベンチでいつものように私は右端に座って、真ん中に荷物を置こうとすると、横からちぃくんの指導が入った。
「ブッブー。ことちゃん間違いですっ」
「ふぇえ?」
唇を尖らせてちょっと作った怒り顔を見せるちぃくんは、私をじーっと見るだけで、何が違うか言ってくれる様子はない。
う……なんでなんで?
私、何が間違い??
恋愛初心者の私は、ちんぷんかんぷんのあまり、涙が滲みそうになる。
さっきのジュースといい、今といい。
私、ちぃくんの求めてることがちゃんと理解できてない。
可愛く、ないよね――
キュッとプリーツスカートを握りしめて、足先を見つめると
「左手、出して?」
って声が降ってくる。
少し顔を上げると、困った顔のちぃくんが私を見ている。首を傾げて、なぜなんだろうって考えてたら、ちぃくんの右手が私の左手を包んだ。
「俺と居る時は、ことちゃんの左手はここって言っただろ? それなのに荷物が真ん中にあったらじゃーま」
私の荷物を持ち上げてから私の体を引き寄せると、右端に荷物を追いやって、ちぃくんの真横に私は座らされた。
「ん。これでよし!」
親指をグイッと立てて、笑うとちぃくんはその手を私の頭に持ってきて、わしゃわしゃ撫でた。
「ひゃっ」
久しぶりの頭グリグリに私はまた、かぁあっと顔が赤く鳴るのを感じる。顔が赤くなったり、心臓がバクバク言ったりで、今日1日でわたしの体はおかしくなりそうだった。
だけど、ちぃくんはそのまま私の髪を整えるように撫でつけると嬉しそうに尋ねてきた。
「今日は何?」
いつもみたいに……犬に例えたら尻尾振ってるみたいな表情で、私が持っているであろうアレ、つまりはおにぎりを催促し始めた。
やっぱり作って良かった。
にやける表情を押さえられないまま、私は仕方なくちぃくんの手を離して、鞄からおにぎりを取り出した。
「今日は、鮭にしました。ごめんなさい、2つだけで……」
「なんで? 俺のために用意してくれたんだろ? これで十分」
ニッと嬉しそうに笑って、鮭おにぎりをギュッと握りしめるちぃくん。
本当に嬉しいんだってよく分かる。
それが嬉しくて私の顔も綻ぶ。
アルミとラップを剥がして、いつものように「いただきっ」というと、ちぃくんはガブッと勢いよくかぶりついてた。
「フフッ、ちぃくんホント好きなんだね」
「ん? んまいよ」
今日一番の笑顔を見せてくれる。
それを見ると、さっきの不安な気持ちが流れていくみたいに感じた。
もちろん、すぐそばで温もりを感じるせいでもあるけど……
ちぃくんの顔をじっと見つめていると「食べる?」って勧められて、恥ずかしさに俯いて頭を振った。
絶対にわざとだ。
前に間接キスって言ったの、分かってて言ってるし――
ぷぅっと小さく頬を膨らますと、右手の人差し指でプスッと刺された。
「こーとーちゃん。怒んないで?」
弱った顔をして言うちぃくん。
だけど、こんな時の引き際が分からない私は複雑な表情を浮かべてしまった。
すると……
「コレ、1個ずつにしよ?」
そう言って私が渡したおにぎりのうち、一つを私の左手に乗せた。
けれど私は戸惑ってしまって、それを上手に受け取ることが出来ない。だって、お兄さんのためだけに作ったモノだから――それこそ、気持ちは複雑だ。
だけどちぃくんは、そんな私の気持ちなどはお見通しで……
「一緒に食べた方が美味い」
ニッコリ笑って、おにぎりごと私の手を握った。
「ひゃっ」
まだまだスキル不足の私は、突然ちぃくんに手をギュってされただけであわあわしてしまう。
小さく声を上げた私を笑顔で見て
「今日は温かい」
って、私の手をギュって握ってから離した。
……ちぃくんの手も、温かいよ。
心の中でそう答えながら、アルミを剥いでラップを取った。
「いただき、ます」
小声で告げてから、自分で作った鮭おにぎりにかぶりつく。
「おいし」
ちぃくんの言ったみたいに、一緒に食べるおにぎりはいつもよりもずっと、ずーっと美味しかった。




