15.ビー、編入試験を受ける。
編入試験です
夕飯を食べてテレビを見ていると、ビーが横にきて突然、こんなことを言い出した。
少しもじもじしながらちょっと言いにくそうに上目ずかいでこちらを見ている。
(ビーさん、どこでそんなテクニックを覚えてきたんですか)
「ねえ、ねえ、ダイチくん。ちょっとお願いがあるの」
ちょっとドキドキしながら促す。
「んん、なんや?」
「ビーねえ、学校に行きたいの。駄目かなあ」
(「駄目かなあ」のセリフを俯いて言うの反則やで、かわい過ぎです)
「学校か~、行ったら楽しいやろうなあ」
(俺も、もう一度行きたいなあ。これ、社会人になってはじめて判るんだよね)
「駄目だよねえ」
ビーの声が沈んだものに変わる。
「朝の時代劇見れなくなるけどいいんか?」
(これだけはいっとかんとな)
「それは・・・痛いの~」
(よっぽど好きなんやな)
「まあ、録画しとけば良いか」
「録画、録画、録画がいいの」
(とたんに明るうなったな)
「確約できへんけど行けるかもしれんで」
(少しは希望もたしとかんとな)
ちょっと、思案顔になる大地。
「本当?」
「ああ、ちょっと海の親父さんに相談してみるわ」
(カーボナーやったらなんか手があるかもしれんしな)
万歳の格好して喜ぶビー
「やった~」
「どっか行きたい学校あるんか?」
大地は何の気なしに聞いてみた。
「いつも着てる制服んとこがいい」
(制服かわいいからなあ)
「なんか理由あるんか?」
「うん、帝ちゃんが行ってるの」
(知り合いがおるんやったらそのほうがいいよな。)
「友達なんか?」
「妹なの!」
(え~、妹おったんか~)
「え、妹?」
「ビーにお姉さまになってくれって言われたの~」
(ああ、お嬢様学校やからね、それにしてもお姉さまだって、なんか倒錯の世界やね。会社いったら、とりあえず海と相談するか)
次の日、大地が勤める会社の総務に大地の姿があった。
「海、おはようさん。ちょっと話があるんやけど、いいかな」
「おはよう、大地がここに来るって珍しいわね。私が目当て?」
「ああそうや、今日は海が目当てや。それでやな、今度」
「ストップ、ここじゃ・・・、ちょっと外行きましょう」
なにか勘違いしたのか少々赤くなっている海。二人して表に出て行く。その姿を見送る同僚たち。ヒソヒソ話が始まる。
いま、二人は自動販売の横のスペ-スに移動していた。
「奢るよ、なにがいい?」
「なんか、サービス良いわね。私、ホットチョコ。それで、話ってなに」
少々ドキドキしている海。
「はい、ホットチョコ。・・・今度、ビーが学校行きたいって言い出したんや」
「え、ビーちゃんの話なの?」
(ああ、そうか、そうよね、てっきりデートの話かと思っちゃったじゃない、紛らわしいわね)
手でパタパタ顔を仰いでいる。
「ん、そうやで、それで、海の親父さんに相談できんかなと思ってな」
「いいわよ、今日、会社終わったら家来る?お父さんの都合も聞いてみないと駄目だけど」
「願ってもない、親父さんの都合聞いてみてくれるか」
「ちょっと、まってね。聞いてみるからね」
携帯を取り出し電話を掛ける海。
(カーボナーなんだからもっとこう、未来ちっくな連絡のとり方ないんかいな)
なんてことを思ってる大地。
「うん、うん、分かった。そう伝えておくね。じゃあ」
一歩近づいて海に問いかける。
「なんやて」
乗り出した大地にたじろぐ海。
「今日の夜8時に来てくれって」
笑顔で答える。
「わかった、今日、8時やな。それくらいに、いくわ」
その問いかけに、一緒に帰らないのかと少々不満を顔に表し、ぼそりと言葉を発する。
「就業後、一緒に行けばいいじゃない」
そこに考えが至らなかったようであっさり意見を変える大地。
「そやな、じゃあ、就業後に下のホールでまってるわ。よろしく」
一緒に帰ることになって海は少々嬉しそうだ。
大地はそのまま自分の部署に帰って行った。
「♪~ふんふんふ~ん、ふふっふ~ん~♪。」
「なあに?ちょっと嬉しそうじゃない。」
先輩の葉月光さんが聞いてくる。
「さっき、設計の水無月さんと出て言って、戻ってきたと思ったら鼻歌なんか歌って」
「え、出てました?何でもないんです」
ちょっと驚いた顔になりつつ、まじめな顔をして取り繕う海。しかし、口の端はにやけて失敗している。
「そお?あやしいなあ。この前の勃起った勃起たないっていってた彼?」
「そうなんで・・・、あれは、友達の話で、ごにょごにょ・・・」
