16.ビー、学校に行く。
さあ、学校生活の始まりです。
トゥーネックパーレント女学院に初登校する前の日、ビーは暫くこれない事を近所のみんなに話して回っていた。
「ビーねえ、明日からトゥーネックパーレント女学院にいくの、だからここにこれなくなるの」
「学校に行く事になったのかい、良かったねえ」
「しっかり勉強してくるんだぞい」
「うん。ビーがんばる」
やる気十分のビーだった。
挨拶しながら商店街を回ると、手に持ち切れないほどの御菓子を貰って満面の笑みのビー。最後に公園のおまわりさんのところにも挨拶に行くビー。
「ビーねえ、明日からトゥーネックパーレント女学院にいくの、だからここにこれなくなるの」
同じセリフを繰り返している。
「え、今まで行ってなかったのかい?それはちょっとまずいね」
「明日からいくの。学校行かないとまずいの?」
(なにか、事情があるんだろうな。明日から行くことになったのか、よかったな)
「義務教育だから行かないと逮捕しちゃうよ」
「明日からいくの~」
「よかったね」
「よかったの~」
今ひとつ会話が成り立っていない気がするが本人たちが良いならいいんだろう。
トゥーネックパーレント女学院に初登校する日。
大地が心配して一緒に行こうかと聞いたところ、ひとりで行くと冷たい返事。
仕方なく、先に出勤する大地。
今は完全に親御さん状態、ビー以上にハラハラドキドキだ。断られたとはいえやっぱり気になり、出勤を取りやめ、今は電信柱の陰に隠れている。もはやストーカー状態。
商店街を颯爽と歩いていくビー。その顔は期待に満ちている。
商店街はまだ開いていないが、魚屋さん、花屋さんなどはすでにシャッターが開いており中で準備中のようだ。
それぞれの入り口で、
「おはようなの~」
「学校行ってくるの~」
と声を掛け進んでいく。
「おう、ビーちゃんいってらっしゃい。気をつけていくんだぞ。なんかあったらうちにくるんだよ」
「ビーちゃん、いってらっしゃい。なにかあったらすぐもどってきなよ」
商店街の住民も過保護のようである。
商店街を通り抜け交番の前の角を左にまがり細い路地を進んでいく。小さな川にかかる橋を渡りクネクネ曲がる道を進んでいく。その先の階段を登りきったところがトゥーネックパーレント女学院の正門に繋がる桜並木道だ。
今桜は青々とした葉を茂らせている。80メ-トルほど桜並木道を進んだ先に正門がある。
今、桜並木を進んだ先の正門前に30人ほどの男たちが左右に分かれて並んで立っていた。男の服装はまちまちである。
その前を恐々女学院の生徒が歩いて正門から入っていく。この集団は誰かを待っているようだった。
男が一人階段下で待機しており、目的の人物が来たことを確認しすぐさま集団にしらせるべく階段を走った。
「来られました。兄貴、只今、階段下まで来られました。もうすぐです」
「よーし、みんな、気合いれろー」
「「「「「「おー」」」」」」
男たちの集団が拳に力を入れ、高々と空に向かって突き上げる。
遠巻きにする学院の生徒たち。
その男たちの前に何の躊躇もためらいも無く一人の少女がとてててーと進み出た。
ビーである。そのまま、何食わぬ顔で進み正門から入ろうとしたところ、男たちに動きがあった。
男たちの間から二人進み出てビーに対峙した。何時ぞやのチンピラ高校生二人組みである。
「「ビー姐さんトゥーネックパーレント女学院へご編入」」
「「おめでとうございます。」」
男たちも声を合わせて一斉におめでとうの言葉をかける。
「「「「「「おめでとうございます。」」」」」」
のほほんとこたえるビー
「ありがとうなのよ~」
男が赤いバラの花束を差し出す。
「俺たちからの贈り物です。」
花束を受け取るビー。
「ありがとうなの~」
その男たちの集団に正門内から大声で怒鳴りながら走ってくる少女がひとり。
「あんたたち!なにしてんの~」
帝である。
「ビーお姉さまに迷惑でしょ。帰りなさい」
「お嬢、そりゃないよ。俺たちもお祝いの言葉送りたいです」
「帰・り・な・さ・い」
怒りの形相で言葉を発する。そして、片手をあげ階段方向を指差す。しょぼんとする一堂。そう、この集団はビーを頂点とするビー団の面々である。
