第4話 『シャルロット』
フラン共和国の貴族街――豪奢な屋敷の中で、シャルロットは静かにため息をついた。
「……もう、耐えられない。」
彼女の父はサラザール。国民を苦しめる圧政を敷き、治癒魔法を独占し、七割の重税を課す男。
シャルロットは、その姿を毎日見てきた。
「国民が苦しんでいるのに……どうして笑っていられるの?」
贅沢な食事、豪華な衣服、何不自由ない暮らし。
しかし――その裏で国民が泣いていることを、彼女は知っていた。
シャルロットは決意した。
この国を捨てる。
馬に乗り、国境を越え、森を抜け、洞窟へたどり着いた。
「ここで……一人で生きていこう。」
狩猟をし、果実を採り、燻製を作り、洞窟で暮らす日々。
そんなある日――
「ゴードン、私は腹が減ったぞ……。」「俺もだ……今日は獲物がいないな。」
アルフォンス皇子とゴードンが、国境近くで狩猟をしていた。
そこへ――
一人の美しい娘が、風のように現れた。
シャルロットは弓を構え、隠れていた野ウサギを二羽、連続で射抜いた。
「す、すげぇ……。」「ゴードン、あの人……すごい。」
ゴードンは慌てて声をかけた。
「あ、あの!私はゴードンと申します!よかったら、その野ウサギを少し分けていただけませんか? 私が料理して、お礼にあなたにもふるまいます!」
シャルロットは少し驚いたように微笑んだ。
「……困ったときはお互い様です。どうぞ。」
そう言って、二羽とも渡して去ろうとした。
「ま、待ってください!私の料理を食べていってください!」
ゴードンは必死に引き止めた。
その熱意に押され、シャルロットは腰を下ろした。
ゴードンは馬から鍋を取り外し、薪に火をつけ、プチフレームの呪文で炎を調整しながら煮込み始めた。
アルフォンス皇子は、シャルロットの気品と強さに見惚れていた。
料理が完成し、三人で食べ始める。
「こんな美味しい料理……生まれて初めてです。」
シャルロットの言葉に、ゴードンは顔を赤くした。
食事をしながら、シャルロットは自分がフラン共和国を捨ててきた理由を語った。
「国民が苦しむ国に、私はいたくありません。」
アルフォンスは真剣な眼差しで言った。
「なら……城に来て、騎士にならないか?給料は性別を問わず同じだし、寮もある。税金は一割で、食べ物も豊富だ。それに――ゴードンの料理を毎日食べられるぞ。」
シャルロットは目を見開いた。
「これを……毎日?」
「毎日だ!」
シャルロットは即決した。
「行きます。騎士になります。」
こうしてシャルロットはコトルー王国へ迎えられ、第一騎士団に所属した。
その才能はすぐに開花し、一年で第五騎士団長へ昇格した。
そして――
アレクシス皇太子は父に直談判し、「王ではなく治癒魔法師になりたい」と告げ、皇太子の座をアルフォンス皇子へ譲った。
城では、アルフォンスの皇太子就任パーティーが開かれた。
シャルロットはいつもの鎧ではなく、美しいドレス姿で現れた。
ゴードンは思わず見惚れた。
「……馬子にも衣裳っていうけど、本当だな……」
言った瞬間、後悔した。
(なんで……なんで“綺麗だ”って言えなかったんだ……)
パーティーのダンスで、アルフォンスはシャルロットを誘った。
「私と踊ってくださいませんか?」
二人のダンスは圧巻だった。美男美女が舞うように踊り、会場の誰もが見惚れた。
ゴードンも――胸が締め付けられるほど見惚れていた。
ダンスが終わると、アルフォンス皇太子は皆の前で言った。
「シャルロット。初めて会ったときからずっと愛しています。私と結婚していただけませんか?」
ゴードンは息を呑んだ。
(親友が幸せになることは嬉しい……でも……俺は……)
シャルロットは静かに微笑んだ。
「……私こそ、ふつつかものですが、よろしくお願いいたします」
会場は歓声に包まれた。
ゴードンは笑って祝福した。
「おめでとう、二人とも。」
その笑顔の裏で、自分の気持ちをそっと胸にしまい込んだ。
それでも――アルフォンスとシャルロットは、これからも親友だった。