下を向いて赤くなっている。
「なかなか、認めないわね。まあいいわ、そんなに浮かれているとミスするわよ」
「浮かれてません、も~」
頬を膨らませる姿は非常にかわいい。
就業後、ホールに大地と海の姿があった。
「おまたせ~」
弾んだ声で大地に来たことを知らせる。振りかえるとそこには小さなスイセンを思わせるような服を着た海が立っていた。海にしては珍しく赤以外の服をきていた。
ブラウスは白、襟元に黄色のスカーフをあしらい、スカートは白地にスイセンの葉を思わせるような縦に細い緑のラインが入っていた。非常に似合っていた。
「赤、以外も着ることあるんやな、なかなかに似合ってるで」
何となく感想を海に伝える。
「そお、ありがと・・・」
俯き加減で短く答える海。
「これね、お母さんが無理やり着せたの。赤ばっかりだとダメとか言って」
「似合ってるから、いいんちゃうか?」
「うん、そうよね。そうなんだけど・・・。私の車こっちよ」
「車通勤してるんか?」
「うん、便利だし。会社には内緒ね」
会社から少し離れた駐車場に赤い軽自動車が止まっていた。
「これ、私のなの、かわいいでしょ。さあ、乗って乗って。あ、靴は脱いでね、土足現金!」
車の中はふわふわのムートン地のものであふれていた。座席やフロント、足元までふわふわだった。
「シートベルト締めてね」
「俺も車ほしいな」
「買うなら赤にしなさいよ」
暫く車を走らせ、取り留めのない会話をする。ふと、会話が途切れ
「なあ、ひとつ聞いていいかな、なんで海は赤いのが好きなんや」
「私ね、言われたの、ちっちゃい頃に、あ~、今もちっちゃいって思ったでしょう」
「いやいや、そんなことないで」
(部分的には育ってたで、小ぶりながらもええもん持ってたしな、それに生えとった、この前確認したし)
「おっきいおっきい」
「も~。私が小学校上がる前だったかな、ある出来事があったの」
「内容はちょっと小さかったんで忘れちゃったけど、その時赤い服着たお姉ちゃんが助けてくれたの。この人はすごいって子供心におもったのね。」
「どんなことがあっても、全然あきらめなかったの。その人が赤が好きで、赤は情熱を表す色だって言ってたの。で、憧れて私も赤が好きになっちゃった。と言うわけ」
「その人は今、どうしてるんや」
「解らなくなっちゃった、どこに言ったか知らないの」
「ふ~ん」
「顔も名前ももう覚えてないんだけどね、赤だけは・・・」
* * *
「さあ、付いたわよ」
「結構早く着いたなあ」
「車なんで、すぐよ。でも、ちょっとまってて」
大地を下に待たせて自分の部屋に飛び込む海。暫くして非常にラフな服装に着替えて戻ってきた。
「さあ、入って、入って」
「なんか造るけど、あんたも食べるでしょ?カレーぐらいしかできないけど」
「あんまりぎょ~さんはいらんで、ビーもまっとるからな」
「沢山つくるからビーちゃんに持って帰えったらいいじゃない」
「ありがと、そうさせてもらうわ」
大地は料理ができるまで海の部屋で待たせてもらう事になった。手持無沙汰そうにキョロキョロしてる。
はじめ、「手伝うわ」といってジャガイモの皮をむこうとしたが、海に「邪魔邪魔」、と言われ台所を追い出されたのだった。
階下では海の発てる包丁の子気味よい音がしてる。
海から「タンスの中、漁ったら、わかってるでしょうね。」と釘を刺されていたので、我慢している。しかし、慌てて入れたのだろうか、引き出しの端から覗いている水玉模様の布が非常に気になる大地。
カレーの良い匂いが漂ってきて、口の中に唾が溜まっていくのを感じる大地。
「大地~、出来たよ~」
海が呼ぶ声に、この部屋から離れがたい衝動を抑えながらのろのろと階下に向かう。
ダイニングテーブルの上にカレーだけでなくいつの間にか作ったサラダも置かれており、食欲をそそる。もちろん赤いトマトが乗っている。赤は大事らしい。
「遠慮なく頂くで、頂きます」
にっこり笑顔の海が応じる。
「はい、召し上がれ」
「海はいつも笑ってた方がいいな」
ほとんど怒られてばかりの大地がぼそりと言葉を発する。
「なにそれ、口説いてんの」
若干の期待をこめて海が問い返す。
「笑ってるほうがかわいいっていってんの」
真っ赤になって俯く海。
「なにそれ・・・」
扉から海のお母さんの珊瑚さんが入ってきた。
「いらっしゃい、大地さん」
そして海だけに聞こえるように耳元に口を近づけてポツリと
「新婚の予行演習?がんばんなさいな」
そして笑いながら出て行った。
