43.ビー、ミネラの話を聞く。
ミネラの解析結果の報告です。
ここは、大地のマンション。
小さなコタツの周りにみんなが集まっている。メンバーは、大地、ビー、ミネラ、刹那、海の5名である。
海は気になるので、強引に大地を車で送ると称して、そのまま残っている。
刹那は足を伸ばしてコタツに入っていて、その足の間に、ちょこんとミネラが座っている。
刹那の手はミネラのお腹の上で組まれており抱っこする形だ。ミネラの表情は少し暗く、緊張に満ちている。
ミネラの右に海、左に大地が座っており、正面にはビーが座っている。
ビーは少し不安なのかコタツ布団の中で大地の手を握り占めている。
コタツの上には、大きさの違うカップにコーヒーが5つ無造作に置かれており、 湯気が登っている。
数が足りなかったのか、湯呑にコーヒーが入ったものもあった。それは流石に大地の前におかれていたが、また、竹で編まれた古風な菓子器に個別にパッケージされた小さなバームクーヘンが積まれている。
バームクーヘンが無くなっていない点からもビーの緊張が判ると言うものだ。
ミネラはみんなを見回した。それぞれの顔から不安を感じ取ったが、そのまま沈黙を続ける。
沈黙に絶えることが出来なくなったのか、海がミネラに言葉を掛ける。その声はちょっと大きかった。
「ミネラちゃん、それで、どうだったの?」
ミネラはその声にびくっとしながらビーを見つめる。
ミネラの表情にすこし変化があった。
「海さん、そんな、大声で言ったらミネラちゃん困ってるじゃないの」
刹那が、見かねて遮る。
「ごめんなさい。でも、気になるじゃない。それで、どうだったの?」
ミネラは観念したのか口を開いた。
「すまんな、わしは心がこんなに弱いなんて思わんかったのじゃ、みんな、許してもらえるかのう。」
軽く頭を下げるミネラ。
「結果を簡潔に伝えると、あの保護骨格の持ち主は、ビー、お主じゃった」
その言葉にビーは小さく頷く。コタツ布団の中では大地の手を握る手にすこし力が篭った。大丈夫とばかりに大地は握り返している。
大地の顔を少し見てからぽつりとビーはつぶやく。
「そお、やっぱりそおだったの。・・・それはどのくらいの時間変異を経たものだったの?」
「うむ、計測結果は873250年212日となっておった。誤差は3日じゃな。これから先、何時ごろになるのかわからんが、ビーがそれだけの時間遡航をすることは間違いないようじゃ」
言葉を続けるミネラ。
「わしはなるべくなら 、そんな時間遡航は行って欲しくはないのじゃが、如何せん、そんな状況におちいってしまったのじゃろう。これから、なにがあるのかわからんのじゃが、対策を立てねばならん」
ビーを見つめる目は悲しそうであった。ミネラはゆっくりと話を続ける。
「そこで提案なんじゃが、ビー、お主、今、記憶の常時接続型のプラグを装着しておるであろう?」
ビーはすこし、おや?と不思議そうな顔をしながら返事をかえした。
「うん」
ビーは首の後ろに付いている500円硬貨大の金属プレートを左手で髪をかき上げみんなに見せた。
右手は大地の手を握ったままだ。海は興味深そうに見ている。
これは、リアルタイムでビー本体との記憶をやり取りする為に設けられたもので、金属プレートの内側には亜空間を通じて本体と接続をしている。
ミネラには装着されていない物である。通常、本体とそれほど離れなければ必要ないものであるのだが、なにかあっても困るので心配性のビーが設けたのである。
「これは、最悪時の保険なのじゃが、今、ビーに装着されておるプラグをビー本体にも設けて、出力先をわしの中に設けようと思うのじゃ。そうすれば、もし、ビー本体の記憶が失われても、わしがバックアップとして機能するので問題ない。本体そのものを失ってももわしが再生してやるでな」
一堂を見渡すミネラ、最後にビーに目を止める。