先日、ビーによって解散を余儀なくされた不良グループの成れの果てである。
もともと恐怖で押さえつけられていたのであるが、その中心人物が放逐されてしまったため解散となったのだが、もともと自分の居る場所を求めて集まった面々なので行くあてもなくそのまま留まったのである。
不良グループであったが名前をビー団に変え、ビーを頂点に、相談役として帝を配置、高校生チンピラ二人組をまとめ役として構成されている。
ビーは認識していないが、そんな陣容で活動しているようだ。活動といってもコンテナハウスでウダウダ時を過ごすだけであるが。
ビー団の面々からは、ビーのことは『ビー姐さん』と呼び、帝のことを『お嬢』と呼ぶことが定着しているようだ。
「みんな~またね~」
陽気に声を掛けるビー。
「それじゃあね、ビーはこれから学校だからバイバイ」
にこやかに手を振るビー。
男たちもにへら~としながら手を振り替えす。
チンピラその1が声を張り上げる。
「みんな、撤収だー」
「「「「「「おう」」」」」」
チンピラその2が少女二人に声を掛ける。
「それじゃあ、ビー姐さん、お嬢、失礼します」
一列になって二人の前を走り去っていく。
「まったく、あの方たちって、ど~しよ~うもありませんわ」
帝はビーに向き直りながらにこにこして両手を差し出した。
「改めまして、ビーお姉さまおめでとうございます。そしてようこそ、トゥーネックパーレント女学院へ」
「ありがとうなの~、これから、よろしくなの~」
校舎の一室からビーたちの様子を伺うものたちがいた。
「面白いわね。あの子。ちょっと調べてもらえるかしら。あの、ぽわぽわしたビーって子」
長めのポニーテールさんで少し小さめの眼鏡を掛けている。どこか委員長と言わせる雰囲気を持った少女だ。
「わかりました。少しお時間を頂きます」
命令することに慣れている印象を受ける。
「あんまり長いこと私をまたせないでね」
「わかりました・・・」
返事を返した少女の手にはその少女に似つかわしくないほど大きなカメラが握られていた。やれやれといった風情、頭を左右に振りながら、ポニーテールさんの前から消えた。
「なんだか、面白くなりそうね。ふふふ・・・」
部屋に残されたポニーテールさんは一人微笑みを浮かべていた。
正門から職員室へと続く道をビーは左腕に帝をへばりつかせた状態で進んでいた。
帝がくっついているので歩き辛く思っていたが、その表情には表れていない。歓迎されていることが判っているので、逆に嬉しそうだ。その様子に登校で集まってきた他の生徒が少々不思議な顔をしながら、道行く二人のために行く手を開けてやっている。
「そこを曲がったところが職員室です、ビーお姉さま。あ、ちょっと待ってて下さいね」
ガラガラガラ~。
ビーを置いて職員室の扉を開けて入っていく帝。
「おはようございま~す。編入生のビーお姉さまをお連れしました」
その帝に体育教師を思わせるがっちりした体格の男性教師が応える。
「おう、暮新月、ごくろうさん。君が編入試験全問正解のビー君か、頭いいんだな」
「ビーなの、おはようございますなの~」
「それじゃあ、先生、ビーお姉さまをよろしくお願いします。あ、先生、ビー姉さまはどこのクラスになるのですか」
「たしか、2年A組だったかな。おれのクラスじゃなくて残念だがな」
「そうですか、ビーお寝さま、またお昼休みに参りますので、それまで暫しの御別れです」
おもむろに、がばっと抱きついて、暫くそのままでいたかと思うと急に
「ビーお姉さま分充填完了」
と呟いて手を振りながら職員室から出て行った。
「おまえ、暮新月と仲が良いんだな、普段との変わりようにびっくりしたぞ、おれは、体育教師の蘭月だ、これからよろしくな」
「しかし、あの孤高の暮新月が笑顔を見せるなんてなんとも・・・」
帝は『孤高の暮新月』と呼ばれているようだ。
「まあ、これからも暮新月をよろしく頼むわ」
暮新月帝は能力者である。それほど強い力を持っているわけではないのだが、何となく人の思っていることが解るのである。また、すこし先の未来を予見する力ももっている。こちらもそれほど強い力ではなく、なんとなく予感がすると言う程度である。
