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39.ビー、ミネラ(ニードル)の解析

遅々として進みません。

ミネラの本体との会話

 海の家を逃げるように飛び出した大地たちは、今、大地の家に戻って来ていた。


「まあ、元気出せ、ビー。考えてても仕方がないやろ」


 大地の顔をまっすぐに見つめるビー。


「でもね、ダイチくん、あの保護骨格はビーの波動を放射しているように感じたの。ちょっと変質しているようだったけど・・・」


「まあ、分析結果待ちやな」


 その日、夜遅くまでミネラを待っていたが、日付けが変わっても帰って来なかった。





 火星のミネラ


(ビーめ、あ奴の転送を久しぶりに受けたのじゃが、旨く成りおって、わしとの座標受け渡しリンク形成もスムーズで寸分違わず指定座標に送りこんでくれたわい。後で、褒めとかんといかんのお。)


 ここは火星、といってもミネラが偽装した火星だ。ミネラが太陽系に滞在のため、地球の人々に疑われない様にする為、選んだのが火星であった。本物の火星は少し時間軸をずらされている。


 今、ミネラは火星の極点付近におり、地表から50メートル程地下に設けられた幅、奥行きが5メートルほど、高さも5メートルほどの四角い部屋に立っている。


 壁は偽装の為に付けられた岩肌がそのままむき出しになっていて一面だけが濃いこげ茶色をした金属光沢の面でできていた。


 その壁から淡い光が注がれており、ミネラの顔を照らしていた。


 その空間は空気で満たされており、温度も地球上と同様に保たれている。


 ミネラはこげ茶色をした壁に近寄り、手をそっと触れ、そして、目を瞑った。すると、ミネラの体は白い光に包まれてその場から消える。


 火星の内部の何処かの小さな部屋に、ふっと明かりが灯り、その部屋の中央に光と共にミネラが現れた。


(さて、まずは本体との統合じゃな。)


 何処から発しているのか判らないが、その部屋に、ミネラの声より少し低い声が響いた。


「おかえり、ミネラ。ビーはどうであった?相変わらず元気にしてたか?」


 ミネラはその声に答えた。手は自身が造り出した亜空間から大きなケースを取り出そうと忙しなく動かしている。なんとか自身より大きなケースを取り出し横に置くことに成功したようだ。


「ただいま、ミネラ。相変わらずじゃったな。ああ、一つ違いがあった」


 ミネラは、ふと、作業を止めて思い返している。


「ほう、それはどんな事じゃ?」


 その姿無き声は如何にも楽しそうに聞き返す。


「そう焦らずとも良かろうに、じきに統合すればわしの記憶、経験の全てが判ると言うものじゃ」


 ミネラはその喰いつき具合に少々呆れるようにため息を付いていたが、この火星が位置する銀河でも辺境の世界ではさぞ退屈であったに違いない、と思いなおしていた。


「すこし会話に餓えとるのかもしれん。まあ、お前もミネラじゃから判るだろう?」


 ミネラは肩を竦めたが、同意を示すように頷き、話を始めた。


「今、行っている会話は一見会話に見えるがの、単なる独り言じゃ。まあ、良いじゃろ、少し話をしてやるとするかの」


 ミネラはやれやれといった風を装いながらも話し始めた。


「論理セクターが示す様にビーにはすでにパートナー殿がおった。まあ、わしも、その者を見に行った訳じゃが」


 姿無き声はあいずちもそこそこに続きを促した。


「そうじゃな、それで?」


「なにしろ、ビーの初めてのパートナーじゃからな、少々興味を持っておったんじゃが、なかなか可愛い奴じゃったぞ」


「ほう~、それはそれは、統合が楽しみじゃな。今まで、ビーはわしにくっ付いていたでな、この世界がはじめて一人で行った世界だったかな?」

 