「これは、あくまで保険じゃ。わしはど~しても、ビーを失いたくないんじゃ。わしには、こんな事 しか考えられん。わしの我がままみたいなもんじゃが、ビー、了承してもらえんかのう」
ビーは暫く沈黙していた。だが、やがて了承した。
「うん、わかったの。後で造って送るね」
明らかにほっとした表情になるミネラ。
「わしが、こんな提案するのは訳があるのじゃ、この解析を行った保護骨格じゃが、保護骨格はもともと5層に分かれておっての、1層、2層は物理的防御を担っておっての、ある程度の強度はあるんじゃが・・・、まあ、反物質の対消滅なんかには分が悪いのじゃがの、問題はその次の層じゃ、3層目は時間形質を変化するのじゃ」
それまで、黙って聞いていた大地が口を開いた。
「時間形質の変化っていうのは、どう言うことなんや?」
ビーがミネラに代わって説明をする。
「 ダイチくん、時間形質の変化っていうのはね、保護骨格の2層に傷害があった時点で、ナノセカンドの時間で本来の時間軸から僅かにずれた時間軸に変化させることなの。ほんの少しだけタイムトラベルをするってことなの。時間軸がずれることによって被害の無かった時間軸に移動することになるからなにもおきない筈なの」
「一概には言えんが、概ねそんな具合じゃが、それでも絶対とは言えん。そのため、もう一層あるんじゃが・・・」
ミネラは話を続ける。
「4層目についてじゃが、4層は3層と似たようなものなのじゃが、これは時間形質では なく空間形質の変化を行うのじゃ、しかも自身の変化ではなく、相手に対する変化を行うのじゃ」
大地は不思議そうな顔をしながらミネラをみた。その顔を見て、察したビーが説明を行った。
「ダイチくん。空間形質の変化っていうのはね、以前、ツバイから聞いたと思うけど、重積世界のことなの、所謂、パラレルワールドのことなのよ」
「4層までに達する攻撃に晒されたときは、攻撃媒体そのものをパラレルワールドに放逐するのじゃが、この攻撃は放逐された空間ごと巻き込んで粉砕しているようなのじゃ。こんな兵器を持っていたのは、わしが、いや、ニードルが知っているかぎりでは、馬の首星雲に昔おったドルス人ぐらいじゃ」
海がミネラに問いかける。
「じゃあ、そのドルス人がやったのかな?」
渋い顔をしながらミネラが否定する。
「いや、それはないじゃろう。彼らは、既に、数十億年前に滅んでおる。残ったものがおる可能性もあるが、なにしろ、億年単位のことじゃからな、おったとしても科学レベルは後退しておるよ」
「ドルス人が持っておった兵器はな、ドルス人を守護していた観察者が命じて造らせたものじゃ」
ビーはすこし不思議そうな顔をしてミネラを見つめる。
「ビーはそんな事知らないの。ミネラちゃん、それ本当?」
「ああ、ビーにはまだ開示されておらんのじゃったな。この情報は文明を守護し終焉まで見続けたもののみに開示されるものじゃからな。論理セクターの制限はまだ、解除されておらん。ビーは、今回初めて、パートナー殿を選んだ訳じゃから、まだまだ、半人前よ。未熟な者には開示されとらんからのう」
「むう。ビーは未熟じゃないもん」
ビーはぷいっと横を向いた。大地と目が会い、急に赤くなって俯いている。そんなビーに海がちゃちゃを入れる。
「体は未熟だけどね。ビーさ・・・、ビーちゃん」
にひひと少しいやらしい笑いを立てながらも、熱い視線をビーに送る海。すこし、いつもと雰囲気が違うようだ。
「わしも精神的に未熟じゃがな、話を戻すと、その観察者はの、少々、心が病んでおっての、死にたがっておったのじゃよ。いや、パートナー殿を愛しすぎたのじゃな。ずいぶん長く生きておられた方で、パートナー殿を失うことに耐えられんかったのじゃろう」
「わしらは自分では死ねん。防御本能が強いし、なにしろ、頑強に出来ておるでな。生半可な兵器では傷も付けられん。太陽に飛び込もうがなんともな い。逆に太陽に飛び込めば代謝が活性するしの。その兵器を使ったかどうかわ記憶にはないが、論理セクターへの情報の流入がないので、もうこの世界にはおらんのじゃろうなあ」
