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鋼鉄の舞姫 ~昭和レトロ活劇・埼玉よ、滅びることなかれ~  作者: YOI
第七章 もう一つの道(十月)
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襲撃

 浅倉達は、高崎に構える群馬支部……ではなく、前橋支部へと到着していた。

 前橋支部は牢獄と呼べるような施設、つまり妖鬼を生かしたまま閉じ込めて置ける建物だった。

 建物には結界が施されており、内部からの脱走はもとより、外部からの侵入も妨げる強固な建物だ。

 浅倉は、草津の後に続いて迷路のような通路を歩く。右へ左へとクネクネ曲がる通路は、まるでアリの巣の中を歩いているような感覚に落ちいる。

 歩くこと五分。ようやく目的の部屋へとたどり着いた。部屋は真っ白い正方形の形をしており、天井はおろか、床まで白く光っている。


「……ここはいったい?」


 浅倉はキョロキョロと部屋を見回す。テニスコート半面くらいの広さの部屋には机と椅子しか置かれておらず、唯一目線よりも少し高い位置にマジックミラーが設置されている。入って来た場所を除けば、出入口となりうる所は他にない。


「ここは妖魔専用の取調室や。結界も施されているさかい、逃げられる箇所はあらへん」

「なるほど……」


 浅倉が頷くと、草津は、網をほどき、ぬいぐるみサイズのベルゼビュートを机の上に乗せた。


「さて、ベルゼはん。色々と聞かせてもらいますさかい」

「……そういう約束だからな。好きにするがよい」


 ベルゼビュートは腕を組みながらあぐらをかく。その姿はまるでお座りわしたぬいぐるみの様で、控えめに見てもかわいい。


「まずは、珠について聞かせてもらいまひょう。あんさん、以前バンパイアから珠を奪ったと思うんやけど、その珠のありかについて話してもらおうかねぇ」


 草津は、椅子を引くとベルゼビュートと視線を合わせる様に座る。


「珠ねぇ……まず初めに断っておくが、あの珠はワラワがバンパイアから奪ったものでは無い」

「……というと?」

「バンパイアが何者かと相打ちになってな。その漁夫の利といったかんじで、珠は奪ったのじゃ」

「なるほどね。つまり落ちていた物を拾ったってことやな」

「そうじゃ」

「……で、その珠は、今どこにあるんや?」


 ベルゼビュートは、小さい頭を左右に振る。


「残念ながら、今どこあるのかは分からん。ちょうど三日前、ワラワの前にフルフェイスの変な仮面を被った男がやってきてな、そいつが奪って行ったからじゃ」

「男? 名はなんていうんや?」

「名前は……なんと云ったかのぉ。何とかって名乗っていたのは間違いないのじゃが……。あぁ、そうそうそのフルフェイスじゃが、真っ黒なオオカミの様なデザインをしたヘルメット。いや、仮面というべきデザインをしておったぞ」


 カツンッ!


 浅倉の足が一歩前に出る。


「ちょっとまって、ベルゼビュート。その仮面の男『王龍騎』って名乗ってなかったかしら?」

「そうそう。おぬし、良く知っているの。王と名乗っておったわ。で、仲間を強くするためだかで珠が必要なんだとかいって、ワシの懐から電光石火の一撃で奪われてしまったのじゃ」