 姿無き声は楽しそうに応じる。


「まあ、あの星に住む者どもはどれも皆可愛い奴じゃがな、思わず手を差し伸べてやってしまいたくなるわい。ビーがおらんかたらわしがこの世界に留まりたいぞ」


「それには同意じゃ。暫くこのまま留まっても良いかものう。それよりも、ビーじゃ、ビーはどうしておった?」


 姿無き声は続きが聞きたくてしかたがない。


「パートナー殿に甘えておったぞ、パートナー殿の陰に隠れてのう。なんとも可愛らしかったぞ」


「ほう、それは面白い。普通、逆じゃないのかの?ふむ、なるほど、それも良いかもしれんの」


 観察者たちはたいてい上位者として認識されているので甘えるというより甘えさせることのほうが圧倒的に多い。甘える行為自体あまり考えたことが無いようだ。


「わしのこの体よりすこし成長させた体を使っておった。それでもまだまだ幼体と言えるほどのな」


「あの甘えん坊め、あ奴は知ってか知らずか良い方にばかり流れが出来ておる。まあ、ビーらしいがの。それで、ミネラもなにか楽しんで来たんじゃろうな」


 絶対何か楽しんだはず、と確信を含んだ声が尋ねる。


「あの星は食べ物が凄いのじゃ」


「食べ物?単なるエネルギー摂取の方法じゃな。それのどこが凄いのじゃ。まあ、わしらは体内に恒星を抱えとるでな、エネルギー摂取自体無用な行為じゃ。その体ともエネルギー供給用の接続はすでに済んどるのじゃ」


 ミネラは慌てて続けることを主張する。


「エネルギー接続とは別の次元の話じゃ。続けるべきなのじゃ、あれは経験せんと判らん。説明できんのじゃ」


 姿無き声はミネラの思わぬ反応にたじろぎながらも疑問を投げかける。


「今までにも、現地種族の肉体を構成して、そしてその体で食べてきただろうに、それとどう違うのじゃ?」


「うむ、今まで体験してきた食物摂取とは根本が違うのじゃ。これまでのは本能から来るものでの、そう、必要に駆られての物じゃった。う~む、どう言ったらいいか。そうじゃ!味がちがうのじゃ」


 新たに示唆された「味」という単語に興味を覚える。


「味?味とはなんじゃ?」


「そこが説明出来んのじゃ。統合すればわかるじゃろうがの」


 ミネラの歯切れの悪さにしぶしぶという感じで返す姿無き声。その声には少々の戸惑いが感じられた。


「味か、気になるのう」


「まあ、じきじゃ、少し我慢せい」


 ミネラは 言葉で表せない事を残念に思いながらも話を続けた。地球で会ったカーボナーについてだ。


「以前、大きな木の生えた星の崩壊をくい止めたことがあったじゃろう」


 姿無き声は、遠い昔にあった出来事を思い出しているようだ。なにか苦い思い出でもあったのか、その声には少し悲しみが含まれているように感じる。


「・・・あったな、もう一本、木を作って反対側の極点に植えたのじゃったな、それがど~したと言うんじゃ?」


「そこの住民がこの地球に来ておってな、わしに非常に感謝しておったわ。わしは神話に出てくる女神になっとるらしいぞ」


予想外のミネラの言葉に、声に驚きと少しの期待が含まれている。


「ほ~、そうなのか?このわしを崇めるとはなかなかできた奴らじゃの、今度、行ってみようとするかの。しかし、あそこの住民にはずいぶん酷い事をしたように思うのじゃが」


「それは仕方の無いことじゃろ、二手の陣営に分かれて、戦争をしとったんじゃから。それも勝った方が木を切り倒して自分の領域にしようと、しとったのじゃからな、そんなことしたら自分の星が崩壊するのにも関わらずじゃ」


 ミネラは遠い目をしながら話している。


「だから繁殖形態を変えてやって木と離れられんようにしたんじゃったな。まあ、結果、うまい事いっとるようじゃな」


「そうじゃ、あの世界全体をフィールドに包んでな、住民が死なんようにするの苦労したもんじゃ」


「介入するのは不遜な気もしないでもないがの、まあ、自然に任せておくと完全に星が崩壊するようじゃったからのう」


「それからな、わしには刹那お姉ちゃんができたのじゃ」


 続いたミネラの言葉に不思議そうに返す姿無き声。


「刹那お姉ちゃん?」


「そう、パートナー殿の妹殿での、現地でビーの家がわからず途方に暮れてたところを家まで連れて行ってくれたんじゃ」


 甘えるために姉を作ったと勘違いした姿無き声はそのまま声にしてミネラに告げた。


「ミネラもその刹那お姉ちゃんとか言う者に甘えるのかの?」


 ミネラもビーのように甘えてみたいと考えていたのでその声に同意を示す。


「おお、それも良いかもしれんの。ふむふむ、これはいい考えじゃわい」


 ニコニコするミネラ。その表情が急に引き締まり真面目な顔になる。


「今回、ちょっとある事があっての、その件があったのでわしが急遽戻ってきたんじゃ、まあ、それも統合すれば判ることじゃがな」


「ある事?」


 ミネラはケースをぽんぽんとたたいて話を続けた。


「この中に入っておるのじゃよ。もう見えているんじゃろ?」


「うむ。何故そんなものがここにあるんじゃ?」


「そう、それも判らんことじゃが、認めたくないんじゃが、どうもビーの波動に似てるものを発しているのでな、これを解析をする為に戻ってきたのじゃ。さて、早速じゃが、統合しようかの」


