84.ビー、わしは思うのじゃ、変身のとき、裸になるのは必須なのじゃと。
魔法少女、なんて甘美な響きなんでしょう。
マツジュの耳にミネラの残念そうな声が響く。
「わしのお気に入りだったのじゃが・・・、残念じゃのう」
ミネラは胸元を引っ張り、空いた穴を 覗き込んでいた。マツジュの放った魔法により、胸元に大きな穴を開けてしまったのだ。
マツジュは不思議そうな顔をしながら、ミネラに声を掛ける。
「あの、ミネラさま?リストルートかリタイムをかけたらいかがでしょうか?」
マツジュの世界では、魔法で修復するのは当たり前の事であった。そもそも、服など高くておいそれとは新しい物など手に入れる事は出来ない。
マツジュは貴族の家に生まれた為、小さい頃は、家から出た事も無かった為、服が高価であることなど知り様が無かったが、今、師について修行をし、町から出る様になって服の価値を知る様になった。
マツジュの言葉に不思議そうにしながらも、少し期待の籠った声で応じるミネラ。足は 、威圧するかのように数歩、前に出ている。
「む、なんじゃ、それは」
ミネラの反応に思わず後ずさりながらも、なんとか声を出すことに成功する。
「え~と、魔法です。リストルートは修復魔法でリタイムは物の時を戻す魔法です」
期待が高まる。マツジュを追い詰める様に迫る、手にしたマツジュの杖を突き付けている。
「ほう、そんな事ができるのか、流石、異世界よの」
きらきらした目で応じるミネラ。負け惜しみなのか、一応、自分にもできることを挟む。
「わしにも似たような事はできるのじゃが、わしの術は一度原子に戻して再構築とかの、それでは別物になってしまうので躊躇していたのじゃ。この服には思い入れがあっての 、別物にはしたくはないんじゃ。そのリストルートとか言うものを掛けてくれぬか」
思わぬ喰いつき具合に、少し引き気味なマツジュであったが、ミネラの要請に応じる。
「わかりました。それでは・・・あれ?私の精霊の珠が無い?」
マツジュの魔力は底を尽いていた。残念ながら自身の魔力は使えなかったのである。その為、精霊の珠に籠められた魔力に頼る必要があった。周りには、遠巻きにして鳩たちが不思議そうに見ている。
「杖ならここにあるのじゃ。ん、珠?おう、あの珠か、ちょっと待っておれ、今、探して見るでな、あれほどのエネルギーじゃ、直ぐに見つかるじゃろう」
程なく、砂場に半分埋まっていた精霊の珠を見つけるミネラ。
「おお、あったのじゃ。そこの砂に埋もれておるのじゃ」
砂場との境として設置してあるコンクリート製縁石の処に、砂から一部覗いた珠が、表面を陽の光に反射してキラキラ輝いていた。
マツジュは急ぎ足で精霊の珠に近寄り、砂に埋もれ た珠を手にする。急な動きに慌てて、飛ぶ事も忘れて、あたふたと走って逃げる鳩たち。
マツジュの口から安堵の声が漏れる。。
「あった」
マツジュは、ミネラに、精霊の珠を見せる。珠の中では、赤い小さな炎のゆらゆらと揺らいでいるのが見えた。
「ミネラさま、私の魔力が底を尽いているので、この珠に籠められている力で、魔法を行います。準備は宜しいでしょうか?」
少し緊張して、真面目な顔をするミネラ。
「うむ、いつでも良いのじゃ」
緊張したミネラの顔を見て、少し顔を綻ばせるマツジュ。
(こうして見ると、普通の子供なのにね。)
「なんじゃ?何をにまにまとしておる。ほれ、速く掛けるのじゃ」
微笑ましそうに見ているマツジュに怪訝そうに言葉を投げるミネラ。口を尖らかすその姿は逆にマツジュの目を細めさせた。
「それでは行きます。こほんっ、物を造り、維持を司りし精霊よ、珠に込められし力により、基の完全なる状態に戻せ。リストルート」
マツジュが放った言葉に反応し、珠の中の赤い炎が少し大きくなった。ミネラの胸元に空いた大きな穴が、淡い光を放ちながら、端からゆっくりと塞がっていく。その光景に興味深かそうな顔をして見ているミネラ。
ミネラの目にはその修復の肯定の細部まで見えていた。人の目には不可視のものまで。
(ほう~、マイクロゲートが開いておるのう。ゲートから補完分子が出ておる、一種のホワイトホールの様じゃ、分子 レベルで修復を進めるのか、面白いのう。さて、この分子は何処からくるのじゃろう?・・・お、そうか、『存在確率拡散砲』と同じか、低度の因果律操作じゃな、ふむふむ、虚数空間で、部分的に破損前の存在確率を上げて破損部分を確保し、置き換えていくのじゃな。なかなかに複雑じゃ。しかし、そもそもの置き換え時の個々の分子の識別は何(誰)がやっておるのじゃ?)
