45.ビー、功夫(カンフー)の勉強会をする。
功夫対決です。まずは、勉強しないといけません。だって、功夫のことなんにも知らないんですから。
「ビーお姉さま?ビーお姉さまは居られますか?どちらでしょうか」
帝は桃と分かれてからビーの教室に来ていた。しかし、そこにはビーの姿は無かった。
入り口から尋ねるが、ビーの同級生のお姉さま方から、まだきてないよの返事。通常だと、生徒会室に顔を出してから教室に向かうのだが、今日はどうしたものか遅れているようだった。
「ビーお姉さまは居られないのでしょうか?なにかあったのでしょうか」
♪き~んこ~んか~んこ~ん♪
始業ベルと共に教室に駆け込んでくるビー。
出掛けにミネラと会ったため少々来るのが遅れたのだ。
登校途中も考えながら歩いていたため、その歩みもゆっくりなものになってしまってこの時間になったのだ。
「あ、ビーお姉さま。おはようございます。お勉強がんばってください」
授業開始のチャイムが鳴ったため、ビーに声だけ掛けて小走りに自分の教室に走って帰る帝。
「帝ちゃんなの、おはようなの~、帝ちゃんもがんばってなの~」
帝の後ろ姿に声を掛けて手を振るビー。
「はい、がんばります」
後ろを向きながら手を振り返す帝。
「ビーちゃん、遅かったわね、なにかあったの?」
蚕月灯が心配そうに聞いてきた。
灯はソフトボール部の部長だ。 以前、ビーと帝にソフトボールの試合の助っ人で助けられたことがある。また、ビーのことを好ましく思っているがなかなかその思いを出すことが出来ないで居る一人だ。
たまたま、席替えで現在、ビーの隣になったため、チャンスとばかりに声を掛けている。
「えへへ、ちょっとね。まにあってよかったの~」
「また、猫にひっかかってたんじゃないの?」
ビーの猫好きはリサーチ済みである。時々校内に猫が入ってくるのだが、どこで聞きつけるのか猫あるところにビー在りと言うことを灯は知っている。その為、今回も猫に捕まったおかげで、時間がかかってしまったのだろうと考えたのだ。
「そんな感じなの~」
ビーはあいまいに笑った。
ビーの笑顔を真正面から向けられた灯は少し俯き加減になりそっと呟いた。耳は真っ赤である。
「そお?・・・その笑顔は反則だわ」
* * *
帝は昼休みにビーの教室には行けなかった。担任の先生に昼後の最初の授業で使う教材の準備を頼まれていた為、行けなかったのだ。
最近、よく先生に頼まれることが多い。帝は生徒会の一員となったため、頼まれるのだろうと思っていた。実際は、その事も一因ではあるが、ビーとの出会いによって帝の表情が少し柔らかくなっている為でもある。
放課後、帝は、再びビーの教室に現れた。しかし、灯からすでに鞄を持って出て行ったということを知らされ、慌てて、生徒会室に向かった。帝にしては珍しく、息せき切って生徒会室に駆け込んだのだが、一足遅かった。
生徒会室に居た、新聞部部長の令月刃から、今日は用事があるから帰ったと聞かされ、表情を暗くするのだった。
「ビーお姉さま・・・。うん、明日は、迎えに行こう。そう、それがいいわ。急に行ったら、ビーお姉さま驚かれるかしら?」
* * *
次の日の朝。
「おはようございます。ビーお姉さま」
帝は大地のマンションに来ていた。ビーを迎えにきたのだ。
階段を軽快に登り、少しうきうきした調子で進んで行く。そして、呼び鈴を鳴らし、扉が開くと同時に相手を確認せずに声を掛けたのだ。
そこには、きょとんとした顔のミネラが立っていた。
「あら、あなたは?」
帝はミネラに問いかける。
「 ミネラじゃ、お主は誰じゃ?」
ミネラはノブに手を掛けたまま怪訝そうな表情をしている。もう一方の手には焼いた食パンを持っているが、落とさないようにするためか、力の加減を間違えたのか、すこしパンに指が食い込んでいる。
「私はビーお姉さまの妹の暮新月帝と申します」