 ミネラの体は一時的に造ったものの為、ビーの様に常時接続の端末が埋め込まれていない。本体の近くにいるときはその本体の強力な精神波により同一個体として認識されているのであるがなんらかの理由でそのリンクが一旦切れてしまうと別個体として機能してしまう。


 ビーの場合は首の後ろに金属のプレートが設けられており、この内側に亜空間経由で本体と常に接続されている為、同一時間軸においてはまずリンクが切れることは無い。


「ミネラよ、すまんが統合の最中にわしのこの体の中のエネルギー変換前の糖分を向いておいてくれないか」


 姿なき声はやや不思議そうに聞き返す。


「かまわんが、なにかあるのかのう?」


「いや、少々食べ過ぎたのでなエネルギー過多となるといろいろと厄介なことがこの体には起きるらしいでな。なんでも、丸々としてくるらしいと聞いたのでな」


 ミネラは少々ぽっこりしているお腹を擦る。その表情はなんとも言えない顔をしていた。


「その姿も見てみたい気がするのじゃがの、まあ、ミネラがいうのじゃからその作業承るとしようかの、なにしろ自分のことじゃからな。糖分だけで良いのか?」


「全部でないぞ、余剰分だけじゃ。みっとも無いのは嫌じゃからな、なにしろ女神じゃから、わしは、たのむぞ」


 ミネラはおもむろに服を脱ぎ始めた。身に着けたものをすべて脱ぎ捨て、脱いだものは乱雑に一纏めにしてから手に持ち、壁に近かよって立っていると、壁に音もなく穴が開いた。


 持っていた服をその穴の掘り込み、別に壁の中から出てきた台の上によいしょとばかりによじ登り、そしてその上に横たわった。


(台が少し高いな、ちょっと修正必要じゃな)とミネラは考えていた。


 台はミネラの体に沿うように少し窪みが付いていた。台の上に横たわったミネラはすぐに意識が無くなった様で、くぅくぅと寝息を立てている。


 ミネラが寝ている台の足の方から半球状の透明なカバーが迫り出してきてミネラをスッポリ覆うとミネラの記憶の統合が始まったのか、姿無き声の感嘆の声が響いた。


「おお、なんじゃこれは、タイ焼き?これが味、たしかにこれは経験せんと判らんものじゃ。ほうほう~」


 姿無き声はミネラの記憶を頼りにミネラの体験した事を脳内で疑似体験を行い、と同時にその記憶を自身の記憶領域の最重要記憶として留めた。


 統合によってミネラの精神と姿なき声の精神が徐々に一つの精神にまとめ上げられて行く。ミネラの隅々まで行きわたるのに数刻を要した。それだけミネラの経験が衝撃的だったことの証明だろうか。


********************


 ミネラの横たわる台を覆っているカバーが何の前触れもなく開いた。ミネラは直ぐに目を覚ますと台から降り壁の中に用意されていた衣服取り出し、身に付けた。


 ミネラは気に入っているのか、今度もゴスロリ風な衣装だ。


 レースをふんだんに使い、赤い小さなリボンがアクセントとなっている白いブラウス、大きなふんわりした何重にもなった黒いスカート。頭に上には小さな黒い帽子まで被っている。靴はお気に入りなのかビーを訪ねた時と同じ赤いものを穿いている。


「さて、まずは軽くスキャンして見るとしようかの」


 ミネラはそお言いながらケースに手をかけ、カーボナーがしていたようにケースを明けた。開け方はカーボナーが一度やっているので、その完璧な記憶力を持つミネラにはそれを踏襲するだけでよかった。それでも開かなければ内部に干渉して強引に開いてやればいいことだとミネラは考えている。


 もう、姿なき声はミネラに声をかけなかった。統合によって同一個体と認識されているのだ。自分の手に声をかけるものもあまりいないだろう、その手が仮にしゃべることが出来たとしても。


