第5章:決死のバスタオル混浴(※ただし、現場は化学災害)
「……いいか、ユリア。守護霊様を無下にしない方がお前の為だぞ」
私がインスタントラーメンをすすりながら悶々としていると、カパ吉が私の耳元で、妙に神妙な声で囁いてきた。
「本当に願いを叶えたいのなら、一時の羞恥心など捨ててしまえ。お前だって、未来永劫、立派な配偶者と愛の巣を築きたいのだろう? お前は料理も上手だしな、自信を持て」
「う……」
料理を褒められたことと、「立派な配偶者と愛の巣」というキラーワードに、私の心が激しく揺れ動く。
恥ずかしいのは当たり前だ。二十九歳の独身女性が、河童と、ガリガリの日本兵の幽霊と一緒にお風呂に入るなんて、正気の沙汰じゃない。
でも――でも、幸せな結婚生活はしたい!! ここで引いたら、私は一生独身のまま、都内のワンルームで干からびるかもしれないのだ!
「……分かったわよ! 覚悟を決めればいいんでしょ、決めれば!」
私は意を決して立ち上がり、ユニットバスに向かってお湯を溜めた。
背後を振り返ると、そこにはニヤニヤといやらしい顔をしたスケベジジイ(曾祖父ちゃん)と、クチバシをいやらしく歪めたアホなエロガッパ(カパ吉)がスタンバイしている。
「……お風呂、沸いたわよ」
私が告げるが早いか、二人のバカは「待ってました!」とばかりに狭いバスルームへ突撃していった。
カパ吉は嬉しそうにシャワーの冷水を浴びて頭のお皿を満たしている。問題は、もう一人のほうだ。
「よし! 川田鉄二一等兵、入浴する!」
曾祖父ちゃんは私の目の前で、ボロボロの軍服を脱ぎ捨て、最後の一枚だった薄汚れた褌まで躊躇なく引きちぎるように脱いだ。完全なるフルチンである。
「お嬢さん、ついでに俺の軍服や下着の洗濯をしてくれるか? ビルマの泥が染みついておってな」
「……はいはい、やりますよ。やればいいんでしょ!」
私は唖然としながらも、もはや怒る気力すら失せて、泥臭い軍服を洗濯機に放り込んだ。
バスルームからは、二人のバカが「うおー! 水が心地よいぞ!」「相撲をとるか!」と狭い空間ではしゃぎ回る声が聞こえてくる。
「おい、ユリア! 早く来いよ! どれで身体を洗えばいいんだ?」
カパ吉の生意気な呼び声が響く。
私はゴクリと唾を飲み込み、胸元にしっかりとバスタオルを巻きつけた。恥ずかしさに顔を真っ赤に染めながら、恐る恐る、ユニットバスの戸を開けた。
――そして、開けた瞬間。私は再び、本日何度目か分からない呆然自失状態に陥った。
「ふー、しゃっきとするな。この石鹸は! 泡立ちがたまらない仕様だな!」
あろうことか、川田鉄二一等兵(曾祖父ちゃん)は、浴槽の脇に置いてあった緑色のプラスチックボトル――『お風呂用洗剤』を頭からドボドボとぶっかけ、青いナイロンの『浴槽洗い用ブラシ』で、自分の坊主頭とガリガリの身体を全力でゴシゴシと擦り洗っていたのだ。
カパ吉はその横で、洗剤の強烈な柑橘系の泡にまみれながら「さすが未来の道具、汚れがよく落ちるぞ!」と拍手している。
「ちょっと待ってぇぇぇぇ!!! それ、お風呂の湯垢を落とす強力洗剤だからァァァァ!!! 身体用じゃないからァァァァ!!!」
私の決死のバスタオル姿など、一ミリも意識されることはなかった。
そこにあるのは、ただのケミカルな泡にまみれた変態たちの地獄絵図だった。
私の白馬の王子様……お願い、このカオスから私を救い出して……!!
(第5章・完)