ミネラは少し驚いたような顔をしたが直ぐに元にもどり、そして言葉を発した。
「それならば、お主はわしの妹じゃな。ふむ、よろしくたのむぞ」
帝は妹という言葉をミネラのことと受け取ったようだ。
「え、あなたは、ビーお姉さまの身内の方でしょうか」
(この美くしい幼女は、ビーお姉さまの妹さんなのかしら。それにしても綺麗な子)
「うむ、そうじゃ、ミネラじゃ。ミネラと呼ぶがよいぞ」
(ビーお姉さまには、こんな綺麗な妹さんが居るんだわ)
「あれ~、帝ちゃん。ど~したの?」
横からひょこっとビーが顔を覗かせる。その顔はふしぎそうな感じと朝から帝に会えた嬉しさがないまぜになった表情であった。
「あ、ビーお姉さま。おはようございます。今日はちょっとお話がありまして、お迎えに上がりました」
帝は笑顔で答える。
「ん~、そうなの?ちょっとまってなの~、直ぐに用意するの~」
ビーは慌てて、シリアルをかき込む。ぽりぽりという子気味良い音を響かせて食べている。まだ牛乳をかける前であったようである。その後、牛乳をごくごくと飲んでいる。
「それじゃあ、行って来るの。帝ちゃん、おまたせなの~」
ビーが鞄を手にててて~と、駆け足でやってくる。
「おう、ビー、気を付けてな」
「ビーちゃん、いってらっしゃい」
「ビーしっかり行ってくるのじゃぞ」
大地、刹那、ミネラ、とそれぞれが声を掛ける。軽くみんなに返事をして、少し登校時間には早いが出て行くビー。
「うん、帝ちゃん、行こ」
帝に手を差し出し玄関から勢いよく飛び出す。
帝は赤くなりながらも、その手に軽く手を添える。添えられた手をがしっとばかりに、しっかりと握り締め走り出すビー。ビーに引きずられる様にして大地のマンションを出て行く。
暫く手を握りながら歩いて行く二人。商店街の皆さんに声を掛けながら進む。その姿はなんとも微笑ましかった。
商店街を抜け、公園まで来た時、帝が話し始めた。
「ここで、初めてビーお姉さまと会ったのですね」
「うん、そうなの。あの時、帝ちゃん、泣きそうな顔してたの。うふふ、可愛かったの~」
まだ、時間に余裕のある二人は、 公園のブランコに乗り、話始める。つい半年前のことなのに、ずいぶん昔のことの様に感じる二人。
帝はこの公園でビーと出会ったのだ。その時、帝は泣きそうになりながら、居なくなったペットの猫を探していたのだ。その猫をビーが見つけて、首輪に付いていた迷子札を頼りに届けようとしていたところだったのだ。
「もう、言わないで下さい、ビーお姉さま」
その顔は非常に恥ずかしそうではあるが、心なしか嬉しそうでもある。今、帝はその歳相応に見えた。
いつもの凜とした帝も美しいが、この子供らしい表情をした帝もそれはそれで美しい。
帝は照れ隠しに少し怒った顔をしながらブランコを漕いでいる。
「それで、話ってなに?帝ちゃん」
暫く、ブランコを漕いでいたが、一向に話を始めない帝に向かって話を切り出すようビーが尋ねた。
ビーには、帝の雰囲気が少し変わった様な気がした。見るとブランコを漕ぐ足をとめ、下唇を少し噛みなんとも辛そうな顔の帝が目に入った。
帝は昨日の事をビーに話す。 転校生の桃のこと、そして、試合を行わなければならない事、負ければ帝は桃のものになることなどだ。
帝が話を終わるとそこにはキラキラとした目の期待一杯のビーを見ることになった。
「帝ちゃん、そんなにすまなそうにする事はないの~、帝ちゃんは信じてくれたんだよね。ビーが絶対に勝つって。ビーはうれしいの。帝ちゃんに信じてもらえて、ありがとう」
お祭り事の大好きなビーにとって、新たな、楽しい事が出来たと言うことなのかもしれない。
「ビーお姉さま・・・」
ビーは突然立ち上がり、帝の前に立ち、そっと抱きしめた。そうしなければいけない気がしたのだ。
「帝ちゃん、もう一度言うの、ありがとう」
