85.ビー、お風呂はいいよね。
お風呂はいいよね。
湯船に浸かると、へぁ~と声がでます。
* * *
ここは大地のマンション。見る者はいないのに、着けっぱなしになったテレビからは、地域の商店街に繰り出した若手お笑い芸人が面白おかしく情報を伝えている。そんな部屋で、ビーがちょこんとこたつの前で神妙な顔をしている。目は開いているのだが、半開きで、心ここに在らずの様子だった。ぽかんと開けられた口の橋には、少し涎が垂れている。見様によっては少し危ない状態である。可愛い女の子が少しぼんやりとしている姿に見えなくもないが。
今、ビーの中身は大地である。大地の頭の中のスーパーコアの増大により、変調をきたし、ツバイの調整を受ける為、体をビーと一時的に交換しているのである。この期を利用して、ドローンの操作の習熟 を行おうと言う訳だが・・・。
大地はドローンを飛ばして遠距離でのドローンからの映像受信テストをしている筈であったのだが、唯、ドローンが居るのが何処かの学校の女子更衣室と言うだけだ。
ドローンから送られてくる映像は、女の子たちが、がやがやと取り留めもない事がらについていろいろとしゃべりながら、テニスウェアから制服に着替えている最中だった。
大地にはその会話の内容は一つも理解できなかった。否、理解できたとしてもそんな事はここでは重要では無かった。彼女たちの姿にこそ集中して事に当たらなければならなかったのだ。ビーの可愛い口元から、涎が大きく垂れかかると、慌てて、手で押さえ、袖口で拭いている。ちょっと危ない女の子。ビーが見 たら怒る状態であるのは間違いない。
先ほどまで傍らで気配がしていたツバイも、今、ここには居ない。大地の体の方に意識が集中しており、大地は今、野放し状態だった。
時折、目が虚ろなビーから「うひひ」と声が発せられる。
遠くから鉄製階段をダダンダンダンッと二段飛ばしぐらいで、登ってくる足音が聞こえる。その足音が大地の部屋の前で止まった。そして、玄関の扉がガチャリと開かれる。
「大地、大地~、いるんでしょ~。見舞いに来てやったわよ」
そこに立っていたのは、これまた高校生ぐらいの小柄な女の子、背が低く、小柄な彼女は、一見すると女子高生と見られ勝ちであるのだが、大地の同僚の海である。歳は、あと数年で30に届く。相変 わらず、赤いファッションに身を包み、まるで唐辛子である、少し心境の変化でもあったのだろうか、彼女にしては珍しく、頭の上に、緑のベレー帽が乗っかっている。まあ、その辺りも唐辛子ちっくに磨きを掛けている。
ドカドカと、遠慮なく玄関に入ってくる。会社で大地が倒れたことを知って慌てて見舞いに来たのである。大地を憎からず思っているのは秘密である。周りには、バレバレであるが。
「あれ、大地どこ~、あ、ビーちゃん、大地は?」
ここで海は、目が虚ろなビーを見つける。もちろん、中身は大地で、今、覗きに夢中で気が付いていない。
(え、ビーちゃんの様子がおかしいよ?ど、ど、ど、ど~しよ~)
慌てた海は靴を脱ぐのもそこそこにし て、片足靴を履いたまま、ビーに駈けった。間にあるコタツの電源コードは目に入っていない。当然、足を引っ掛ける。お約束である。勢い変わらず、寧ろ加速しつつ、頭からビーに突っ込んだ。
「あ、うきゃっ、ひっ」
コタツの上にあったポテトチップス、オレンジジュース、テレビのリモコン、雑誌、その他と一体となって、ビーの上に降り注ぐ、少しビーの目が見開かれた。
大地の意識が戻ると辺りは、阿鼻叫喚、地獄絵図だった。オレンジジュースが入っていたコップは割れて飛び散り、頭からは、そのコップに入っていたオレンジジュースが滴っている。ご丁寧な事に、ポテトチップのふりかけ付きの念の入り様だ。コタツは海が突っ込んだ拍子に蹴飛ばしたのか、ちょっと離 れた処にひっくり返っている。どんだけ力を入れて蹴ったのだか。また、湯沸かしポットが横倒しになり熱湯がぶちまけられていたが、幸いな事に、だれも触れはしなかった。内面が外気に触れたことで温度が下がったと勘違いしたポットが、盛んに湯を湧かそうとじゅうじゅうと忙しない音を立てていた。
唯一、大地にとってラッキーだったのは、海がビーを庇ったのだろう、ビーの頭を胸元に抱え込むようにして、ぎゅ~と抱きしめ、守っていたことだ。
心地よい柔らかさが頬に当たっており、海の甘い匂いが鼻腔を擽る。大地は今の状況も忘れて、少しにへらっとした。
大地は海の胸元を凝視しながら考えている。海が突っ込んでくる直前、海が発した悲鳴で意識が戻ったのであ る。海が突っ込んできたことは認識できた。また、顔を少しでも動かすと、「あんっ」と言う艶めかしい声と共に、頬にあたっているふにふにした感覚は、海の胸であろうことも。
(さて、これはど~言う状況なんやろ。まあ、この感触は、うひひやけどな。うん、そやけど、ずっとこのままと言うわけにはいかんわな。しかし、海って結構胸あるんやね。でも、あともう少しこのままで、もう少し・・・)
大地のそんな夢見心地の状態もすぐに終わりを告げる。