帝はその予感に従いいままで交通事故や簡単なものでは運動場で野球部が打った球を避けるといったものなど様々な危機から逃れることができている。
暮新月の家は代々その能力で時の権力者と結びついて栄華を誇った家である。今代の当主も今の権力者と言うより今は大企業と結びつき、表向きは顧問として力を奮っている。しかし、次代が進むにつれて力の衰えを見せ始めているのが現状だ。
話を戻そう。
帝はその能力から他人の想いを読み取ってしまう。人の口からでた言葉の裏側を知ってしまう為、人とは距離を置いていたのだ。そのため、群れることをせず、いつも一人でいるため、『孤高の暮新月』などと呼ばれていた。
その暮新月が編入生であるビーにベタベタしているのである。教師たちに驚きが走ったのも無理はない。気を許せるものがいたのかと安堵する教師も少なくない。ビーと暮新月の様子を暖かい目で見まもる教師たちであった。
一方そのころの大地。
途中までビーの後を陰ながら見守っていたのだが、所詮素人の尾行、周りの人々にあやしいと思われない筈がない。特に人気者のビーである。
人通りが少ないとは言え、それなりに開店準備をしている店も多い。そんな店のひとつ魚屋の主人から通報を受け、商店街を出たところにある交番のおまわりさんに同行を求められ、今は交番で事情を聞かれていた。
「お前はビーちゃんをどうするつもりだったんだ。あんなかわいい子の後をつけて。
まさか、誘拐」
「ちがいますよう。俺は今日から学校に行くビーが心配で」
「おまえは、そもそもビーちゃんのなんだ」
「俺はその、保護者みたいなものです」
「みたいとはなんだ、なにを隠している」
涙目の大地である。
大地のことは放っておいて。
ビーは今、担任の教師に伴なわれて教室の前に立っている。
「それじゃあ、私が呼んだら中に入ってきて自己紹介してね」
「はいなの~」
ガラガラガラ~。
「はいは~い、静かに~、今日は転入生を紹介します。この子は凄いんですよ~」
パンパン、手を叩きながら皆を鎮める。
「苺ちゃん、なにがすごいんですの」
生徒から質問が上がる。この教師は歳が近く名前も卯花月苺の為、そのまま親しみを込めて『苺ちゃん』と呼ばれていた。
「この子はね、編入試験で全教科満点だったんですよ~。あなた達も頑張って、勉強しないといけませんよ~、では、水無月さんはいってきて~」
扉は開かれない。
「あれ?水無月さん、水無月さん」
扉の前では呼ばれるのを待っているビー。自分が『水無月』だと気が付いていない。
大地のことは『ダイチくん』、自分のことは『ビー』と認識している。
「おかしいな、水無月ビーさん」
ここで初めて呼ばれたのに気がつく。
ガラガラガラ~。
「ああ、よかった。どこかに行ったのかと思ったよ~」
教卓のところから数歩教室入り口まで進んだところで、扉が引かれたので安堵する苺ちゃん。
「この子が、水無月ビーさん、自己紹介お願いします」
「ビーなの~。学校には面白そうだからやってきたの。よろしくお願いするの~」
前の日に大地からくれぐれも自分が異星人だと正体を知られない様にと言いふくめられていたビー。
「「「「「よろしく~」」」」」
「なんてかわいらしい」
「全教科満点なんて凄い、ありえませんわ」
「かわいらしい方、しゃべり方も愛らしい・・・」
「ふふふ、私のものに・・・」
一部、不穏なものもいたが概ね好評のようだ。少々意地悪があってもビーなら気がつかないだろうから大丈夫かな。
「さて転校生には恒例の質問タイムです。なにか質問がある人はいますか」
「彼氏はいますか?」
「ダイチくんなの~」
「どこに住んでいますか?」
「ダイチくんの処なの~」
「好きなものはなんですか?」
「ダイチくんなの~」
「趣味はなんですか?」
「ダイチくんなの~」
質問には全て「ダイチくん」で返すビーでした。
一堂声を揃えて「ラブラブだね」といったとか。
お読みいただきありがとうございます。
ところで、大地はどうなったんでしょうか




