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第八章 裏切りの祝賀会

 三ツ葉グランドホテル。

ゲーム・ステーション成功祝賀会の会場は、三ツ葉グループらしく豪華絢爛だった。

巨大なシャンデリア。

一流ホテルの料理。

壇上の大型モニターにはゲーム・ステーションの映像が流れ続けている。

 会場には三ツ葉エレクトロニクス社員だけではなく、グループ各社の幹部や取引先関係者まで集まっていた。

まさに成功者たちの宴だった。

そんな中、水戸邦光は会場内で水野愛子の姿を探していた。

すると背後から聞き慣れた声がする。

「よう! 平社員!」

振り返ると、久松と蜂屋がニヤニヤしながら立っていた。

「なんだ? 高そうなスーツじゃないか」

久松が水戸の服装を眺める。

「親戚から借りてきたのか?」

「いえ、何年か前に作ったもので……」

水戸は曖昧に答える。

「オーダーメイドか?平社員が奮発したな!」

蜂屋が馬鹿にしたように笑った。

「はぁ……まぁ……」

水戸は適当に流す。

ブリオーニのフルオーダーなどと言っても、この二人には価値が分からないだろう。

「それより、水野課長見ませんでした?」

「水野課長なら、あそこにいるよ」

久松がグラスを持ったまま一方向を指差した。

水戸がそちらを見る。

会場の奥。

愛子が誰かと親しそうに話していた。

「あそこにいたのか……」

水戸は少し安心したように笑う。

だが、その笑顔は次の瞬間止まった。

「一緒にいるのは……PC事業部の今川部長……」

今川孝元。

三ツ葉エレクトロニクスPC事業部部長。

四十代前半。

将来の役員候補とも言われるエリートだった。

営業成績も優秀で、社内政治にも強い。

典型的な“出世する男”である。

愛子はそんな今川と、かなり親しげに話していた。

しかも距離が近い。

まるで恋人同士のように。

(……何だ?)

水戸は小さな違和感を覚える。

 その時だった。

会場の照明が少し落とされ、司会者の声が響いた。

「皆様、本日はお集まりいただき誠にありがとうございます!」

拍手が起こる。

「先ほど、榊原社長から連絡があり、所用により少々到着が遅れるとの事でした。会場時間の都合もございますので、先に始めるようにとの指示を頂いております」

会場内がざわつく。

社長不在のまま始まるのは異例だった。

「それでは、ゲーム・ステーション成功祝賀会を始めたいと思います!」

再び拍手。

「先ずは、渡辺本部長より辞令交付を行って頂きます。名前を呼ばれた方は壇上へお願い致します」

 会場内の空気が引き締まる。

「水野愛子課長、青山美樹主任、久松健司主任……」

次々と名前が呼ばれていく。

プロジェクトメンバーたちは順番に壇上へ上がった。

最後に水戸も呼ばれる。

壇上へ並ぶ面々。

会場からは羨望の視線が向けられていた。

ゲーム・ステーション成功組。

完全に社内の勝ち組だった。

「それでは渡辺本部長、お願い致します」

渡辺本部長が壇上へ上がる。

「水野愛子」

「はい」

愛子が一歩前へ出る。

「企画部課長、水野愛子。本日付けをもって、新設コンシューマ事業部次長を命ずる」

「ありがとうございます」

愛子は丁寧に辞令を受け取り、深々と頭を下げた。

会場から大きな拍手が起こる。

その後も辞令交付は続き、水戸にも主任昇進辞令が渡された。

そして全員への辞令交付が終わる。

 司会者が笑顔で言った。

「渡辺本部長、ありがとうございました!それでは代表して、プロジェクトリーダーである水野愛子次長、一言お願い致します!」

「はい」

愛子は静かにマイクの前へ立つ。

スポットライトが彼女を照らした。

美しい。

会場中の男たちが見惚れるほどだった。

「本日は、私たちのプロジェクト成功祝賀会にお集まりいただき、ありがとうございます」

会場が静まり返る。

「このプロジェクトの成功は、プロジェクトメンバーをはじめ、三ツ葉エレクトロニクス社員の皆様の協力があってこそのものです。この場を借りてお礼申し上げます」

拍手。

だが愛子は続けた。

「それから――」

少し頬を染める。

「私事で恐縮ではございますが、この度、私はプロジェクトを支え、成功に導いてくれた功労者と結婚する事になりました」

一瞬、会場が静まり返る。

そして次の瞬間。

「おおーっ!!」

歓声と拍手が巻き起こった。

水戸は驚きながらも、思わず笑みを浮かべる。

(愛子……!)

まさかこの場で発表するとは思っていなかった。

だが、悪い気はしない。

むしろ嬉しかった。

水戸は一歩前へ出ようとする。

しかし。

愛子の次の言葉が、その足を止めた。

「その相手は――この方です!」

愛子が手を伸ばす。

その先。

壇上へ上がってきた男を見た瞬間、水戸の思考は停止した。

「え……?」

ゆっくりと愛子の隣へ並んだのは――。

PC事業部部長、今川誠司だった。

「な……何で……?」

会場が歓声に包まれる。

だが、水戸の耳には何も入らなかった。

頭の中が真っ白になる。

愛子は、幸せそうに今川の腕へ手を回していた。

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