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2月の私立受験の後は、教室に異様な空気が流れた。
うちの中学からは、高校受験をしないという選択肢をとる子はわずか数人だから、ほぼ全員が受験することになる。
まずは1月に推薦枠が決まる。次いで、県外で受験時期が早い学校。
そして2月の私立受験。ここまでで約半数が受験を終える。
……となると、私立受験後に勉強を続けるのも残り半分となるので、残りの受験組。つまり公立本命の人間は、終わって浮かれている子を隣に見ながら勉強を続けなくてはいけないわけで。
それは結構苦痛だったりする。
そして、私も例に漏れずそうだった。
私立受験後、やけに気力が落ちてしまって、鉛筆を手に持つのが億劫になっていた。まだ、やんなきゃいけないのに……本命はまだ始まっていないのに。頭では分かってても、なんとなく体が反応しない。
会いたいな――
お兄さんを思い出しながら椅子に座って、天井を見上げていたら気付かぬ間に弟が後ろに居た。
「ねぇーちゃんっ」
「わ、わぁっ!」
ワッと私の両肩に手を置く形で近づかれ、私の体はびくぅっと跳ねた。
「ちょっと! ビックリしたでしょ!?」
「あー、ごめんごめん」
「軽すぎる!」
一瞬怒りが起こった半面、久しぶりだなーこういう弟とのじゃれあいも……と思いだし、ふっと肩の力が抜けた。
「どしたの?」
「べぇつにぃー?」
何か用事がったから来ただろうに、それを誤魔化す弟の態度にクスクスと笑いながら、私は体を起こして弟の方に体を向けた。
「姉ちゃん、最近勉強してる?」
「いや……うん、しなきゃとは思ってる」
「なんだよそれ」
「なんか、気が抜けちゃった。ハハハ」
ハハハ、はぁ……と気が抜けて、がくんと項垂れた。
小6の弟にまでバレてるってどうなの? と思いながら。
「そうなんだ。まぁやりたくないときは、やらなくていいんじゃないの?」
「――ウン。そう、かな」
「そうだって」
なんだ、励ましにきたのか、と気がついて弟の優しさに心が綻ぶ。
ニッと笑うと、私に似た顔の弟もニッと可愛い笑顔を向けてくれた。
「そういえば、もうおにぎり作んないの?」
「うん? あ、あー……おにぎり、ね」
おにぎりと言うとすぐにお兄さんの顔が思い出されて、渋い顔になってしまった。それを見落さなかった弟は、すかさずなかなかのツッコみをしてくれた。
「姉ちゃんフラれたの?」
「ち、違うっ! ってか、あんたドコでそんなこと覚えてくんのよ!」
「そんぐらいの単語、俺だって知ってるしー」
「マセガキ」
肩あたりを小さく叩きあいながら、小さく頬を膨らませると弟に『姉ちゃん大人げねー』って笑われた。
小学生からそう言われる私って……と思いつつため息を吐くと、妙に弟が神妙そうな表情を浮かべた。
「いや、フラれたから勉強手につかないのかと思ってた」
「何? その恋煩い的な扱い」
「母さんがそう言ってた」
「お母さんの差し金か!」
「へへへ」
大人ぶった態度をとったりする弟だけど、結局はこんなもので。そう言う時に可愛いと思ったりするから、私も相当なブラコンだろうって思う。
はぁーっと言いながらも、弟に真摯に答えることにした。
なんか、誰にでもいいから気持ちをぶちまけたい気持ちに、なっていたせいだけど。
「受験ね、受かったら会おうって約束してるの」
「姉ちゃんの好きなやつと?」
「……う、うん」
好きな人、と他人から言われるとやけにドキドキして、耳に熱を持った。そんな私にはやはり気がつかない弟に安堵して見ると
「じゃあ、頑張んなきゃね」ってあっさりと、大事なことを言う。
うん、ほんとに……その通りだ。
「姉ちゃんが弁当迷ってたら、俺、また考えてやるからさ。頑張ってよ」
「ぶっ。分かった。ありがと」
「うん。じゃ、母さんに報告してくるわ」
「いやいや、しないでいい!」
「えー、ゲーム買ってもらうから無理!」
「ゲームで姉を売るなっ」
そんなこんなで、弟と絡みながら私はその日を過ごした。
久しぶりに馬鹿みたいに騒ぎ、お母さんやお父さんともいっぱい話をした。そうしたら、みんな私を心配してたのがス―っと伝わってきて、頑張らなきゃって思えた。
――そうだ。私の戦いはまだ、終わってないんだから。




