38.ビー、海から熱い視線を向けられる。
あるものが発見されました、それは・・・。
岸壁を先頭に廊下を抜け楕円形の部屋に入る。大きさは10畳ぐらいだろうか、ポツンと真ん中にガラスのテーブルがあった。
岸壁が壁に付いてあるコンソールを操作すると壁の中からテーブルを囲うように四角い箱が出てきた。
箱の側面のボタンを押すと箱は二つに割れて中からビニールみたいな素材でできた椅子が出現し一堂それぞれ思い思いの場所に座った。
ビーとミネラは子供のように椅子の上でお尻で跳ねてにこにこして遊んでいたが、岸壁が黒い大きなケースを壁の中から取り出すと真剣な様子でそのケースを見つめていた。
(なにかあるのだろうか?)
大地は二人の様子の変化に微かな戸惑いを感じた。
ビーは真剣な顔をしていたが、その真剣な表情のなかに微かな困惑を見つけれるぐらい大地はビーと時間を過ごしている。
「ビー、なにかあるのか?」
「う、うん」
大地の言葉に、少々上の空で返すビー。
「岸壁とか言うたか、お主何故、そんなものを持っとる」
ミネラはビーと違って困惑と言うより険しい表要をしていた。いまにも噛みつかんばかりの表情である。
(こんなミネラの前には立ちたくないな)と大地は思った。
その表情を見て岸壁は少々たじろいでいた、その岸壁に代わって言葉を告げたのがバンサーであった。
「申し訳ありません、ミネラさま、我々は観察者さまを驚かそうとした訳ではありません。ヌッホヌッホ」
バンサーは頭を前後に揺すっていた。これは謝罪の意味だろうか。
「これは、アステロイドベルトと呼ばれる岩石の集合体付近で先日、採集されたものです。ヌッホヌッホ。我々にはこれがなにかわかりません。これを見てもらう為に今日、来て頂いたのです。今からお見せします。ヌッホヌッホ」
岸壁がケースの中央の凹みに指をかけ引っかけるようにして捻ると小さなレバーが飛び出した。そのレバーを引くと小さなコンソールが何もない空間に投影される。
いくつかボタンを操作すると、「プシュー」と音を響かせながら「ガクン」と一段全体が3センチぐらいだろうかスライドした。
そのまま、待っているとゆっくりと中央から切れ目が入り左右に開いた。
中には灰色のスポンジでパッキングされた黒い物体が納められてあった。処々キラキラと輝いており、大きな球体の一部のように見えた。
「これがなにかわからんと言うてたじゃろう、教えてやろう、これは我々のコアを守る保護骨格の一部じゃ、人で言うところの頭蓋骨じゃな」
「頭蓋骨・・・」
事の重大性に気付くカーボナーの二人。
「こ、これが、観察者の物だとすると、この持ち主は・・・」
バンサーが声を震わせながら絞り出す。語尾に付ける敬意を表す言葉も忘れるほどの驚愕状態だ。
「わからん、信じがたいことじゃが死んだか、まあ、深手をおったことは間違いないようじゃな、観察者にこれほどの損害を負わせるほどの相手、どれほどの力をもっとるのか」
「ミネラちゃん、これ時間軸の位相の変異が感じられるの、別時間の存在のものの気がするの」
顔面蒼白と言っていいほど顔を青くしてビーがとんでもない事を告げた。
「これ、なんだか・・・、ビーの波動に似てる気がする」
慌ててさえぎるミネラ。
「いかん、拙速に結論を出してはいかん。このものの年代はざっと80万年ほどの位相のずれがあるようじゃ、ニュートリノ振動の影響もある、弱アイソスピンも考えなければならん。一概に言えん、詳細に調べないと結論は出せん、・・・すまぬが、これを借りることはできんかのう、詳細に調べてみたいんじゃが」
岸壁はバンサーの方を見る。しゃらんと澄んだ音が聞こえた。
「わかりました、そのままお持ちください」
「うむ、すまんな、早速、調べるとしよう。善は急げじゃ、ビー、すまんが火星の我が本体までわしを送ってくれるか」
「わかったの、すぐ、かえってくる?」
「ん、任せておけ、わしの方が分析にはお前より長けておるでな、さあ」
光に包まれて消えて行くミネラ。
重い雰囲気が辺りを支配する。その沈黙を破るように声を発する大地。
「分析結果がでるまであとはしゃ~ないな、辛気臭いのはいややから、後は楽しもか」
