第4話 冒険者の日常④
街を出てしばらくすると、石畳の道は次第に土の道へと変わっていった。
街道の両側には草原が広がり、その先には木々の生い茂る森が見える。時折、荷馬車や旅人とすれ違うものの、街の中と比べれば人通りはずいぶん少ない。
「さて、と。目的地まではもう少しってところかね」
先頭を歩いていたジュリオが、道の先を眺めながら言った。
「ええ。予定どおりに進めば、昼前には採取を始められるはずよ」
手元の依頼書を確認しながら、ミレイが答える。
「必要な薬草は、指定された種類を規定数。傷めずに持ち帰ることが条件だったな」
ゲオルグが背中に背負った大きな盾を揺らしながら、念を押した。
「そうですね。採取した薬草の状態も確認されるでしょうから、丁寧に扱わないといけません」
エルマも頷く。
今回の依頼は、近隣の森で薬草を採取するというもの。報酬は銀貨十枚。危険度の高い仕事ではないが、森には小型の魔物が出没するという情報もあった。
「ユノ、採取する場所は覚えているか?」
ジュリオに尋ねられ、ユノは手元の地図を開いた。
「はいっ!この街道を進んで、森の入口から少し入ったところですね。…目印になる岩場があるって書いてあります。」
「よし。じゃあ、道中は俺が周囲を見ておく。何かあったら声をかけるからな」
「お願いします、ジュリオさん」
「おう。任せとけ」
ジュリオは軽く手を振ると、再び歩き始めた。
その足取りには無駄がない。何気なく周囲を見回しているようでいて、道端の草むらや木々の間にも、さりげなく目を配っている。
ユノはそんなジュリオの様子を見ながら、仲間たちの歩く姿を眺めた。
大きな盾を背負ったゲオルグ。落ち着いた足取りのエルマ。周囲の魔力の流れに意識を向けているらしいミレイ。
それぞれ違うことをしているようでいて、誰もが周囲への注意を怠っていない。
冒険者としての経験の差。
それは、こうした何気ない移動の中にも表れていた。
「……どうした、ユノ?」
視線に気づいたゲオルグが、首を傾げる。
「あっ、いえ。みんな、周りをよく見ているんだなって」
「ふむ。森に入れば、道の上だけ見ておればよいというわけにはいかんからの」
ゲオルグは穏やかに笑った。
「魔物だけでなく、足場の悪い場所や、崩れやすい斜面にも注意が必要だ。焦らず、周囲を見る癖をつけるとよい」
「はい。気をつけます」
「ま、最初から全部できる必要はないさ」
ジュリオが振り返り、にやりと笑った。
「俺だって、最初からこんなに頼りになる男だったわけじゃねえからな」
「……今でも十分に頼りになるかどうかは、評価が分かれるところね」
ミレイが淡々と口を挟む。
「おいおい、そこは素直に褒めてくれてもいいんじゃねえの?」
「褒めるべきところがあれば、そうするわ」
「手厳しいねえ」
ジュリオが肩をすくめると、ユノは思わず笑みをこぼした。
いつものやり取り。
けれど、その空気がユノには心地よかった。
やがて一行は街道を外れ、木々の間を抜ける小道へと入っていった。
*
森の入口を抜けると、頭上を覆う枝葉の隙間から、細い光が地面に差し込んでいた。
湿った土の匂い。風に揺れる葉の音。遠くで鳥が鳴いている。
ユノは足元に気を配りながら、地図と周囲の景色を見比べた。
「あっ、見てください!あの岩じゃないですかね?」
少し先に、苔に覆われた大きな岩が見えた。
「お、目印を見つけたか。じゃあ、あの辺りから探してみるとするかね」
ジュリオが周囲を確かめながら答える。
「ただし、採取に夢中になって周囲への注意を忘れぬこと。小型の魔物が出る可能性があるのじゃからな」
ゲオルグの言葉に、ユノは背筋を伸ばした。
「はい!」
五人は周囲を確認しながら、目的の薬草を探し始めた。
薬草は、木の根元や岩陰など、直射日光の当たりにくい場所にまとまって生えていた。
「これが依頼書に描かれていた薬草ですね」
エルマが一株を見つけ、葉の形を確認する。
「ええ。特徴は一致しているわ。採取するときは、葉や茎を傷めないように。根まで必要かどうかも確認しておくといいわ」
ミレイが依頼書を覗き込みながら説明した。
「分かりました」
