表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/17

第十二章 最後通告

「馬鹿につける薬は無いって言うけど、あんたの事ね」

愛子は完全に呆れた顔をしていた。

「無能な上に嘘つき。もう手の施しようが無いわ」

会場の空気も同じだった。

最初は笑っていた者たちも、今では半ば引いている。

だが、それでもなお水戸は平然としていた。

すると今川が溜息混じりに言う。

「ここで今、謝れば、俺たちも庇いようがある」

まるで情けを掛けてやっているような口調だった。

「だが、このままではグループ重役や、ご老公様本人が許さないだろう」

会場の人間たちも頷く。

“ご老公の名を騙った”。

それだけで普通なら即刻追放されてもおかしくない。

しかし水戸は逆に笑った。

「じゃあ、お前らにもチャンスをやろう」

その言葉に、周囲がざわつく。

「今、謝れば数々の不敬を軽罰で許してやる」

静かな声だった。

だが、その声には妙な威圧感があった。

「でも謝らないなら、クビだけじゃ済まないかもしれないぞ」

そう言って水戸は会場全体を見渡す。

一瞬、空気が凍る。

しかし次の瞬間。

「まだ言うの!?」

愛子が怒鳴った。

完全に苛立っている。

今川も呆れたように首を振る。

「もうどうしようもないな」

そしてポケットからスマートフォンを取り出した。

「俺の知り合いに、三ツ葉ホールディングスの課長がいる」

会場が少しざわつく。

「そいつですら、ご老公様にはお目にかかった事が無いそうだが、ご老公様の右腕である本多専務には面識があるそうだ」

今川は勝ち誇ったように笑った。

「そいつを通じて、本多専務へ事の経緯を話して処分してもらうしかないな」

その言葉を聞いても、水戸はまるで動じなかった。

むしろ面白そうに笑う。

「じゃあ、本多がどういう処分をするか見てやろうじゃないか」

その瞬間、久松が怒鳴った。

「本多専務を呼び捨てにするなんて失礼だぞ!!」

顔を真っ赤にしている。

「本当に自分がご老公様のつもりか!?」

だが水戸は答えない。

ただ静かにスマートフォンを取り出した。

そして短く命令する。

「本多。今から十分以内に、三ツ葉グランドホテルのパーティー会場へ来い」

それだけ言って通話を切る。

会場が静まり返った。

しかし今川はすぐに鼻で笑う。

「本多専務を呼び捨てにして、電話を掛けるフリまで始めたか」

その笑みは余裕を装っていたが、どこか引きつっている。

「いつまでその演技を続けるつもりだ?」

愛子も冷たい目を向ける。

「そうまでして何がしたいの?」

その視線には軽蔑しか無かった。

「最終的には結局、嘘がバレて恥をかくのは自分なのに。やっぱり無能ね」

すると久松が前へ出た。

「おい!」

挑発的な笑みを浮かべる。

「お前、自分の一言で俺たち全員の進退を決められるって言ったよな?」

「言ったな」

「それなら――」

久松は両手を広げる。

「俺をクビにでもして証明してみろよ!」

会場から失笑が漏れる。

だが水戸は即答した。

「いいだろう」

その声は静かだった。

だが、あまりにも迷いが無い。

水戸は再びスマートフォンを取り出す。

そして電話を掛けた。

『……はい、榊原です』

「榊原。本日付で、コンシューマ事業部課長になった久松健司をクビにしろ」

会場が凍り付く。

「五分以内にだ」

数秒の沈黙。

そして榊原が答えた。

『分かりました』

あまりにも即答だった。

会場がざわつく。

だが榊原は続ける。

『ところで、ご老公。横領犯が分かりました。犯人は――』

「……分かった」

水戸の目が僅かに細くなる。

そして通話を切った。

静寂。

会場にいる全員が、水戸を見ていた。

今までの“演技”とは何か違う。

そんな空気が流れ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