第18話 森の恵み② 森に潜むもの
翌朝。
森には、夜の間に降りた露が残っていた。
葉の先から雫が落ち、湿った土の匂いが漂っている。
五人は村人から教えられた道を進み、採蜜場へ向かっていた。
「この辺りだな」
先頭を歩いていたジュリオが足を止めた。
道の脇には、低木の枝が折れた跡があった。地面には、落ち葉が不自然に掻き分けられた場所もある。
ジュリオは腰を落とし、土の表面を指先でなぞった。
「足跡……というより、何かを引きずった跡か。こいつは大きいぞ」
「フォレストマンティスの脚が擦れた跡かもしれないわね」
ミレイが傍らから覗き込んだ。
「カマキリ型の魔物は、獲物を追い回すよりも、身を隠して待つことが多い。周囲の枝葉が不自然に揺れていないかも見ておきたいわ」
「木の上にも注意した方がよさそうですね」
ユノは視線を上げた。
枝が重なり合い、木漏れ日が細かく地面に落ちている。確かに、何かが潜んでいてもすぐには気づけそうにない。
「そうだな。ユノ、足元の痕跡も見てくれ。変わったところがあったら教えてくれ」
「わかりました!」
ユノは頷き、ジュリオから少し離れた場所を注意深く調べ始めた。
しばらく進むと、彼女は地面に散らばる小さな緑色の欠片に気づいた。
「ジュリオさん、これ……」
拾い上げずに指差す。
ジュリオが近づき、目を細めた。
「殻の欠片か?」
ミレイもそれを確認し、しゃがみ込んだ。
「おそらく魔蜂の外殻ね。ここで襲われた個体がいたのね」
少し離れた場所には、細い木の幹に刻まれた傷があった。
刃物で切ったような、鋭く深い傷だ。
「これがフォレストマンティスの鎌によるものなら、かなり近くまで来ている可能性があるわ」
「ならば、そろそろワシの出番というわけじゃな」
ゲオルグが背負っていたアイアンラージシールドに手をかけた。
「まだ敵の姿は見えていませんよ、ゲオルグ」
エルマが穏やかに釘を刺す。
「わかっておる。見えてから構えるのでは遅いこともある、という話だ」
そう言いながらも、ゲオルグは盾を背負ったまま、周囲への警戒を強めた。
五人はさらに奥へ進んだ。
やがて、木々の間に小さな開けた場所が見えてきた。
その向こうには、太い枝が幾重にも伸びる古木がある。周囲には小さな花が咲き、何匹もの魔蜂が行き交っていた。
採蜜場の近くだった。
ジュリオが片手を上げ、仲間たちを止める。
「……いたぞ」
視線の先。
枯れ枝と見分けがつかないほど、周囲に溶け込んだ巨大な影があった。
長い脚。細い胴体。そして、胸元で折り畳まれた鋭い鎌。
フォレストマンティスだった。
魔物は枝にしがみつき、フォレストキラービーが近くを飛ぶのをじっと待っていた。
「魔蜂を狙っているようね」
ミレイが声を潜める。
「このまま放置すれば、また被害が出るでしょう。けれど、魔蜂の巣に近づきすぎるのも避けたいわ」
「どうする?」
ジュリオが尋ねた。
「この開けた場所まで誘導できれば、周囲を確認しながら戦えるはずよ。少なくとも、巣の真下で戦うよりはましでしょうね」
「よし。ワシが前に出る。ジュリオ、お主は退路を見ておけ。ミレイは魔物の動きを読め。エルマは後方を頼むぞ」
「はい!私も周囲を見ておきますね」
ユノはショートソードの柄に手を添えた。
ゲオルグが盾を下ろし、ゆっくりと構える。
その金属音が、静かな森に小さく響いた。
フォレストマンティスの頭部が動いた。
次の瞬間、魔物は枝を蹴って飛び降りた。