ユノはしゃがみ込み、薬草の根元にそっと手を添えた。
急いで引き抜けば、葉が破れたり、茎が折れたりするかもしれない。指先で土を少しずつほぐしながら、丁寧に採取していく。
「……よし。これなら大丈夫かな」
採取した薬草を手のひらに載せ、ユノは葉の状態を確かめた。
「丁寧ですね、ユノ」
近くで別の株を探していたエルマが、優しく声をかける。
「せっかく採ったのに、傷んでしまったらもったいないですから」
「そのとおりね。依頼の条件を守るのも、冒険者の仕事のうちよ」
ミレイはそう言って、採取した薬草を確認した。
そのときだった。
少し離れた茂みから、かすかな物音が聞こえた。
ジュリオの手が止まる。
「……静かに」
低い声に、全員が動きを止めた。
葉擦れの音に混じって、何かが地面を踏む音がする。
ジュリオは腰のダガーに手を添え、音のした方向へ視線を向けた。
「何かいるな。小型の魔物かもしれねえ」
ゲオルグが一歩前へ出る。
背負っていたアイアンラージシールドを下ろし、左腕に構えた。右手にはアイアンメイス。
「ユノ、エルマの近くに。無理に前へ出るでないぞ」
「は、はい!」
ユノは採取した薬草を傷めないよう袋へ収め、エルマのそばへ移動した。
ミレイは短い杖を構え、茂みの奥を見つめる。
「……一体ではなさそうね」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、茂みから灰色の小型魔物が飛び出してきた。
「来たぞ!」
ゲオルグが盾を前に出す。
魔物が勢いよく突進してきたが、硬い盾に阻まれ、鈍い音とともに弾き返された。
体勢を崩した魔物の横手から、ジュリオが素早く回り込む。
「悪いな。こっちは仕事中なんだ」
ダガーを手に、魔物の動きを牽制する。
その間にミレイが杖を向けた。
「動きを止めるわ。ゲオルグ、少しだけ右へ」
「承知した!」
ゲオルグが盾の角度を変える。
ミレイの放った魔法の塊は、魔物の進路を正確に塞ぐように地面へと走った。逃げ道を制限された魔物が向きを変えようとしたところへ、ジュリオが間合いを詰める。
「まずは1匹っ!!」
ジュリオが、手にしたダガーを魔物の急所に滑り込ませた。
もう一体が、横手からゲオルグを避けてユノたちのほうへ走った。
「ユノ、下がって!」
エルマが声を上げる。
ユノは反射的に後ろへ下がった。魔物が目の前を横切り、エルマがその進路を遮るように立つ。
その直後、ジュリオの投げた小石が魔物の注意を引いた。
「こっちだ!」
魔物が振り向いた隙に、ゲオルグが大きな盾で進路を塞ぐ。
ミレイが短く詠唱し、魔法を放った。
ミレイの放った魔法が直撃し、魔物は地面に倒れ、そのまま動かなくなり霧散した。
森に、再び静けさが戻る。
「……終わった、の?」
ユノは少し緊張した面持ちで、仲間たちの様子を見た。
「ひとまずな。ジュリオ、すまないが周囲を確認してくれ」
「了解。ほかに仲間がいないか、見てくる」
ジュリオは周囲を警戒しながら、少し離れた場所まで足を運んだ。
ゲオルグは盾を構えたまま待機し、ミレイも魔力の反応を探るように周囲へ意識を向ける。
やがて、ジュリオが戻ってきた。
「今のところ、ほかに気配はねえな」
「そう。なら、警戒は続けつつ採取を再開しましょう。日が傾く前に戻りたいもの」
ミレイが杖を収めた。
エルマはユノのそばへ寄る。
「ユノ、怪我はない?」
「はい。大丈夫です」
「よかった。驚いたでしょう?」
「少し……でも、皆さんの動きがすごくて」
ユノは、先ほどの戦闘を思い返した。
ゲオルグが正面から攻撃を受け止め、ジュリオが隙を作り、ミレイが魔法で相手の動きを制限する。エルマは周囲を支えながら、仲間が危険にさらされないように動いていた。
自分は、とっさに下がることしかできなかった。
まだまだだな、とユノは思う。
「今は、無事に済んだことを喜びましょう」
エルマが穏やかに言った。
「次に同じようなことがあったとき、どう動けばいいか。それは、少しずつ覚えていけばいいのよ」
「……はい!」
ユノはしっかりと頷いた。
*
周囲の安全を確認したあと、五人は薬草採取を再開した。
