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コトルー王国物語【完結保証】  作者: 三川三山
第1章 『平凡だが、偉大な者たち』
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第5話 『エリザベス』

コトルー城の一室。


マーガレットは静かに座っていた。


その瞳は、どこか遠くを見ている。


「……エリオット……。」


愛する人が石化され、国民に追われ、命を狙われ、そして――自分は逃げ帰ってきた。


その事実が、胸の奥で重く沈んでいた。


だが、マーガレットの中にはもう一人の声があった。


エリザベス。


「愚かな国……愚かな国民……。」


マーガレットは胸を押さえた。


「やめて……そんなこと、言わないで……。」


「言うわよ。あの国はあなたを陥れた。サラザールは許せない。いつか必ず――復讐する。」


エリザベスの声は鋭く、冷たく、しかしどこか優しさも含んでいた。


マーガレットは震えた。


「私は……そんなこと、望んでいないわ……。」


「あなたは優しいからね。だから、あなたの代わりに怒るのが私の役目。」


マーガレット皇女は気づいていた。


自分は二重人格ではない。一人の体に二人の意識が存在する“一人双子”。


エリザベスが何を考えているのか、マーガレットには分かる。


そしてエリザベスも、マーガレットが何を思っているのか理解していた。


「あなたは悲しみを抱えすぎた。だから、その痛みは私が引き受ける」


マーガレットは目を閉じた。


「……エリザベスがいてくれたから、私は壊れずにすんだのね。」


「そうよ。あなたが幸せなら、私は生まれなかった。でも――あなたは幸せを奪われた。」


エリザベスの声は静かだった。


「だから私は生まれた。あなたの双子の妹として。」


マーガレットはふと、あの日のことをエリザベスの記憶を通して思い出した。


サラザールの手下に拘束され、エリオットが石化され、絶望の中で――


突然、長距離空間移動魔法が使えるようになった。


それまで使えなかった大魔法。


「あれは……あなたが生まれた瞬間だったのね。」


「そうよ。あなたを守るために、私は生まれたの。」


コトルー城に戻った今、マーガレットは治癒魔法も使えるようになっていた。騎士たちを治療し、炎魔法も扱える。


それは――エリザベスの力でもあった。


「復讐は……できるわ。」


エリザベスの声が低く響く。


「でも、あなたは止めようとしている。それも分かっている。」


マーガレットは震える声で言った。


「私は……誰も傷つけたくない。」


「あなたがそう望むなら、今は従うわ。でも――あなたが再び傷つけられたら、私は止まらない。」


二人の意識は、ひとつの体の中で静かに向き合っていた。


誰にも言えない秘密。


マーガレットとエリザベスは一人双子。そして、エリザベスはマーガレットを守る者。


その葛藤は、まだ誰にも知られていなかった。

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