22
――2月。
併願申請していた私立高校の受験日が来た。
とても寒い日で、路面は凍ってるし公共機関にも影響が出てるとかで、それはもう大荒れの日だった。
お兄さんのお陰で万全を期していた私は、鼻水ひとつ出ることなくピンピンした体でその日を迎えたのだけれど……
「この天気には、やられそうかも」
流石にぼやいてしまう。
ここから駅まで歩いて、そっからまた受験校まで行ってって、そんな想像をしただけでぐったりする。
空模様を見ながら、すっかり気が滅入っていた私に背後から現れた父が、神の声を響かせた。
「だーいじょーぶぅー! 父さんが送ってくよぉことちゃぁあん」
「ほんとに!?」
いっつも私の邪魔ばかりすると思っていた父が、奇跡のような提案をしてきた。
「あったりまえだろ? 娘の大事な試験の日に、何かあったら俺はご先祖様に顔向けできん!」
「え? そこ!?」
「どこだ!?」
「いや、うん。いいんだけどね。ありがと」
「おうおう、礼には及ばん」
ドンっと胸を叩いて、誇らしそうな父。
ちょっと不安いっぱいだけど……今日と言う日には有難い助けだ。
「いってきます」
硬い表情で、受験票を持ったことをしっかりと確認して母にそう言うと微笑みながら温かい言葉を送ってくれた。
「大丈夫よ、あなたなら絶対」
温かな母にぎこちない微笑み返しつつ、それでも何とも言えないモヤモヤを抱えながら私は家を出た。
だって――こっちに受かったら、本命の公立落ちちゃうかも、なんだもん。
塾の先生はどっちかは受かるだろうなんて言うから。その言葉が頭にぐるぐるして、不安が募る。
暗い表情のまま車に乗り込むと、お父さんはやけに張りきっていて、今にも頭に鉢巻きなんかを巻きださんばかりの勢いだった。
「いいかい、娘よ」
「ちょ、何キャラ!? お父さん」
「ゆくぞ!」
「お願い! 普通でお願いっ」
「GO----!!」
父の勢いは止まることを知らず、運転も見事にスリリングなものだった。と感じたのは私の気持ちの問題かもしれないけれど。
とにかく、スリリングすぎて着いたころにはとてつもない安堵の波が広がった。
「着いて、よかった……」
普通に行った方が、数万倍も安定した心地で行けた筈だ……と心の底から思いながらも
「ありがとう、お父さん」
礼を言った。
もしかしたら、もしかして、だけど。
お父さんなりに私の緊張をほぐすためだったんじゃないか? と長年の付き合いで気が付いている。
だから、小さい声になったけどしっかりとお礼を言った。
もちろん、道中に凍結注意の表示を見て「滑ったらどうしよ~」とか言った時には、殺意が芽生えたけれど。
それもきっとわざにちがいないと思って、いや、思いこんで! ありがとうと言った。
「おう! ミッション、クリア―だぜ!!」
ブイ! とピースと共に白い歯を見せてキラキラと笑顔を送る父を見て、若干引き攣り笑いを見せながら、私は小さく手を振って校門を潜った。
――ミッション、クリアー……か。
そう思えば楽しいかもね?
父に変な励ましを受けて、私の初めての受験は始まった。
お兄さんからもらったお守りと、そして第4ボタンをポケットに忍ばせて――
とにかく前向きに、分からない問題はじっくりと、迷った時は授業を思い出せ……
塾の先生に言われたことや、学校の先生に教わったことなどを時々思い出しながら、慌てずに対応する。
私は、たくさん勉強してきたんだから、解ける筈。
そう、信じて。
自分を……信じて。