大地は何気なく思った
(顔を見にきたのかな)
そして、8時ちょっと前に海の親父さんがやってきた。
「いらっしゃい、大地くん。正式に挨拶するのはこれが初めてだね。私が海の父の小草生月岸壁だ。よろしく」
「水無月大地です。よろしくお願いします」
「観察者のことで話があるとか、伺おうか」
「はい、観察者、ビーと言う名前ですけど、ビーが学校に行きたいと言い出しまして、それでこちらでなんとかできないかなあと思いまして」
「ふむ、より人とのコミュニケーションをとろうと言うことだな。わかった、直ぐ手配しよう」
「なんか、ビーは行きたい学校があるようなんです」
「どこだね」
「えーと、トゥーなんとか、トゥーネックパーレント女学院やったかな」
「ああ、そこなら問題ない。海も通った学校だ」
「そう、私もかよったのよ。文句ある?」
「あそこは、お嬢様の通う学校・・・」
胸をはってこたえる海。
「私はお嬢様よ」
「・・・いいけど」
「因みに、空も通ったそうよ。同じだったらしいけど、その時私は気付かなかったわ」
「まあ、空さんは納得やけどね」
「遅くとも再来週には通えるようになるだろう。詳細はあとで海を通じて連絡しよう」
「よろしくお願いします」
玄関にて
「今日は、ありがとうございました」
「いや、ビー様の事だからね、あたりまえだよ。ところで、海についてよろしく頼むよ」
「はあ」
「気の無い返事だね、君も薄々気が付いてるんじゃないのかい?」
「まあいい、これも本人次第だ、ビー様同様海のこともよろしく頼む」
奥から鍋を持った海がやってきた。
「なんの話?これ、持って帰ってビーちゃんと食べて。持てないだろうから車で送るわ」
「ありがとうな」
海に送ってもらってから、あらためてビーと一緒に晩御飯を食べる。大地はビーにひとりで食べる味気ない想いはさせたくないのでもう一度食べている。
(腹いっぱいだったが不思議と入るんだな、まあ、このカレー美味いし)
そして、海の親父さんとの話の内容を伝えてやる。
「本当?ほんとに本当?」
最初疑いの目で見られていたが、本当だと言ってやると
「本当」
徐々に笑顔が広がり満面の笑顔となる。
(それほど行きたかったのか。こちらから気付いてやれなかったのは悪いことしたなあ)
その日、夜おそくまで騒いでいて、気がついたら眠っていたのでそのまま寝かせてやった。
1週間ほどが過ぎて、俺とビーはそのトゥーネックパーレント女学園の正門前に立っている。一応形式だけだがテストと面接を受けなければならないらしく、平日の朝10時に俺たちはここに来ている。
名門お嬢様校であるので保護者の俺の面接もあるらしいので俺も来ている。
(それにしても面白い名前の学校やなあ、トゥーネックパーレント女学園やて。そこそこ有名やけどな。直約したら2個の首の親やね、両親って意味かな?なんか聖書の云われでもあるんかいな)
なんて事を思いながら立っている。
午前中に筆記テストがありビーが受けた結果全問正解だったらしく、教師たちが大騒ぎしていたらしい、あとでこっそり校長先生が教えてくれた。
力量を見る為に高校入試はおろか大学入試の問題まで混ぜていたのに。全て解いてしまった。しかもテスト開始5分ほどでだ。
急きょ全教科の問題を一度にやらせてみたところ、全ての回答欄に書き終わるのに10分程度であった。
実は、問題自体は見た瞬間に解けていたのであるが、手を使って回答する行為に慣れておらず、苦労しながら書いていたのだった。
午後から面接だというので中庭でお弁当のおにぎりを食べていると、髪の長い日本人形のような非常に綺麗な子が走ってきた。手を力いっぱい振っている。
「ビーお姉さま~」
「帝なの~」
ビーの知り合いのようだ。走ってきてそのままビーに抱きついた。
(なにこれ、倒錯の世界に入りそう)
「今日は制服ではないんですね」
(まあ、そりゃそうやな、これから試験うけるのにすでに制服きとったらどう思われるか解らんからな)
大地はそんなことを思いながら二人をみていた。
いま、ビーが着ているのは白いブラウスに胸元に大きな赤いリボン、スカートは黒でひざの高さまであるものを穿いている。面接があったのでおとなし目のものを着ている。
「あの、こちらの方は?」
おずおずと大地のことを聞いている帝。
(まあ、ビーが紹介してくれるはずもなし、ここは俺から言わんとあかんかな)
そんなことを思っていた大地だが、急にビーが大地をみて口を開いた。