帝はしどろもどろになりながら俯く。耳まで真っ赤だ。
「それじゃあ、ちょっとがんばらなくちゃいけないの。ビー、功夫って良く知らないから勉強しないと駄目なの~、図書室と帰りに本屋さん寄って、資料集めないと駄目なの~」
我に返った帝が慌ててビーの手伝いを申し出る。
「お、お手伝いします。ビーお姉さま。レンタルビデオ屋さんにも行って、功夫のビデオ借りてきます」
どうやら、放課後は功夫勉強会となった様である。
「うん、よろしくなの~。ビデオの方が体の動き判るから助かるの~。なんか、わくわくしてきたの~。あ、そろそろ、学校行 かないと、遅刻しちゃうかもなの~」
少し余裕があったのだが、いつの間にか時間ぎりぎりになっているようである。
「そうですわ、遅刻は駄目です」
生徒会の面々が遅刻ではちょっと締まらない。遅刻すれば教師、そして生徒会長からお小言が待っているだろう。
「あ、そうだ、ビー転送できるんだった~、転送する?」
体を使うことのほうが好きなため、転送できることを忘れがちである。
「よろしいんですか、ビーお姉さま?」
実は転送を使うことを期待している帝。
「ん?なんで~、別にいいよ~」
帝の言葉に少し不思議そうな顔をするビー。
「だって、もし誰かに見られたらと思うと気が気でありません」
誰かに見られることを恐れる帝。ビーが奇異な目で見られることを恐れている。以前、自分の能力のことでなにかあったのかもしれない。
「そお?ビー、あんまり気にしないよ~、でも、あんまり言いふらす悪い子はちょっとお仕置きするかもなの~」
あっけらかんとしているビー。でも、お仕置きの言葉を言うとき少し顔をしかめている。
「・・・聞くのがちょっと怖いのですが、因みに、ビーお姉さまのお仕置きってどのようなことをされるのですか?」
恐る恐るといった感じでビーに聞いてみる帝。
「う~ん、軽く成層圏ダイブ?太平洋上に転送して海上漂流?あ、そうだ、スカイツリーのてっぺんに転送ってどう?東京タワーの方がいいかもなの~、福岡タワー?京都タワー?名古屋タワーでもいいかも。あ、通天閣もいいよね」
「・・・ビーお姉さま、もう結構です。見られないことを祈ってテレポーテーションお願いします」
「無難な、記憶全消去とかも出来るの~・・・」
「ビーお姉さま、それは止めてあげてください。さすがに全消去は後が大変です」
「そお?消した後、犬の記憶いれるとか、逆に犬に記憶移すとかできるの。面白いと思うの~」
「期間限定で、犬に記憶移すのはありかもしれません。本人にはインパクトありますね。でも、流石です。そんなことも御できになるんですね」
「いろいろ出来るの~。さあ、いくよ。帝ちゃん、手を出してなの」
ビーは帝に手を差し出す。その手をそっと握り光と共に消える二人。
* * *
放課後、ここは大地のマンション。ビーと帝の二人はビデオや 本など様々な資料を抱えてのご帰還だ。これから、功夫の勉強会が始まるらしい。
こたつの上にどさどさっとばかりに本を積み上げている。ビーは1冊づつ手に取りパラパラパラっと読んで行く。
1冊当たり1分かかるかかからないかの非常に短い時間だ。頭に入っているのかと心配になる速度であるが、ビーにしてはまだ、時間がかかっている方である。それだけ真剣に読んでいるらしい。
ミネラも興味深めに1冊取って眺めている。本に記載どおりに手を動かしているようなので、いまに、功夫の達人が二人出来上がることだろう。ミネラの興味が続けばであるが。
刹那が台所からお盆に載せてところてんを持ってやってきた。
「勉強もいいけど、これ、みんなで 食べない?」
「すいません、刹那さん」
刹那とは既に自己紹介を済ませたようで、気やすい感じで帝はしゃべっている。大地はまだ仕事から帰ってはおらず、姿がみえない。
「酢醤油と黒みつがあるけどどっちがいい?」