「その観察者は自殺するために、その兵器を作らせたってわけか。難儀やな。で、それが使われたらしいってことやね」
「そうじゃ、全く同じものではないとは思うんじゃが、根本は同じじゃとわしは、思うとる。で、ここからが肝心なんじゃが、今、一番可能性が高いのは観察者が造ったのではないかとわしは思うとる」
「それじゃあ、ビー様が対峙することになるのは観察者ってわけ?それは大変だわ」
「おい、海、なんで、様付けで話てるんや?」
「いやねえ、大地、聞き間違いじゃないの?そんなこと言ったかしら?おほほほほ~」
挙動が 変な海。ちらちらとビーの方を盗み見ている。
「もともと、海を消そうとした奴も観察者を匂わせていたしな、観察者がいるのは間違いないな。えっと、あれは誰だっけ?ミネラが言っていたあの観察者、名前はえ~となんやったかなあ?」
大地が拳を頭に当て考え込むが出てこない。代わりにミネラが答える。
「ラート姉さまじゃな、たぶん、なにかしら企んでおるのじゃろうが、この兵器を使うほどとは思いもせんのじゃが、案外、こんな兵器では観察者はやられはせん、と思うとるのかもしれんのう。まだ、今の時点ではなにもやっていないかもしれんのじゃが、そもそも、ラート姉さまじゃない可能性もあるのじゃがな」
違う可能性もあると示唆しながらも、ミネラの顔は信じていないようであった。
横で、私には関係ありませんよっとでも言うのか、刹那がバームクーヘンを摘んでむしゃむしゃと食べている。
「時間が絡むと良くわからんなあ」
刹那の様子を見ながら大地もバームクーヘンをひとつ手に取る。左手はビーに握られたままなので小袋を開ける事ができず、物憂げな表情のまま、手の中でくるくるともてあそぶ。
「わしは、結構、怨まれとるでの、今度あったら、問答無用で襲ってくるかもしれんがな、ビーはまだ、会った事ないじゃろ?」
ミネラは少し苦い表情のままビーに視線を向ける。
「ないの、どんな人なの?」
ビーはひょいっと大地の手の中からバームクーヘンを取り上げささっと袋を開け、口の中に放おり込む。そして、にこっと大地に笑いかけ、すぐに大地の手を握り元の状態に戻る。
「そうじゃのう、本体は深く濃い緑色をした体で綺麗でのう、わしはこげ茶 色じゃから羨ましいんじゃがな、あの姉さまは気に入らないらしいんじゃ。事あるごとにわしにちょっかい掛けてきおるのじゃ、どうもこげ茶色が好きみたいでの、ついこの前も言いがかりを掛けてきてのう・・・」
大地は盗られた右手を暫く見ていたが、少し、ビーを睨んでもう一つバームクーヘンを手に取る。
またもや、ビーは大地からバームクーヘンを奪い去ると、今度は、小袋をあけひと口大に割ってから、大地に差し出した。
「はい、あ~ん」
二人のやり取りを呆れながら、そして、少しの羨望の込もった目でミネラはビーを見ている。ミネラは話を続ける。
「わしは、正直、手を出す気はなかったのじゃがな、あれはこちらのことは考えてくれんお方じゃからな。降りかかる火の粉は払わねばならん。」
ミネラはこたつの上のカップを手にとりずず~っとすすったが、少し苦かったのか慌てて戻した。その様子に刹那は頬笑みながら横にあった砂糖を取りミネラに聞いた。
「何杯?」
「いっぱいじゃ、わしは、久々に上のルルー姉さまと会っていたのじゃが、ビーも知っとるじゃろ?ルル-姉さま」
ミネラの返答に苦笑しながらも、1杯、2杯、3杯と入れて行く刹那。5杯目で少し躊躇しながらも入れ、そこに、牛乳をなみなみと注ぎ、ミネラにカップを渡す。
「うん、赤のルルー姉さま好き。いろいろなこと教えてくれるの。太陽を利用したジャンプ方法とか半次元潜行法とか面白いの。赤色の体は凄い綺麗なのよ」
