第8話 『フラン共和国』
フラン共和国は、もはや国の形を保っていなかった。
エリオットが失脚し、サラザールが統治者となった瞬間から――国はゆっくりと、しかし確実に腐敗していった。
「治癒魔法を受けたいなら、七割の税を払え!」
サラザールはそう言い放ち、パトリックの治癒魔法を独占して、国民から重税をむしり取った。
税を払えない者は牢獄へ。病気や怪我をしても治療費が払えなければ、ただ天命を待つしかなかった。
孤児が増え、犯罪が増え、国はゆっくりと死んでいった。
そして――革命が始まった。
セントラル公園に立つエリオットの石像。
かつて「国民の裏切り者」と書かれた看板は、国民の手でペンキが塗りつぶされた。
「裏切ったのは……私たちの方だった。」
人々は涙を流しながら、エリオットの政治を思い出し、自分たちの過ちを深く悔いた。
「敵は……サラザールだ!」
国民は気づいた。
この国が病気なのだと。そして、その病気の原因はサラザールだと。
国民は立ち上がった。
その混乱の中――エリザベスが動いた。
「……今なら、助けられる。」
マーガレットの体を操り、パトリックが幽閉されている部屋へ空間移動した。
「マーガレット様……?」
パトリックは驚いた。そして、瞳の奥に宿る“もう一人”の意思を感じ取った。
「エリオットを助けたいのよ。」
エリザベスの声は低く、強かった。
パトリックは頷いた。
「石化を解くには……依り代が必要です。サラザールを依り代にすれば、兄さんを救えます。」
「決まりね。」
エリザベスは微笑んだ。
見張りの騎士に向けて、指先から小さな火炎魔法を放つ。
「ちょっとだけ熱い思いをしてもらうわ。」
騎士は悲鳴を上げて逃げ出した。
パトリックを連れ、二人は堂々とサラザールの部屋へ向かった。
「な、何者だ!」
サラザールの衛兵にも、ほんの少し“熱い思い”をしてもらい、道を開かせた。
サラザールは簡単な魔法しか使えない。
拘束は容易だった。
「離せ!私はこの国の――。」
「黙りなさい!」
エリザベスの声は冷たかった。
サラザールを拘束したまま、セントラル公園のエリオットの石像の前へ連行した。
それは――石化されたエリオット本人だった。
パトリックは静かに石像とサラザールの両方に手をかざした。
「兄さん……今度こそ助ける。トラン!」
石化の魔法が、エリオットからサラザールへ移動する。
サラザールは石化し、エリオットは生身の体へ戻った。
エリザベスは満足げに微笑んだ。
「これで……あなたは自由よ。」
エリオットとパトリックをサラザール所有の馬車に乗せ、コトルー王国へ向かった。
旅の途中――
「マーガレット……助けてくれて、ありがとう。」
エリオットの言葉は、マーガレットに向けられたものだった。
エリザベスは心の中で叫んだ。
「私が助けたのよ!!」
しかし――その声は誰にも届かない。
嬉しさと嫉妬が胸の奥で絡まり、小さなしこりとなって残ったが、マーガレットは大切な姉なのだ。意識の支配を解くと、マーガレットはエリオットを抱きしめた。
コトルー城に戻ると、マーガレット皇女はエリオットとパトリックをオーディナリー王に謁見させた。
娘に迷惑をかけたことを悔いて疲れ果ててしまった王は、久しぶりに寝所から出てきた。
「……よく戻ってきてくれた。」
王は深く頭を下げた。
「私が送った食材のせいで……本当に苦労をさせてしまった。許してほしい。」
エリオットは首を振った。
「王が悪いのではありません。サラザールの謀略です。」
王は静かに言った。
「私は引退し、アルフォンスに王位を譲ろうと思う。」
その言葉に、マーガレットは胸が締め付けられた。
こうして――エリオットとマーガレット皇女、そしてパトリックはコトルー王国に滞在して、新たな未来を考えることになった。