幸い、先ほどの騒ぎで採取済みの薬草が傷むことはなかった。
必要な数が揃ったところで、ユノは採取袋を開いた。
「ええと、まずは……」
採取した薬草を一つずつ取り出し、葉や茎の状態を確認していく。
折れたものはないか。押し潰されたものはないか。種類や大きさが混ざって、余計な負担がかかっていないか。
丁寧に確かめたあと、ユノは両手をそっとかざした。
「――《整理》」
淡い魔力が薬草の周囲を包む。
ばらばらになっていた薬草が、種類ごとにまとまり、葉や茎を傷めないように整えられていく。
ユノはその仕上がりを確かめると、続けて魔法を使った。
「――《保存》」
薬草を包む魔力が静かに落ち着く。
採取したばかりの状態を保ち、持ち帰るまでの傷みを抑えるための処置だ。
派手な光も、大きな音もない。
けれど、ユノの手つきには迷いがなかった。
「……よし。これで大丈夫」
薬草を採取袋へ丁寧に収め、ユノは満足そうに頷いた。
「おお、相変わらず器用なもんだな」
ジュリオが感心したように覗き込む。
「これなら、帰り道で多少揺れても安心ですね」
「えへへ。薬草を傷めずに持ち帰るのも、今回の依頼の条件ですから」
「そうね。採取の段階から保存まで、きちんと管理できているわ」
ミレイが薬草を確認し、納得したように頷いた。
「魔法の使い方も丁寧ね。必要なところに、必要なだけ。無駄がないわ」
「ありがとうございます、ミレイさん」
ユノは照れくさそうに笑った。
その横で、ゲオルグが盾とメイスを地面に立てかけた。
「さて、こちらも片付けるとするかの」
戦闘で付着した泥や草の汁が、盾や鎧の表面に残っている。
それを見たユノは、ぱっと顔を上げた。
「あっ、ゲオルグさん。武具を綺麗にしますね!」
「おお、頼めるか」
「はい!」
ユノはゲオルグの盾に手をかざした。
「――《洗浄》」
ユノがゲオルグの大盾に手をかざすと、柔らかな魔力が表面を滑るように広がった。
付着していた泥や汚れが、まるで最初からなかったかのように取り除かれていく。
盾の表面は、再び本来の金属の色を取り戻した。
「おお、これは助かるのう」
ゲオルグは盾の表面を確かめ、満足そうに頷いた。
「では、こちらも」
ユノは盾の留め具や、手入れの必要そうな部分に目を向ける。
「――《整備》」
控えめな魔力が、金具や接合部を包み込んだ。
動作に引っかかりがないか、緩みがないか。ユノは状態を確かめながら、魔法を丁寧に行き渡らせていく。
「ふむ。これなら次の仕事でも気持ちよく使えそうじゃな」
「よかったです!」
「おいおい、俺のダガーも忘れないでくれよ」
ジュリオが自分のダガーを差し出した。
「はい。まずは汚れを落として、それから状態を確認しますね」
「頼もしいねえ。武具の手入れまでお任せできるとは」
「でも、刃こぼれや深い傷まで直せるわけではありませんよ」
「おっと、そいつは残念。そこまでいくと鍛冶屋の出番か」
ジュリオは笑いながらダガーを受け取った。
「ホントありがてえ。いやぁ、うちのパーティーには便利な魔法使いがいるもんだ」
「私は魔法使いというより、生活魔法が得意なだけですよ」
「それがいいんじゃねえか。冒険ってのは、魔物を倒せば終わりってわけじゃねえからな」
ジュリオは笑いながらダガーを腰に提げた。
ミレイはその様子を見て、静かに口を開いた。
「そのとおりね。戦闘能力だけで冒険者の価値が決まるわけではないわ」
「おや。珍しく意見が合ったな、ミレイ先生」
「あなたと意見が合うことくらい、珍しくもないでしょう」
「いやいや、そう言われると照れるねえ」
「褒めていないわ」
いつもの掛け合いに、ユノはくすりと笑った。
こうして戦闘のあとに武具を整え、採取した薬草を確認する。
それもまた、冒険者の仕事の一部なのだ。
*
片付けを終えた五人は、帰路についた。
森を抜けるころには、木々の間から差し込む陽の光も少しずつ傾き始めていた。
「必要な数は確保できたし、薬草の状態も問題なし。これなら依頼は無事に達成できそうね」
ミレイが採取袋を確認しながら言った。
「道中も、帰りも、気を抜かないことじゃな」
ゲオルグは相変わらず周囲への警戒を怠らない。