「うん・・・」
大地に手を引かれ部屋から出ていくビー。後に岸壁とバンサーが残った。
「しかし、観察者の物だったとは・・・」
「陰でとんでもない事が進行中かもしれんな」
大地たちが深刻な話をしている少し前、海、珊瑚、刹那はレクリエーションルームの重力制御球の前に来ていた。
「さあ、母さんは戻るわね」
珊瑚の言葉に不思議そうに返す海。
「あれ、お母さんは遊ばないの?」
海は遊ぶものだと思っていたようだ。
「もう、そんな年じゃないわよ、もうすぐ、50よ」
海はつい忘れがちになるが母親の歳を聞いて納得したようだ。
「そっか、わかった」
海のそのあっさりした反応に少々拍子抜けした珊瑚は思わず口に出していた。
「やけにあっさり引くわね、もう少し誘ってもいいんじゃない?」
(あれ?やっぱりやりたいのかな?それならそうといえば良いのに)
「そお?それじゃあ一緒にやろうよ」
「やらないわよ」
「もう~、どっちなの?」
「若い者で、楽しんでらっしゃい」
「刹那ちゃん行こ、こっちよ」
刹那の手を引いて歩き出す海。
「やりたいのは山々だけどこのスカートじゃねえ、見えちゃうもの。直ぐに大地くんも来るだろうしね、ふふふ、まあ、若い者同士で楽しみなさい」
ひらひらのスカートを持ち上げる珊瑚。
「凄い、凄い。これ、ど~なってるんですか?」
刹那が球体の中央で軽く飛び跳ねながら海に声をかける。
「まだ、こんなもんじゃないわよ。今はまだ重力の1/6ぐらいだけど重力消すこともできるのよ」
海は得意げに刹那に告げる。心なしか小さな胸を張っている。
「いくわよ、頭に気をつけてね」
海はコンソールを操作して重力を0に設定した。
急に重力が消えたため、刹那は足に力を入れた状態であったため斜め上方向に回転しながら飛んでいく。
「あ、ごめん。刹那ちゃんだいじょうぶ?」
くるくると回りながらも如何にも楽しそうにくすくす笑い出す刹那。
「おもしろ~い。すご~い」
天井付近でなんとかバランスを取り逆さまに浮かんでいる刹那。
「うわ~、なにこれ。くすくす。すご~い。海さんが逆さまになってる」
くすくす笑いから、けらけら笑いに変化する刹那。
「刹那ちゃんが逆さまなんだよ。」
海もにこにこしながら応じている。
刹那は球体の中を自由自在に飛び回っている。壁を蹴って反対側に至達すると、体を捻って足から壁に至り、若干足を曲げて衝撃を吸収しそのままの姿勢から足を伸ばし、壁を蹴る、それを繰り返し飛び回っている。
(すごいわね、刹那ちゃん。もうマスターしてる。運動神経良いのね。私ができる様になったのってどれ位だったかしら)
暫くしてから、大地がビーの手を引いて重力制御球にやってきた。
大地がやってきたのを見つけた海は重力制御球から出て、笑顔でビーを迎えた。
海には心なしかビーに元気が無いように見えた。怪訝に思いながら大地に近寄る海。
「ねえ、大地、ビーちゃんど~しちゃったの、なにかあったの?なんか沈んでるようにみえるんだけど」
「ん?ああ、ちょっとな」
大地の言い澱む姿に、少々目を吊り上げ詰め寄る。
「話して」
その剣幕に押されて大地話始める。
「さっき、海の親父さんに見せられたんやけどな、なんでも、アステロイドベルトで見つかったもので、カーボナーではなんか良くわからんので観察者に見て欲しいって」
大地は話しながら、ビー背中をそっと押し、遊んで来いとばかりに笑顔で頷いてやている。
ビーは、大地に一瞬笑顔見せ、とぼとぼと重力制御球の方に歩いて行くが今ひとつ乗り気でないようだ。
重力制御球の入り口の上から刹那が頭を出して覗いており、ビーに軽く手を振っていた。上下逆さまで奇妙な光景だ。
ビーは刹那と目が会うとちょっとびくっとしてからおずおずとしながらもにへら~と笑い返していた。
出会いの時を思い返したのか、刹那に対して少し苦手意識があるようだ。
「でな、ビーとミネラに見てもらったんやけど、それが、どうも、観察者の保護骨格の一部だったらしいんや。今、ミネラが自分の体のとこに持って帰って調べてるんや。あ、保護骨格って言うのは人で言うと頭蓋骨みたいなもんらしいわ」