「この人はダイチくん。ビーの大事な人なの」
(おお、ビーが紹介してくれた。でもその言い方は勘違いされるんとちゃうか)
帝が確認の為、口を開く。
「恋人さんですか」
「ビーとダイチくんは体が繋がってるの。離れられない関係なの」
(いや、そうなんだけど、誤解が誤解を生むような言い方はやめて下さいビーさん)
ダメ押しとばかりにビーは大地に抱きつき、そして・・・。辛うじてその唇の猛攻をしのいだ大地。
「むう」
ビーは不満そうだ。
固まっていた帝が動き始めた。
「ラブラブなんですね」
「申し遅れましたわ、私は暮新月帝、ビーお姉さまの妹です。先日、妹にして頂きました」
満面の笑顔。この笑顔で見つめられると非常に危ない。
「俺は水無月大地、ビーの保護者みたいなものや、よろしく」
(この方もビーお姉さまと同じ匂いがありますのね。この方も能力者かしら)
「ビーお姉さまのお名前も水無月ビーとなっていますのね」
「その辺は気にせんといてや、便宜上やから」
「まあいいですわ、先ほど、聞きましたわよ。ビーお姉さまのテスト結果はオール満点だったとか。さすが、私のビーお姉さまですわ、私、鼻高々ですわ」
「英語の喋るテストで無くてたすかったわ。理解できるけど、ようしゃべらんからなビーは」
「まあ、そうですの」
「日本語もちょっとおかしいやろ」
「そこは、個性です。ビーお姉さまの良いところですわ」
そんな会話をしているうちに昼休みの終了を告げる鐘が鳴る。
「名残り惜しいですが、今日はこれで失礼しますわ」
一度ビーに抱きついてから帝は去って行った。
「なんか、すごいお嬢様やったねえ。さあ、俺たちも行こか」
面接は校長先生直々に校長室で行うようだった。ビーと大地は校長室に通された。
大地は少々落ち着けないようだ。ビーは相変わらず何時もと変わらず興味深くキョロキョロしていた。
後ろのドアから校長先生が入ってきて、面接が始まった。
「お待たせしました。それでは、面接を始めましょう」
「いくつか質問をさせていただきます。それに良く考えて答えて下さい」
「まず、ビーさんに質問です。あなたはなぜ地球にきたのですか?そしてなにをしようとしているのですか?」
大地は息をのんだ。ビーの正体を知っているとは思わなかったからだ。考えてみれば当たり前の事で、カーボナーによって手配されたのだから、その学校のトップが知っていて当然なのである。
ビーのいつもののほほんとした表情が消え真剣に考えているようだった。その表情は少しツバイのようだと大地は思った。ビーが口を開いた。
「ビーは初め好奇心からこの地球にやってきたの。そして、この地球でダイチくんをみつけたの。ダイチくんと共に歩んで生きたいと願ったの、今はそれだけ」
「それでは質問を変えます。ビーさんの寿命は大変に長い。大地さんが亡くなった後、あなたはどうしますか」
「・・・、はっきりとはわからないの、ただ、ダイチくんが生きたこの世界が愛おしくて、多分だけど人がいなくなるまで留まり続けるとおもうの」
「そうですか、大地さん。このビーさんはあなたを愛するが故、あなたがいなくなってもこの地球に留まる、守ると言われています。あなたも、ビーさんに相応しい人になってくださいね。今はまだ日々の生活二人で楽しんでゆっくり進んでください。いまにわかりますから」
意味深な事を言う校長。
「校長先生はカーボナーなんですか」
「そう、私は多分この星で一番長く生きている者です。如月指令とは違う種族ですけどね」
「御幾つなんですか」
「あら、女性に歳を聞くものではなくてよ。逆に幾つに見えますか」
「う~ん、ズバリ48歳」
「ありがとう。私の名前は八百比丘尼とだけ言っておきます。あとはご自分で御調べなさいな」
校長はとんでもない人のようだ。
「それではビーさん、これで面接を終わります。トゥーネックパーレント女学院にようこそ。今日からあなたも学院の一員です」
「ちょっと気になっていることがあるんやけど、お聞きしてもいいですか」
「なんですか」
「この学園の名前なんやけど、どんな意味があるんでしょうか」
「ああ、それはね、トゥーネックパーレントは直訳すれば2個の首の親でしょう。2首親、読みだけにしたらニクビオヤ逆から読んだら、ね、わかったでしょう。トゥーネックパーレントはなかなか意味深でいいでしょう。気にいってるのよ」
「・・・」
そしてビーが学院の一員となった。
お読みいただき嬉しいです。
校長先生は長生きなんです。




