第19話 森の恵み③ 五人の連携
フォレストマンティスの着地と同時に、落ち葉が大きく舞い上がった。
魔物は地面に降り立つなり、最も近くにいたゲオルグへ鎌を振り下ろした。
ガンッ、と鈍い音が響く。
ゲオルグはアイアンラージシールドで攻撃を受け止め、足を踏ん張った。
「ぬうっ……! なかなか重い一撃だな!」
鎌が盾の表面を滑り、金属が擦れる音を立てる。
だが、ゲオルグの体勢は崩れなかった。
「今よ!」
ミレイの声と同時に、魔法が放たれた。
フォレストマンティスの横手で、地面から伸びた蔓が脚に絡みつく。
動きが一瞬だけ鈍った。
その隙を逃さず、ジュリオが側面へ回り込む。
「おっと、こっちだ!」
短い挑発に、魔物の頭部が動いた。
ジュリオは無理に攻撃せず、すぐさま距離を取る。フォレストマンティスがそちらへ向き直ったことで、ゲオルグへの圧力が弱まった。
「ユノ、左側に回れ! ただし、深追いするなよ!」
「わかりました!」
ユノは木の根を避けながら、魔物の側面へ移動した。
狙うのは、魔物の動きを止めることではない。ゲオルグが攻撃を受け止め、ジュリオが注意を引きつけている間に、相手が次にどこへ動くのかを見極めることだった。
フォレストマンティスが鎌を振り上げる。
「ゲオルグさん、右です!」
ユノの声に合わせて、ゲオルグは盾の角度を変えた。
直後、鋭い鎌が盾の縁を叩く。
「すまぬ!ユノ!」
ゲオルグが反撃に転じ、アイアンメイスを振るった。
重い一撃が魔物の前脚を打つ。
フォレストマンティスが身をよじり、距離を取ろうとした。
「逃がさないわ」
ミレイの魔法が再び放たれる。
今度は魔物の着地点を塞ぐように、地面から複数の蔓が伸びた。
完全に拘束するほどの力はない。けれど、魔物の動きをわずかに制限するには十分だった。
「よし、今だ!」
ジュリオが声を上げる。
ゲオルグが盾を前に押し出し、魔物の進路を塞ぐ。
フォレストマンティスが体勢を立て直そうとしたところへ、ユノが踏み込んだ。
狙うのは、鎌ではない。
脚の付け根に近い、関節の部分。
ユノのショートソードが一閃する。
深い傷を与えるには至らなかったが、魔物の脚が一瞬だけ沈んだ。
それで十分だった。
「よくやった、ユノ!」
ゲオルグが間合いを詰める。
アイアンメイスが振り下ろされ、魔物の胴体を強く打った。
フォレストマンティスは最後の抵抗とばかりに鎌を振り回したが、ゲオルグが盾で受け止め、ジュリオが側面から攻撃を加える。
ミレイも魔法を重ね、魔物が大きく動けないようにした。
やがて、その巨体が地面へ崩れ落ちた。
森に静けさが戻る。
「……終わった、のかな?」
ユノは少し離れたところから魔物を見つめた。
「動きは止まっているわ。念のため確認するけれど、討伐できたと考えていいと思うわ」
ミレイが慎重に近づき、魔物の状態を確かめた。
ジュリオは周囲を見回し、ほかに魔物が潜んでいないかを確認している。
「よし。ひとまず依頼は達成だな」
ゲオルグは盾を下ろし、息を吐いた。
「ゲオルグさん、腕は大丈夫ですか?」
エルマが尋ねる。
「問題ない。少し痺れただけじゃ」
「そう言って無理をするのは、いつものことですね」
「む……。エルマ、お主はなかなか手厳しいな」
そんなやり取りに、ジュリオが笑った。
「まあ、いつも通りってことだな」
ユノも思わず笑みを浮かべた。
自分一人で何かを成し遂げたわけではない。
ゲオルグが攻撃を受け止め、ジュリオが相手を誘導し、ミレイが動きを制限してくれた。エルマは後方から仲間たちの様子を見守り、必要なときにすぐ動けるよう備えていた。
そして、自分にもできることがあった。
それが、少し嬉しかった。
*
討伐を終えた五人は、採蜜場の周辺を調べてから村へ戻った。
フォレストマンティスの死骸は、村人が安全に確認できる場所まで運ぶことにした。ミレイによれば、今回の個体がいなくなれば、少なくとも採蜜場付近の危険は大きく減るはずだという。
ただし、森にほかの個体がいないと断言できるわけではない。
そのことも含めて、村人には調査結果を伝えることにした。
村に戻ると、依頼主のハチミツ職人が五人を出迎えた。
「おお、無事に戻られましたか!」
「フォレストマンティスは討伐した。採蜜場の近くにいた個体だ」
ゲオルグが報告すると、職人は深く息を吐いた。
「そうですか……。本当に、ありがとうございます」
その表情から、張り詰めていたものが緩んだのがわかった。
「これで、また森に入れるようになるといいんですが」
「しばらくは、村の方々だけで奥へ入るのは控えた方がいいでしょうね」
ミレイが付け加える。
「今回の個体がどこから来たのかまでは、わかっていないわ。採蜜場の周辺はしばらく様子を見て、魔蜂の群れの動きにも注意しておいた方がいいでしょう」
「わかりました。教えていただいたことは、村のみんなにも伝えます」
職人は何度も頭を下げた。
森の恵みを守るためには、魔物を一匹倒すだけでなく、その後の暮らしも考えなければならない。
それは村人たち自身が、よく知っていることだった。