カップを受け取り、スプーンでくるくる かき混ぜ、ひと口、すすってから「あまあまじゃ」と笑顔を刹那に向ける。
「あの姉さまは教えることが好きじゃからな、特にビーはお気に入りじゃからなおさらじゃ。今はマゼラン星雲におるんじゃが、ラート姉さまが荒らした世界の後始末しとるよ」
「観察者ってみんな色が違うんか?」
「うん、ビーはね白色なの。ダイチくんも行った事あるよね、月のビーの体のなかに。その時の壁の色、白かったでしょ?あの色なの。純白のビー、あをなた色に染めてってね。うふ。ミネラちゃんは濃いブラウンなの。深いふか~いブラウン。シックな素敵な色なの」
ミネラが照れたようにビーの言葉を遮る。
「やめんか、ビー。そんな良いものではないわ。じゃが、わしは、ラート姉さまの緑が気にいっとる。あの色になれたらなんて、夢想することもあるんじゃ。ルルー姉さまは鮮烈な赤じゃ、太陽に輝く様はもう声もでんぐらい美しいぞ」
「そうとう、ラートさんの色が好きなんやな。そうか~、ビーは白なんや、ビーにあっとる気がするわ」
ビーはあってると言われ嬉しそうだ。自身もそうとう気にいっているらしい。
「えへへ~。あ、そうだ、ダイチくん、映像、見てみる?ビーの記憶域から映像再現してみるけど。みてみたい?」
機嫌を良くしたビーは、映像の再現を提案する。ビーの気分としては子供の頃のアルバムを見せる感覚に似ているだろうか。
大地は少々のり出し気味でみせてと頼む。
「ちょっとまってね」
ビーは右手を手のひらを上にしてこたつの上にのせ目を瞑る。すると、手のひらの上にキューブ状の小さな物体が光とともに現れる。ビーはそのキューブを覗き込んでなにか操作をしていたが、こたつの中央にそっと置いた。
「情報キューブじゃな、みんな、驚かんようにな」
「うん、それじゃあ作動させるの。〇#$%&-」
ビーは、少し聞き取り辛い異国の言葉でなにか呟いた。それがその装置の始動キーだったのか、装置が動き始める。装置を中心にして黒い光とでも言うようなものが放射され部屋全体が暗闇に覆われる。いや、暗闇ではなかった。所々にまばゆい光を発する無数の光点がありそこはまさに宇宙空間であった。
彼方から赤い光点が徐々に近づいており、やがて目の前いっぱいに燃えるような赤に染まる。所々ゆらめきが生じており、躍動する炎とでも言うような巨大な物体がそこにあった。圧倒的な力強さがそこにあった。
全体は流線形をしており後ろをたなびく様は長く長く赤い尾を引いている。
その者が虚空を進む様は決して直線ではなく、そう、冬の日の窓につく結露とでも言ったらいいか、雫が進む様に似ている。右と思えば左、左と思えば真っ直ぐ進むその進む方向は千差万別、だが決して戻りはせず着実な前進を続ける、まさに炎と言う言葉が相応しい。
「ね、綺麗でしょう?」
近くに居るはずのビーの声がやけに遠く聞こえる。
「次にね、ミネラちゃんの映像ね」
急に場面が変わって、どこかの惑星上だろうか、氷に包まれた広大な世界が出現した。
その白で包まれた世界の中に一際、際立つ深いブラウンの色彩が飛び込んでくる。
氷で包まれた、否、氷よりも冷たい光を放つすこし薄青い成分を含んだ結晶で包まれた者がそこに居た。
その色は深い深いブラウン、黒に近いブラウン、白の世界に唯一温かみを持ったブラウン。
寒々とした異質な世界にある唯一ほっとする空間を作り出していた。
周りを結晶で覆われているため大きさは判らないがそれでも大きいだろうと想像できる。
「これねえ、ある惑星でミネラちゃん寝てたの。それも200年もね」
「こら、ビー、ばらすでない。ここは、なんとも心地よい放射が出ておったのじゃ。この氷みたいな結晶からのう、言うなれば母の懐に抱かれておるような感じじゃな。そお言うビーも数年おったではないか」
「あう、それは言わないでなの~」
その日、夜遅くまで、観察者二人の暴露大会が開催された。
お読みいただきありがとうございます。