「分かってますって。まあ、帰り道くらいは平和であってほしいもんだがね」
ジュリオが軽口を叩く。
「そうですね。何事もなく帰れるのが一番です」
エルマが頷いた。
ユノは、採取袋をそっと確かめた。
薬草は傷んでいない。整理も保存も、きちんとできている。
依頼を達成できたという安堵が、胸の中にじんわりと広がっていった。
「……よかった」
「ん? どうした、ユノ」
ジュリオが振り返る。
「ううん。ちゃんと薬草を持ち帰れそうで、よかったなって」
「ははっ。まだ街に着いてもいないぜ?」
「もう、ジュリオ。そういうことを言わないの」
エルマがたしなめると、ジュリオは悪びれもせずに笑った。
「はいはい。気をつけますよ、エルマさん」
その後も、五人は他愛のない話をしながら街道を歩いていった。
やがてリュネルトの街の門が見えてくる。
門をくぐり、冒険者ギルドへ向かう足取りは、出発したときよりも少しだけ軽かった。
依頼の報告を済ませ、採取した薬草の状態を確認してもらう。
結果は問題なし。
五人は報酬の銀貨十枚を受け取り、今回の仕事を無事に終えた。
「さて、と。これで今日の仕事は終わりだな」
ジュリオが満足そうに伸びをした。
「そうですね。皆さん、お疲れさまでした」
エルマが微笑む。
「うむ。大きな問題もなく終えられて何よりじゃ」
ゲオルグも頷いた。
「……ところで、帰る前に少し寄り道をしてもいいかしら」
ミレイがふと思い出したように口を開いた。
「ん? どうしたんだ、ミレイ」
隣を歩いていたジュリオが顔を向ける。
「薬草の保存状態について調べておきたいの。さっき、ユノが魔法を掛けていたとき、じっくり観察できなかったから」
「ああ、なるほどな」
ジュリオは納得したように頷いた。
採取した薬草は、すでにユノの生活魔法によって保存処理が施されている。見た目だけなら、採取してからそれほど時間が経っていないかのような状態を保っていた。
もっとも、ミレイが気にしているのは、単に薬草が傷んでいないということだけではない。
どの程度、採取したときの状態が維持されているのか。一般的な保存魔法と何が違うのか。
実際に確かめてみたいことが、いくつもあった。
「それで、どこに寄るつもりなんだ?」
「冒険者ギルドの近くに、薬草の状態を詳しく調べられる場所があるでしょう? そこで少し確認させてもらおうと思って」
「……少し、ねえ」
ジュリオが意味ありげに呟いた。
「何かしら?」
「いや、別に?」
ミレイは怪訝そうにジュリオを見たが、それ以上追及することなく、再び前を向いた。
やがて五人は冒険者ギルドへと戻り、採取した薬草を納品する前に、状態を確認できる場所を借りることになった。
ミレイはさっそく薬草を取り出すと、机の上に丁寧に並べていく。
葉の色、張り、表面の水分。一本ずつ手に取り、角度を変えながら観察する。ときおり香りを確かめ、採取したときの状態を思い返すように目を細めた。
「ふむ……葉の張りは十分に保たれているわね。色にも目立った変化はないし、香りも……」
そこでミレイは、もう一度、薬草に顔を近づけた。
「……やっぱり、気になるわね」
「何がですか?」
傍らから覗き込んでいたユノが尋ねる。
「採取してから、これだけ時間が経っているのよ。それなのに、状態の変化がほとんど見られない。少なくとも、私が知っている一般的な保存魔法とは様子が違うわ」
「えっ? そうなんですか?」
「ええ。もっとも、これだけで何が起きているのか断定することはできないけれど」
ミレイは手元の薬草を置き、別の一本を手に取った。
「ユノ、もう少し詳しく聞かせてもらえるかしら。魔法を掛けるとき、何か意識していることはある?」
「えっと……傷まないように、状態を保つこと、でしょうか?」
「その状態というのは、具体的には?」
「具体的に……ですか?」
ユノは困ったように首を傾げた。
「うーん……葉っぱがしおれたり、乾燥しすぎたりしないように、とか……。あとは、できるだけ採ったときのままでいられるように、でしょうか」
「採取したときの状態を維持する……」
ミレイはその言葉を小さく繰り返した。
そして、再び薬草へ視線を落とす。