「痛たたた、ビーちゃん、ビーちゃん、意識ある?怪我はない?よかったよ~、私、てっきり、ビーちゃんも大地と同じ様にど~にかなちゃったかと思ったよ~。あそうだ、大地!大地は?」
(ん、あ、そうか、俺の事 心配して来てくれたんや。とりあえず、ややこしくなるから、ビーのフリしとこ)
「ダイチくんはね、今、病院いってるの」
「え、そうなの?あ、ごめんね~、ちょっと、部屋、めちゃめちゃにしちゃったね。あ、動かないでね、ガラスあるから、ちょっと待ってね」
そお言いながら、勝手知ったるなんとやらで、ととととっと洗面所に入ってごそごそしたかと思うと、バスタオルを持ってやってきた。ぽんっとビーに渡す。
「はい、これで拭いてね。でも、ごめんね~。私、そそっかしいから、すぐトラブル起しちゃって」
もう一つ持って来ていたバスタオルをビーの頭に被せ、がしがしと拭いている。少し手荒い感じであるが、慮ってのことであるので 、大地は、されるがままになっている。
「今、お風呂沸かしてるから、ちょっと待っててね」
バスタオルを取ってくるついでに、風呂のスイッチまで入れて来たようだ。なかなか手際がいい。
海はビーの頭を拭いた後、散らかった割れたガラスを集め、コタツを直し、倒れたポットを戻したりで、せっせと掃除をしている。その姿をぼんやりビーが見ている。海は、そそっかしい為、良くトラブルを起こすのだが、起こす回数が多い分、その後かたずけにも手なれた様子だった。大地は感心しながらそんな海を見ていた。
「ビーちゃん、本当にごめんね~、でもさっきはちょっと驚いたよ~。ビーちゃん、目がなんか逝っちゃってたもん。だから、私、慌てちゃって」
「へへへ~、ちょっと、ぼ~っとしてたの~」
大地は曖昧な笑いで誤魔化した。まさか、女子更衣室をドローンで覗いていたとは言えない。ましてや、今、ビーの中身は大地だ、などとはとうてい言えるはずもない。
♪~。
暫くしてから、バスルームから風呂が沸いた事を教える音声案内が響く。
「あ、沸いたようね。ビーちゃん、ジュース被って、べたべたで気持ち悪いでしょ、行って、行って」
「う、うん」
ビーはのろのろとバスルームに向かう。まだ、裸になるのは、少し抵抗がある様だ。朝のシャワーでは結構楽しんでいたようだが。
そのビーの後ろから、海が付いてくる。洗面所に二人して入ってから、背後にいる海に気がついた。
「あ 、私も入ろうと思って、良いでしょ、女の子同士だしね。さ、脱いで脱いで、脱いだ奴そのまま洗濯するからさ」
思わず、硬直する大地。その様子に、苦笑しつつも、ビーからさっさと服をはぎ取っていく。
「あ、ビーちゃん、あんまり他の人と一緒にお風呂はいったことないんだね。これはもう、お姉さんにまかせなさい。背中の流しっこしよう、綺麗に洗ってあげるから。頭とか、人に洗って貰うと気持ち良いんだよ~、私もね、たまに空ん家、泊まった時、洗ってもらったりするの」
にひひ、と屈託のない笑顔を向けられる。その笑顔がやけに眩しい。もう既に、ビーは、ショーツとブラだけにされていた。
「後は、自分で脱いでね。・・・ん、あれ~、下着も、お姉さん に脱がして欲しいのかな~」
両手を前にだしてわきわきと怪しげな手つきをする海。
慌てて、ブラに手を掛け脱いでいく大地。脱ぎ始めたビーを目を細めながら、ひとつ、頷いて、自分も脱ぎ始める。
大地は脱いでしまってから、少し手持ちぶさたの様に視線を辺りに彷徨わせている。天井には、そろそろ寿命の様で、それでも健気に薄ぼんやりと発光しているサークル蛍光灯が視界に入る。そろそろ、LEDに取り換えるべきか、と、そんな事を考えている大地。時折、海の姿をこそっと盗み見るが、堂々と見る度胸はさすがに無い。
洗面台の横に設置してある戸棚にはバスタオルが2枚重ねてあった。(バスタオル足りてよかった)なんて事も大地は考えている。1枚 のバスタオルを使いまわすなど恥ずかしすぎてど~にか成ってしまう。大地は良いが、いや、その方が望ましいが、海は厭だろうことは想像に難くない。
ビーが脱いだものを集めて、自分の衣類と纏めて、洗濯機に放り込む海。それぞれに付いている洗濯注意タグなど視ない。ここら辺は、海らしい大雑把である。流石に、ブラだけは形が崩れるのか、丁寧にカップを重ねて、100均の小さなネットに入れて放り込む、そして、少し時代ものの洗濯機のスイッチを入れた。残念ながら横型ではなく、縦型だ、昔ながらの形でありながら、一応、簡易乾燥機能も付いている、完全な乾燥はしないようであるが。100均のネットが大地の家にある事の方が驚きである、実は帝がビーに助言した結果、備えられたものであった。
真っ赤になりながら、海に手を引かれてタオルで前を隠しながら、バスルームに入ってくるビー。海は堂々としたもので、隠しもしていない。2畳程のバスルームは少し湯気が立ち込めていた。大地の目は海のぷりんぷりんと震える左右のお尻と、足元を行ったり来たりしている。
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