 部屋の中央に床の中から作業台らしきものがせり出してきて、その上に預かった保護骨格を載せる。


 天井から自在に動くアームの先端に小さなライトのようなものがついたものが延びてきて台に載せられた保護骨格を入念にスキャンして行く。


 その物体のスキャン結果にミネラは落胆の表情を浮かべた。だれに話すでもなく独りでに言葉が紡ぎだされる。


「わしはこの保護骨格から自分の波動を放射しているとビーが言った時、思わず言葉を遮ってしもうた。」


 ミネラは保護骨格を見つめながら言葉を紡ぐ。


「これがビーのだとすると少なくとも思考制御領域までやられておる、悪くすると死の可能性もあったからじゃ。わしにはそのような事、考える事すら嫌じゃったのじゃ。」


 ミネラの指は苛立たしげに台の上をカリカリと引っかいている。


「じゃが、今、このスキャン結果がこれはビーのものだと示しておる。これは、紛れもない事実じゃ。わしはこの事を認めなければならん」


 ミネラは拳に力を入れ握りしめている自分にきがついた。ふっと息を吐き出し、腕の力を抜く。


「認めた上で更になにがあの子の上に起るか見極めなければならん。それが今、ビーにしてやれるせめてもの事じゃ、しかしこのことは、思った以上にわしの精神に揺さぶりをかけておる。・・・残念じゃが感情を制御できん」


 ミネラは震える指先をこめかみにあてて揉むようにして声を発した。あたかもそうすることで悲痛な状況が変わるかもと期待しているかのように。


 その声はすこし震えていた。


「すまん、今、わしは感情を制御できん。この解析をわしの代わりにしてもらえんじゃろうか?論理セクターニードル」


 ミネラしか居ないはずの部屋の中に凛とした声が響いた。その声はミネラの口から発せられていた。


「わかりました、ミネラ。あなたには我々論理セクターの様に感情を分離、抑制を行う機能がないので御辛いでしょう。唯今から論理セクターニードルが本物体の解析を引き継ぎ行います」


 ニードルは台の上に置かれた全体が黒く処所夜空の星のまたたきのような輝きを放つ保護骨格に視線を移した。


「当該物の持ち主はスキャン結果から観察者ビー20番目の姉妹と断定します。引き続いて時間形質の解析に移ります」


 ニードルは胸の前で手のひらを上にして暫し静止すると、その手の上に小さなペンライトの様なものが現れた。それを右手で鉛筆を持つように指の間に挟み保護骨格の端に当てて人差し指で小さな突起を押し込んだ。その状態を保持して引っ掻きサンプルを切り出した。切り出している最中、ニードルの表情は段々と険しくなって行った。


(抵抗が無さ過ぎる?これはこの子が受けた兵器の影響かしら。保護骨格が時間経過の影響を受けるとは考えにくいから兵器の影響ね。)


 左手にガラスでできたケースを持ちその中に切り出したサンプルを入れ蓋を閉じた。


 蓋には異世界の言語で書かれた数字が浮かんでおり目まぐるしく変化していた。その物体に蓄積されている時間変位を計測する機器のようで、徐々に変化がゆっくりとなり、ある数字を表示したまま動かなくなった。


 その表示は地球の数字に換算すると873250年212日±3と読めた。


 「これで、何時の次代から時間遡航した物かはわからないけど、遡航量は判ったわね、次は、如何なる兵器が使われたかよね。表面形質の変化は第4層まで及んでいるわね」


 ニードルはゴーグル型の機器を取付け、入念な観察を行っている。今の人としての体には合わないのかゴーグルと目の間に別の機械を挟んで作業を行っている。


 体がある時はその体を使い作業する事を好んでいるようだ。


「1層、2層までなら反物質の対消滅で傷つけることできるけど、3層では時間形質を変化し続けているから、これは空間そのものの断裂を意味しているわね」


 複雑な制御が必要なのか、ドローンを二機、使用しそれぞれのドローンから赤や黄色、時には目も眩むような眩い光を発しながら作業を続けている。その作業は地球で日付けが変わるまで続けられた。


*****************


 大地たちに朝日が差し込むころ、ニードルの分析が終了した。


「本物体の解析作業が終了しましたので、体の制御をお返し致します。ミネラ、あとはよろしくお願いします」


 ニードルは目を瞑った。そして、次に目を覚ました時その表情は情けない表情をしていた。


「すまんな、ニードル。不甲斐ないミネラを許しておくれ。辛いのはニードルも一緒じゃったな、・・・精神的強さを身に着けなければならんな。」


「それにしても87万年前になにが起こったんじゃろうか?ビーには絶対に近づかないように言っとかなければならんな」


お読みいただきありがとうございます

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