「なるほど。そういうことなのね……」
何か思い当たることがあったのか、ミレイはしばらく黙り込んだ。
その横で、ジュリオが小さくため息をつく。
「おいおい、なんか始まっちまったぞ」
「まだ始まったばかりじゃろう」
ゲオルグも腕を組み、机を囲む二人を眺めていた。
「ええ。これから、もう少し詳しく確認する必要があるわね。葉の状態だけでは判断できないし、ほかの薬草でも同じ結果になるか確かめたいところだわ」
「……おい、ミレイ」
ジュリオが声を掛ける。
「何かしら?」
「その調子だと、今日中に帰れなくなるんじゃねえか?」
「そんなことはないわ。あと、いくつか確認すれば済むもの」
「へえ。いくつか、ねえ」
ジュリオは隣のゲオルグと顔を見合わせた。
「ワシには、まだまだ続きそうに見えるがのう」
「だよなあ」
「聞こえているわよ、二人とも」
ミレイは二人を横目で見たものの、すぐに薬草へと視線を戻した。
その様子を見て、ジュリオは肩をすくめる。
「こりゃ駄目だ。完全に研究者の顔になっちまってる」
「仕方あるまい。気になるものは気になるのじゃろう」
ゲオルグはそう言いながらも、そろそろ切り上げたほうがいいのではないかという顔をしていた。
一方、当のユノはというと。
「わ、私は大丈夫ですよ? ミレイさんが調べたいなら、もう少しくらいお付き合いできますし……」
申し訳なさそうに笑いながら、そんなことを言い出した。
「ユノ、お前さんは優しいなあ」
ジュリオは感心したように言った。
「だがな、こういうときは遠慮なく断っていいんだぜ?」
「えっ?」
「……ミレイ?」
不意に、落ち着いた声が響いた。
エルマだった。
先ほどまで少し離れたところで納品の準備をしていた彼女が、いつの間にかこちらを向いていた。
「何かしら、エルマ」
ミレイが顔を上げる。
「いい加減にしなさい。ユノも疲れてるでしょ!!」
「……っ」
ミレイの手が止まった。
普段は穏やかなエルマの声が、ギルドの一角に響く。
「調べたい気持ちは分かるわ。でも、薬草の状態を確認するのに、いつまで掛けるつもりなの?」
「いえ、まだ十分も経っていないはずだけれど……」
「時間の問題じゃありません!」
ぴしゃりと言い切られ、ミレイは口を閉じた。
「ユノだって、朝からずっと歩いて、薬草を採取して、魔法も使っていたのよ。それなのに、あなたが調べたいからって、いつまでも付き合わせるつもり?」
「……それは」
ミレイはちらりとユノを見た。
ユノは慌てて両手を振る。
「わ、私は本当に大丈夫ですよ、エルマさん!」
「ユノも、そこで気を遣わなくていいの」
「は、はい……」
エルマは少し表情を和らげてから、改めてミレイに向き直った。
「調べるのは帰ってからでもできるでしょう? それに、ユノはあなたの研究助手じゃないのよ」
「……そんなつもりではなかったのだけれど」
「だったら、今日はここまで!」
きっぱりと告げられ、ミレイはとうとう観念した。
「……分かったわ」
名残惜しそうに薬草を見つめながら、一本ずつ丁寧に採取袋へ戻していく。
その様子を見ていたジュリオが、にやりと笑った。
「いやあ、助かったぜ。危うく俺たちまで薬草の研究に付き合わされるところだった」
「あなたも、さっきから好き勝手言っているわね……」
「おっと、怖い怖い」
ジュリオは大げさに肩をすくめ、ゲオルグはそんな二人を見て豪快に笑った。
「カッカッカ! これでようやく帰れるのう!」
「まったく……少しくらい融通を利かせてくれてもいいでしょうに」
ミレイは不満げに呟きながら、採取袋の口を閉じた。
「ミレイさん、また今度、時間があるときに調べましょう?」
ユノがそう声を掛けると、ミレイの表情がわずかに明るくなる。
「……そうね。次は、もう少し時間を取ってからにしましょう」
「いや、そういう問題かしら……」
エルマが小さく呟いた。
その声に、ジュリオが吹き出す。
五人はようやくギルドを後にした。
ただし、歩き出してからも、ミレイの視線はときおり採取袋へと向いていた。
その中にある薬草が、まだ彼女の好奇心を刺激し続けているのは、誰の目にも明らかだった。