「そおだったの・・・。でも、なんで、ビーちゃんがそこまで沈んでるかわからないわ」
「海は観察者の数って知ってるか?」
「しらないわ。1000人くらいかしら?」
「ビーも入れて全部で20人らしいわ、で、みんな姉妹でな、ビーが一番末っ子にあたるらしいで、だから、この20人の内のだれかのものってことやな」
「そうなの?それは心配よね、ちょっと、元気ずけてあげないと」
海はそう言いながら、重力制御球の入り口の処でなんとなくぼんやりしているビーの背後に音もなく近よってからおもむろに両手で抱きしめた。
当然その手のひらはその質素とも言えるビーの胸を鷲掴みにしている。
「!!!」
「ビーちゃん、元気出しなさいよ。ビーちゃんが沈んでると私まで悲しくなっちゃうでしょ。おお、意外とあるわね」
(なにしとんのや、海は)
唖然としながらも二人の様を見つめる大地。
「ふぇ?海ちゃん?なに?」
そんな強い刺激に、生まれてこの方会ったことのないビーはその場に崩れ落ちる。
「ここか~、ここがええのんか~、ほらほら、お姉さんに任せてみ~」
その指先は確実にその小さなサクランボを捕えている。口からはエセ関西人ちっくなおっさん言葉が紡ぎだされていた。
ビーは涙目になっている。
(ここらが潮時やな)
ゆら~と幽鬼のごとく二人に近ずき片手を大げさに振り上げ
「海、ええかげんにしときや」
最近特に出番の多くなった脳天唐竹チョップを海に叩きこむ。もちろん、手加減はしてある。
「あうっ」
「はい、離れて、離れて」
海の魔の手から抱き上げ救い出してやる。唇をとがらして少し海を睨んでいるビー。
「ビーもそんなに睨まんと、ビーを元気にしようと思ってやったことや、ゆるしたってや」
床にペタンとへたり込んでいる海。
「えへへ、やりすぎちゃった。ゆるしてね」
悪びれもせずぺろっと舌を出してビーに笑いかける海。
「も~、海ちゃん、許せないの。今度はビーの番なの」
大地の腕の中からするっと抜け出し、海の背後に回り込み、つんつんと海の背中の各所をつついた。
「あん、あ、ひょ」
ビーがつつくごとに変な声を上げる海。海の反応を確かめているのであろうか。ビーはつつくのをやめ、胸の方に手を回し始める。
ビーの知識は豊富で、国会図書館を軽く凌駕する。
当然、人の生体についても網羅されており、中には性技についても含まれる。
胸にまわされた指はそれぞれ意識でも持っているかのように別の動きをしており、その動きに合せて海の声が段々と艶やかさを帯びて行く。
「あん、むぐう」
「海ちゃん、そろそろ覚悟はできたの?」
「うう、うん。だめ、ビ、ビーちゃん、ゆ、ゆるして。もうだめなの。おねがい」
「ふふふ、海ちゃん、もうすこしなの、もうすこしなのよ」
「だ、だめ~戻れなくなる~」
(なにが、もうすこしなんや?)
大地は少し前かがみになりながら疑問に思っていた。そろそろ止めないととんでもない事になりそうな気がしたのでビーを止めることに決めたようだ。
「ビーそろそろ、やめとこうか」
ビーは集中しているのか大地の声が届かなかった。
「海ちゃん、あと少しなの・・・ほらほらほらほら~」
「むぐ、ん、んんん」
大地は無理やり二人を引き離した。
「きゃっ、あ、あれ、ダイチくん?」
きょとんとした顔で大地を見るビー、その顔は心なしか、ほんのりピンクに色づいていた。
「はあ、はあ、ん、・・・ビーちゃん。はあ、はあ、はあ」
潤んだ目でビーを見ている海。その顔もピンクに色づいている。ブラウスのボタンも二つ三つ外されており、肌蹴た胸元から見える肌の白さと、ちらり見えるブラの谷間の妖艶さはかなり色っぽい。肩で息をしている様は拍車をかけている。
(こらあかん、直ぐに撤収せんと)
「ほなら、海、また会社でな、今日は失礼するは、おい、刹那、お前まだおるか?俺ら帰るわ」
「あ、まってまって、お兄ちゃん。私も行くから。あれ?海さん、ど~したの?」
「なんでもない、ほな行くで。それじゃあな、海、またな」
そそくさとその場を立ち去るのでした。
放心したようにその後姿を見送る海。
「・・・ビーちゃん、うん、・・・ビー様」
お読みいただきありがとうございます。