ミネラが疑問点を尋ねるべく、マツジュに目を向ける。
「のう、マツ、!!!」
あらゆる情報を捕らえようと探査レベルをMaxにしていたミネラの目がマツジュの変化を捕らえた。
(ほー、マツジュ自身の脳か、編頭体が活性化しておる。ふむ、視覚情報を基に大脳深部での記憶領域を一時的に利用しておる、なるほどのう。先ほどの戦いでは気づかなんだわ。術者の脳を利用するか、ふむふむ、魔力、発動ワード、そして人の脳深部領域の利用、魔法とは誰が考えだしたシステムか、なかなかに興味深いのう)
ミネラは、胸元の穴が完全に塞がった事を確認してからマツジュに礼を言う。
「感謝するぞ、マツジュ。それに今の行使で、わしもそのやり方を覚えたのじゃ。ありがとうじゃ 」
「ふぇ、今ので覚えられたのですか?まあ、神様なので簡単なのかもしれませんが」
「うむ、簡単じゃ。今からお前のをわしが直してやる。いくぞ」
マツジュの着ている服は、処所破れている。吹き飛ばされた時、どこかに引っかけ、破いてしまったようだった。
ミネラは、マツジュの真似をして、意味はないのだが呪文を唱えた。さらに手を翳し、2~3、指で複雑なサインを描きだす。指が虚空を滑ると、指の軌跡を辿る様に蛍光色の線が現れる、やがて、幾何学模様が虚空に浮かび上がった。これは、ミネラがアニメで「かっこいい」と思い真似をしたことから加わった手順である。指で模様の中心を軽く、とんっと、付くと、少し模様の色が赤くなった後、ガラスが割 れる様に粉々になる。すると、マツジュの着る服に変化が現れた。破れた処は時間が巻き戻った様に 元通りに修復されていく。足りない布は補完され繋がった、修復が終わりに近かづくと、それは明らかになった。
残念ながら、ミネラの行った修復ちぐはぐであった。服が出来た当時の新品の状態との部品補完であった為、非害が受けなかった部分と受けた部分の差が大きなものとなってしまいまるで、継ぎをあてた様になってしまったのだ。この場合、修復魔法のリストルートではなく、リタイムで時を戻すべきであった。
慌てて、ミネラは、もう一度修復を始める。
「すまん、マツジュ。今修正するのじゃ」
再度、今度は、一度原子にまで分解して再構成する方法をとった。ミネラにとってはおなじみの方法だ。ミネラが指で図形を描きだす。中央をとんっと、付いて発動 。マツジュの全身を淡い光が包んだ。光の中では、マツジュの、着ている服が小さな光の粒となって霧の様に消える。
今、マツジュは真っ裸で困惑している。淡い光の中でふわふわと浮いている状態だった。マツジュからは廻りの公園は見えなくなっていた。小さな光の珠が足下から上に向かって止めどなく流れているのを唯、眺めている状態だ。
(これはなに?私、ど~なったの)
マツジュの周りで、光の凝縮が始まりその光が消えると服のそれぞれのパーツが現れる。そして次々に体に装着されていく。全部のパーツが装着されてから全身が軽く発光するとミネラと戦う前の傷一つないマツジュがそこにあった。手には何時の間にか持たされた杖を両手で持ち、軽くポーズを強制的に 、念の為、もう一度言おう、強制的にとらされてミネラの前に現れる。
バーンと効果音が聞こえてきそうなポーズをとったマツジュを見たミネラは、満足そうに何度も頷いている。
その姿は、完全に戦闘態勢を整えた、魔法少女であった。そもそも、元々着ていた衣装が魔法少女風であり、自身も魔法を使うので問題はない。惜しむらくは、杖にカートリッジ式の魔力装填方法のベルカ、げふんげふん、おっとあぶない、で、無い事ぐらいか。
「うむ。なかなかに決まっておる。ここは一つ魔法少女マツジュ参上の決めセリフを言えば完璧じゃったな。ん、おおそうじゃった。足下に魔法陣を表示させるのを忘れておったわ。次には忘れぬようにせねばならんのう。それに、あの杖に会話 機能をつけねばならぬようじゃ、しゃべるデバイスは必須じゃからのう、おう、そうじゃ、コミネラが杖に融合すれば解決じゃな。これは良い考えじゃ」
ミネラがなにやら意味の判らないことを呟いていたが、ご機嫌のようであった為、マツジュは、あえて、何も言わなかった。
(ま、いいか)
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