当然、ビーとミネラは黒みつである。帝と刹那は酢醤油を手に取る。
「わしは黒みつじゃ、ビーも黒みつじゃろ?なにしろ甘いのでな。甘さは正義じゃ」
「うん。ビーも黒みつにするの~。帝ちゃんも黒みつ?」
「はい、と言いたいところですが、私は、酢醤油でお願いします。私黒みつがちょっと苦手で」
「そおなの?はい、酢醤油」
「ありがとうございます」
ビーは食べながら もその手は本で得た功夫の型を形どっている。どうも、蛇の形をしているらしいが、指先までピッと伸ばしていない為、どこかよれよれで蛇と言うより酔っ払いの阿波踊りのように見える。動作も緩慢な為なおさらである。
本では、そのスピードやタイミングまで記載されていない、曖昧な部分が多い為、仕方が無い事ではあるが、それにしても滑稽にみえる。
小一時間ほど本と格闘していたあと、ビーは今度はビデオを見ている。といっても、ジャッ○ーチェーンの映画だ。ブ○ースリーはお気に召さなかったようである。どうやら、血やら汗やらが飛び散るのが嫌だったようだ。
画面ではコミカルな仕草や笑いを誘うストーリがテンポ良く進んで行く。処所、テレビを見ている面々から笑いが起っている。真剣に見ているのかどうか怪しいものだが、和気藹々と楽しそうである。
映画を数本見てからビーは帝を連れて近くのゲートボール場にきている。ミネラもビーと一緒にやって来ていたが、刹那は寒いから出てこなかった。留守番をしているようである。これから、得た知識を実際の体で試してみるようである。
ゲートボール場では近所のお年寄り達がこの寒いのにも関わらず、相変わらずゲートボールに興じている。ひょっとしたら1日じゅうしているのかもしれない。
ビーの功夫の演武が始まった。
足を少し開いて、肩の力を抜き、指先を揃えて軽く蛇の鎌首を作りだす。蛇拳だ。流れる様に左右の腕の交叉を繰り返す、しかし、鎌首は常に一点を向き続ける。どのような状態であっても常に相手に鎌首 を向けることによって相手に柔軟に対応する構えだ。体を捻って大地に伏せる態勢をとる。その状態から横一回転しながら鎌首を付きだす。
大きく足を回し相手を目くらましとしつつ、隙あらばそのまま蹴りいれる態勢を取る。その片足を上げたままの状態から体を捻って逆足からの更なる回し蹴り、逆の足に支点を移しそのまま勢いよく踏切り後方宙返り。宙返り中も手は鎌首を保ち左右それぞれ予断なく構える。
急に立ち止ったかと思えば左右にゆらゆらと体を振りつつ指先はおちょこを持つ状態を保つ。ふらつく足取りをしつつ、要所要所で拳を叩きつける動作を入れる。酔拳である。
暫く、ゆらゆらとしていたかと思うと手と足を同時に振り上げる。
必殺の拳を叩き込むと同時に蹴りを繰り出す、砲拳である。
また、手を槍に見立てて姿勢を低く一挙に相手に突き刺す。その動作を一瞬のうちに数回、叩き込む玄武拳。
または、鴨の動作を取り入れた一見コミカルな印象を与えるが、対峙する相手を惑わす鴨拳など。
ビーの演武はなかなかのものであった。帝も声も出さずその演武に見とれる。何時しか、辺りには結構な数の人々による人垣が出来ていた。
夕方のそろそろ薄暗くなりつつある夕暮れ時に、妖精かと見まごうほどの美しい少女が一人様々な功夫の型を繰り出している、演武、否、踊っているのである。
人々に永遠とも思える長い時間、演武を続けて、ため息の元になっていたその演武が唐突に終わりを告げる。
ビーは人垣の中に大地を見つけたのだ。
「ダイチくんお帰りなさい」
ビーは大地に笑顔で走りよる。その時、周囲の人々の中から拍手が沸き起こる。一瞬、なにが起こっているのかわからなく、きょとんとしたビーであったが、その拍手が自分の先ほどまでの功夫の為だと帝に教えられ笑顔で手を振るビーであった。
お読みいただきありがとうございます。
才能ないものが続けることの難しさ身にしみてます。




