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コトルー王国物語【完結保証】  作者: 三川三山
第1章 『平凡だが、偉大な者たち』
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第9話 『エリザベスの気持ち』

フラン共和国は、サラザールの失踪によって混乱していた。


「逃げたに違いない!」


国民はそう叫び、サラザールと結託して国民を苦しめていた貴族議員たちを次々と粛清した。


そして――


人々は気づいた。本当に必要なのは、エリオットとパトリックだ。


「あの二人がいなければ、国は立て直せない!」


コトルー王国に庇護されているという噂が広がり、フラン共和国の国民はアルフォンス王に嘆願した。「エリオット代表議員とマーガレット皇女様、そしてパトリック議員を返してください!」


フラン共和国の惨状に心を痛めていた三人はアルフォンス王に頭を下げた。


「国を再建するため、三人で帰国したいのでございます。」


アルフォンス王は静かに頷いた。


「もちろんだ。フラン共和国の再建のため、私も最大限、力になろう。」


こうして、城では三人のフラン共和国への帰還と復権を祝うささやかなパーティーが開かれた。


ゴードンとモーガンは腕によりをかけて料理を作り、アレクシス皇子が乾杯の音頭を取った。


しかし――


一人だけ、祝う気持ちになれない者がいた。


エリザベス。


マーガレットの中に潜む、もう一人の皇女。


「……どうして、あんな国に戻るの?」


彼女はフラン共和国の国民を許していなかった。


「エリオットとマーガレットが毒を盛るはずがない。それなのに、あの国民は二人を裏切った……。」


エリザベスの胸には、エリオットへの好意とフラン共和国民への恨みが日に日に募っていた。


「……いっそ、炎魔法で国民を全滅させてもいいくらいだわ。」


しかし、エリオットがそれを望まないことも知っていた。


どうしようもない気持ちが胸の奥で渦巻く。


そして、エリザベスは決意した。今こそ、自分を主張する最後のチャンスだと。


アレクシス皇子の乾杯が終わり、静寂が落ちたその瞬間――


マーガレットが立ち上がった。


「皆さん、はじめまして。私は――エリザベスです。」


会場がざわめいた。


「マーガレットの中で、一人双子になって存在しています。」


エリオットが震える声で尋ねた。


「本当なのか、マーガレット……?」


「はい。本当です。」


エリザベスは続けた。


「私は、エリオットがフラン共和国へ行くことに反対します。あの国民はあなたを裏切った。あなたを不幸にした。絶対に許せません。」


会場の空気が凍りつく。


「フラン共和国は滅びればいいのです!」


その瞬間――シャルロットが立ち上がった。


「エリザベス様……私の父、サラザールが皆様を不幸にしたこと、心からお詫びします。」


シャルロットは震えながら続けた。


「私は父の悪政を許すことができず、いやになって国を捨てました。国民を先導したのは私の父です。全部、父が悪いのです。国民は反省しています。どうか、やり直す機会を与えてあげてください。もし足りないというなら……私を罰してください。」


その言葉に――


エリザベスの瞳が変わった。


四つの色の異なる瞳。


マーガレットの体を完全に支配した証。


壁から剣を取り、シャルロットの首に切っ先を当てた。


「封印のオーブを持ってこい。サラザールを封印してやる。持ってこなければ――シャルロットがどうなっても知らないぞ。」


言い終わる前に、ゴードンが走り出していた。


「シャルロット王女を殺させるものか!」


封印のオーブを抱えて戻り、叫んだ。


「ほら!封印のオーブだ!シャルロット王女を解放しろ!」


シャルロット王女はアルフォンス王の胸に抱きしめられた。


エリザベスはオーブに手を当て、自分の魔力だけを注いだ。


その瞬間――


マーガレットが二つの黒い瞳で泣き出した。


「エリザベスだけが……封印されちゃった……。」


パイロの声がマーガレットの頭の中に響く。


『封印のオーブは一人用です。次はエリザベスだけで来るようにと言ってありました。』


マーガレットは涙を流しながら叫んだ。


「エリオットとパトリックを助けたのは……エリザベスだったのよ!」


「サラザールを依り代にして石化を移させたのも……エリザベス!」


「エリザベスは……どうしてもフラン共和国には行きたくなかったのね……。」


出席者の半分以上は何が起きているのかを理解できなかった。封印のオーブを知らない者も多い。


アルフォンス王が声を張り上げた。


「皆の者、なにが起きているのかわからないだろうが、マーガレット姉さんがシャルロットに剣を向けたのではないことだけはわかった。だから、とりあえず祝宴を始めようではないか!」


その声でようやく食事が始まった。


食事の間、マーガレットはずっと泣きながら、ゴードンとモーガンがせっかく作ってくれた心づくしの料理を口に入れた。味がしなかった。


翌日――エリオット、マーガレット、パトリックの三人はフラン共和国へ帰っていった。


エリオットとパトリックを救い出し、シャルロットを人質にし、そして――マーガレットを一人双子から解放したエリザベスの扱いをどうしたらよいのか、アルフォンス王は逡巡した。


安全か危険かで言えば、シャルロット王女に剣を向けたエリザベスは危険だと言わざるを得ない。しかしながら、マーガレット皇女の幸せを取り戻した英雄もエリザベスである。そして、一人双子の片割れであれば私の姉でもあるとも言える。果たして、どのように扱うのが良いのか。


悩んだ結果。エリザベス皇女を封印したオーブを北の塔の宝物庫の金庫に保管することにした。


それが、唯一の方法だった。フラン共和国の国民を憎めるなら、いつかはコトルー王国の国民にも害を及ぼす可能性があると考えたからである。

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