第2話 『天龍』
コトルー王国の空に、突如として影が落ちた。
「……あれは、天龍だ!」
城下の人々が一斉に空を見上げる。青い鱗をきらめかせながら、巨大な翼で空を切り裂く中型の天龍――。赤い大型種ほどではないが、それでも街を破壊し、人を捕食する脅威だ。
第一魔法師団長アルビスと、第二魔法師団長ユージンはすぐに動いた。
「ユージン、サーチを使うぞ!」「分かっている!」
二人の瞳が鋭く光り、天龍の弱点を探る。
「首だ!そこが弱い!」
「魔法師団、総攻撃!」
無数の魔法が空へ向かって放たれた。炎、雷、氷――色とりどりの魔法が天龍の体を撃ち抜く。
「落っちろぉぉぉッ!」アルビスとユージンも最大の魔力を込めて炎魔法を放つ。
「キエイャー!」天龍が悲鳴のような咆哮を上げ、ついに入江へ落下した。
海面が盛り上がり、巨大な水柱が上がる。
騎士団が船を出し、息絶えた天龍を海岸へ引き上げた。
その知らせを聞いた皇太子アレクシスと弟アルフォンス皇子は、興奮しながら駆けつけた。
「すごい……これが天龍か!」
騎士たちの歓声の中、アルフォンス皇子はつい調子に乗ってしまった。
「どうだ!」
地面についた青い天龍の頭を、足で踏みつけたのだ。
アレクシス皇太子もその隣で右腕を上げ、ポーズをとった。
「兄上、私も!」「おう!」
二人が勇ましいポーズを取っている――その瞬間だった。
ピクリ。
「……え?」
天龍の頭が動いた。
次の瞬間――
ガブッ!!
「ぐあああああッ!!」
天龍は最後の力を振り絞り、アルフォンスの右足に噛みついた。血が噴き出し、皇子は地面に倒れ込む。
「アルフォンス皇子!!」
アルビスとユージンが即座に炎魔法を放ち、弱点の首を撃ち抜いて両断した。今度こそ天龍は完全に絶命した。
しかし――
アルフォンスの右足は、膝の下から嚙切られて、既に失われていた。
「治癒魔法師を呼べ!!」
城から治癒魔法師が駆けつける。たまたま休憩時間だったゴードンとモーガンも同行した。
「……残念ですが、皇子様。私の治癒魔法でも、右足を再生することはできません。」
アルフォンスは静かに目を閉じた。
「すべては……私の責任だ。傷口を、きれいに切り落としてくれ。」
治癒魔法師がうなずき、処置の準備を始める。
ゴードンは、父アルビスの険しい表情を見た。モーガンは、叔父ユージンの苦悩の顔を見た。
(このままじゃ……皇子が……)
ゴードンの胸に、強い思いが湧き上がった。
「先生……僕たちに治癒魔法を試させてもらえませんか?」
治癒魔法師は驚いた。
「……本気か?」
「はい。やらせてください。」
迷いながらも、治癒魔法師はうなずいた。
「……分かった。やってみろ。」
ゴードンとモーガンはアルフォンス皇子の右足に手をかざした。
「いくよ、モーガン」「ああ」
二人の魔力が流れ込む。
骨が――戻る。筋肉が――戻る。血管が――戻る。皮膚が――戻る。
少しずつ。本当に少しずつ。
右足が、完全に元通りになった。
「……!」
治癒魔法師は言葉を失った。アルビスもユージンも、騎士たちも、誰もが息を呑んだ。
ゴードンとモーガンは疲れ果てて座り込んだ。
「……治った?」「ああ……治ったみたいだ。」
騎士たちが歓声を上げる。
「すごいぞ!!」「皇子様の足が戻った!!」「双子の料理人がやったぞ!!」
アルフォンス皇子は、元通りになった右足を見つめ、深く頭を下げた。
「ありがとう。」
ゴードンは慌てて言った。
「皇子様、頭を上げてください!」
「いや……私は調子に乗っていた。敵であっても、最後まで敬意を払わなければならない。今日、そのことを教えてもらった。」
その日から――
アルフォンス皇子とゴードンは親友になった。
そして、アレクシス皇太子も心を決めた。
「私も……治癒魔法師になって国民を幸せにしたい。」
四人はともに治癒魔法を学び始めた。
それは、コトルー王国の未来を大きく変える第一歩だった。




