第20話 森の恵み④ 黄金色の報酬
翌日の昼前。
五人は村の作業小屋に集まっていた。
依頼の報酬を受け取るためだった。
ハチミツ職人は、用意していた袋をゲオルグに渡したあと、作業台の下から小さな木箱を取り出した。
「それから、こちらも」
木箱の中には、いくつかの小瓶が並んでいた。
瓶の中身は、透き通った黄金色をしている。
「これは?」
ユノが尋ねると、職人は嬉しそうに笑った。
「金銭だけでは、十分なお礼になりませんからね。ウチで採れた自慢のハチミツです」
「おお、これはありがたい!」
ゲオルグが声を弾ませた。
「まぁ!本当に上等なハチミツですね!!」
エルマも瓶を手に取り呟いた。
ジュリオも瓶を手に取り、光に透かしてみる。
「フォレストキラービーの蜜は、採れる量も限られているからなぁ」
職人は説明した。
「魔蜂の女王を刺激しないように採れる範囲は、ほんのわずかです。巣の様子を見ながら、群れの邪魔にならない分だけをいただいているんですよ」
「人間の都合だけで採っているわけではないのね」
ミレイが小瓶を眺めながら言った。
「ええ。魔蜂がいなくなれば、うちの仕事も成り立たなくなりますから。森の恵みをいただく以上、森の暮らしを壊すわけにはいきません」
職人の言葉には、長年その仕事を続けてきた者の実感がこもっていた。
ユノは小瓶を両手で受け取った。
陽の光を受けて、蜜がきらきらと輝いている。
「きれい……。こんなハチミツ、初めて見ました」
「気に入ってもらえたなら嬉しいですよ」
職人が目を細める。
ユノは瓶の蓋を少しだけ開け、そっと香りを確かめた。
甘い香りがふわりと広がる。
いつも食べているハチミツとは、少し違う気がした。もちろん、見た目だけで味の違いがわかるわけではない。それでも、森の中で魔蜂たちが集めた蜜だと思うと、なんだか特別なものに感じられた。
そして、その瞬間。
ユノの頭に、一人の少女の顔が浮かんだ。
――アリサなら、これでどんなお菓子を作るんだろう。
甘いものが好きな友人のことを思い浮かべると、自然と頬が緩んだ。
このハチミツを使えば、いつもとは違うお菓子ができるかもしれない。
焼き菓子に混ぜるのだろうか。それとも、温かい飲み物に入れるのだろうか。
ユノには、まだ想像もつかなかった。
「ユノ、ずいぶん嬉しそうだな」
ジュリオに声をかけられ、ユノははっと顔を上げた。
「えっ? あ、はい!」
「ほう。ハチミツがよほど気に入ったと見える」
ゲオルグが豪快に笑う。
「はい!これ、リュネルトの友達に持っていきたいなって思って」
「なるほどな。いい土産になるだろう」
エルマも微笑んだ。
「きっと喜んでくれますよ」
ユノは小瓶を布で包み、荷物の中へ丁寧にしまった。
割れないように、ほかの道具とは少し離れた場所に。
せっかくの贈り物だ。リュネルトに帰るまで、大切に持って帰ろう。
*
村を出る前、五人はもう一度、ハチミツ職人に挨拶をした。
「本当にありがとうございました。また何かありましたら、ギルドを通じてご相談ください」
ジュリオがそう言うと、職人は深々と頭を下げた。
「こちらこそ。皆さんのおかげで、また村の暮らしを続けられそうです」
森の奥では、魔蜂が相変わらず羽音を立てて飛び回っている。
フォレストマンティスがいなくなったからといって、森が人間だけのものになるわけではない。
村人たちは、これからも魔蜂の縄張りを尊重しながら、少しずつ蜜を採っていくだろう。
その営みが続いていくことを確かめるように、五人は森を後にした。
帰り道、ユノはときどき荷物の位置を確かめた。
小瓶はちゃんと、布に包まれて収まっている。
それを見るたびに、アリサの顔が浮かんだ。
リュネルトに戻ったら、宿屋を訪ねてみよう。
あのハチミツを見せたら、どんな顔をするだろう。
きっと、目を輝かせるに違いない。
ユノはそんなことを考えながら、仲間たちの後を歩いた。
森の恵みを守った帰り道。
荷物の中には、小さな黄金色の楽しみがひとつ増えていた。




