↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/24

第17話 森の恵み① 森の村からの依頼



 リュネルトの冒険者ギルドは、昼を少し過ぎた頃だった。

 依頼掲示板の前では、次の仕事を探す冒険者たちが紙片を見比べている。受付のカウンターには、採取品を納めに来た者や、報酬を受け取りに来た者が並んでいた。

 五人の冒険者パーティも、その日の依頼を探していた。

「おや。ちょうどいいところにいた」

 受付の職員が、掲示板を眺めていたジュリオたちに声をかけた。

「森の村から依頼が届いているんだ。少し厄介な魔物が出たらしい」

「厄介な魔物ねえ。どのくらいの厄介さだ?」

 ジュリオが気軽な調子で尋ねる。

「フォレストマンティスだそうだ。村の採蜜場の近くで目撃されている」

 その名前を聞いて、ミレイが視線を上げた。

「フォレストマンティス……。なるほど、それは確かに放っておけないわね」

「知っておるのか?」

 ゲオルグが尋ねると、ミレイは小さく頷いた。

「森に生息する大型のカマキリ型魔物よ。周囲の植物に紛れるのが得意で、獲物を待ち伏せする。特に厄介なのは、あの鎌ね。人間相手でも十分な脅威になるわ」

「採蜜場の近くということは、村の人たちが襲われる危険もあるんですね」

 ユノが心配そうに言った。

「そういうことだ。すでに採蜜に出た村人が怪我をしているらしい」

 受付職員は依頼書を五人に差し出した。

 依頼主は、森の村でハチミツを生産している職人だった。

 森の村では、フォレストキラービーという魔蜂が集める蜜を採取し、ハチミツを作っている。魔蜂は気性が荒く、縄張りに不用意に近づけば人間であっても容赦なく襲ってくる。

 そのため、村人たちは魔蜂の女王を刺激しないよう、巣の縄張りの境界付近で、限られた量だけを採取していた。

 森の恵みを得ながら、森の住人たちと共に暮らす。

 それが、村で代々受け継がれてきたやり方だった。

 しかし、フォレストマンティスが現れてからは事情が変わった。

 魔蜂の天敵であるその魔物が採蜜場の近くをうろつき、魔蜂の群れを襲うようになったのだ。採蜜に出た村人も被害に遭い、今では森に入ることさえ難しくなっているという。

「ハチミツの採取ができないのは、村にとっても困るだろうな」

 ジュリオが依頼書を読みながら言った。

「ええ。魔蜂の群れが減れば、来年以降にも影響が出る可能性があるわ。単に魔物を一匹倒せば終わり、という話でもないでしょうね」

 ミレイは淡々と答えた。

「ともあれ、人に被害が出ているのなら、放ってはおけぬな」

 ゲオルグが大きな手で依頼書を押さえた。

 エルマも頷く。

「怪我をした方がいるなら、村に着いたら詳しく聞いておきましょう」

「うん。私も頑張りますね」

 ユノは腰のショートソードを確かめた。

 特別な仕事というわけではない。

 けれど、誰かの普段の暮らしを守ることも、冒険者の大切な仕事だった。

「よし、決まりだな。森の村へ向かおう」

 ジュリオの声を合図に、五人はギルドを後にした。

     *

 森の村までは、リュネルトから徒歩で半日ほどの距離だった。

 街道を外れてしばらく進むと、木々の間から小さな家々が見えてきた。家の脇には薪が積まれ、軒先には乾燥させた薬草が吊るされている。

 村の周囲には、森と共に暮らす人々の日常があった。

 五人を出迎えたのは、依頼主のハチミツ職人だった。

「よく来てくださいました。遠いところ、ありがとうございます」

 職人は疲れた顔をしていたが、五人を見るとほっとしたように表情を緩めた。

「さっそくですが、被害について聞かせてもらえますか?」

 エルマが尋ねると、職人は村の外れにある作業小屋へ五人を案内した。

 中には、採蜜に使う道具や空の容器が整然と並んでいた。壁際には蓋を閉じた木箱がいくつも置かれている。

「フォレストマンティスが出るようになったのは、十日ほど前です。最初は森の奥で見かけたという話だったんですが、だんだん採蜜場に近づいてきましてね」

「村人が襲われたのは?」

「三日前です。幸い命に別状はありませんでしたが、腕を切られてしまって……。それからは、誰も一人で森へ入らないようにしています」

「魔蜂の群れにも被害が出ているのね?」

 ミレイの問いに、職人は重い顔で頷いた。

「ええ。普段なら、魔蜂は縄張りの外へ出てくることはほとんどありません。ところが最近は、巣の周りを飛び回っている群れが少なくなっているんです」

「フォレストマンティスが巣を直接襲っているのか、それとも採蜜場に出てくる働き蜂を狙っているのか。そこを見極めたいわね」

 ミレイは考え込むように腕を組んだ。

「目撃された場所はわかるか?」

 ジュリオが尋ねると、職人は作業台の上に広げた地図を指差した。

「この辺りです。大きな倒木がある場所で、一度見かけたという者がいます。その少し先が、いつもの採蜜場です」

「なるほど。まずは痕跡を調べよう。見つからないうちから森の中を歩き回るのは得策じゃない」

 ジュリオは地図を頭に入れると、仲間たちを振り返った。

「明日の朝、出発しよう。今日は村で話を聞いて、装備を整える」

 急ぐ必要はあった。

 だが、焦って森へ入れば、こちらが魔物の待ち伏せに遭うかもしれない。

 五人はその日のうちに、村人から追加の情報を集めることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。