「……あなた、戦っていないの?」

「戦うも何も、一瞬の出来事だったんでな。気が付いたら盗まれておったわ」

「なるほど。だから、今日は以前戦った時よりも弱かったんだな」


 草津は腕を組みながら納得をする。


「ところであーちゃん、その『王龍騎』って何者や? えらく強いようやけど……」


 浅倉は、弱弱しい表情を浮かべると、右手に作った拳を見つめる。


「王は、私たちの敵の親玉よ。いゃ、厳密にはナンバー・ツー的な位置かしらね」

「まてまて、ナンバー・ツーって、そんなゴッツ強いヤツの上に、更に強いヤツがおるのか?」

「そいう事になるわね」

「あーちゃんも、とんでもないヤツを敵に回したんやな」

「別に敵に回そうとして回した訳じゃ無いわ。勝手に敵になっただけよ」


 少し和んだ会話が流れる。だが、その会話を断ち切る様にパインが強い言葉を投げかけて二人に割って入る。


「ボス、つまり、パピーの珠は今、恐呼が持っているでごわすね」

「話の流れからすると、その可能性は高いわね」

「そうと分かれば、こんな所でグズグズなんてしていられないでゴワス。おいどんは、今すぐ汽車で埼玉にかえるでごわず」

「……あっ、はい。了解しました。気を付けて」

「達者でござる」

「……はい、達者でねぇ……」


 急な事でキョトンとする浅倉だが、そんな表所を見る事無くパインは慌てて前橋支部を出発した。


「にしても、中々面白いギャグを飛ばす男だったな。今度群馬支部に引き抜くか」

「やめて下さい。パインは埼玉のものです」

「悪かったよ。で、ベルゼはん、次の質問や」

「……なんじゃ」

「なんで、あんな人気のない場所に巣作っておったんや?」

「別に巣を作っていた訳でも無い。ただあそこはパワースポットなのでな。力を溜めていたんじゃよ」

「パワースポット?」


 浅倉が首を傾げる。


「そうよ。あそこは力がみなぎる場所なの。ワラワの傷を癒すために滞在していたのじゃが、そこのチカラ馬鹿がなぜか休息の邪魔をしてきてな」

「まっ、それは否定せいへんけど……、にしてもあそこは力が溜まる場所だったんやな。今度アタイも行って力でも溜めて来るかな」

「草津組長はそれ以上力を強くしてどうするんですか」


 伊香が会話に割って入る。


「それに、私達の力が強いのは、そういう理由では無いでしょうに」

「せやな」


 浅倉は変な会話に一瞬耳を傾けるも、さっくり打ち切られたことから余り気にしないことにした。



 ● ● ●



 取り調べは順調に終了した。ベルゼビュートはこのまま前橋支部に勾留される。

 浅倉達が外に出ると、日は完全に落ちており、昼食も食べずに夜まで取り調べをしていたことに気が付く。


「あ~ちゃん、今日はここに留まって行き。前橋支部には寝床もあるさかい」

「そうですね。今日はもう遅いですから、お邪魔させてもらいます」

「そうと決まれば、飲みに行くでぇぇええ!」

「いゃ、お酒は飲めないので……」

「何を云ってんや。お酒は飲むものやで、醤油を飲めって云っている訳じゃないんや」

「あっ、いや……」


 断る間もなく首に回された手は、浅倉を赤提灯街へと連行していった。



 ● ● ●



「おはようございます」


 浅倉は、寝ぼけ眼の顔をグジグジしながら厨房へと姿を現す。


「浅倉組長、おはようございます。昨晩はお楽しみでしたね」

「……伊香さん、その発言は誤解されそうなので、やめて下さい。ですが、草津組長とのお酒は楽しかったですよ。……三件目辺りから記憶がおぼろげですが……ハハハ」


 苦笑いを浮かべながら、頬をポリポリとかく。


「あの人、お酒強いですからね……。いずれにせよ、そろそろ朝食にしますので、顔でも洗って来て下さい」


 「ありがとう」と言葉を添えると、浅倉は洗面所へと向かった。

 朝食を食べ終えると、浅倉の目の前にはお茶の入った湯飲みがコトリと置かれる。


「ありが――」


 ピシャーーーン!


 浅倉の言葉をかき消して、ダイニングの引き戸が勢いよく開く。


「あーちゃん――ハアハア」


 肩で息をしている草津の目は鋭い。


「草津組長、どうしたのですか。そんなに慌てて」


 浅倉は、落ち着いて事態を確認しようと、わざとゆっくりと話す。


「聞いて驚くんや無いで……」

「ゴクリ」


 浅倉の喉が鳴る。


「埼玉にヒト型鹿鬼が現れた」

「ヒト型ですか」

「しかも二体や」


 タラリ。


 頬から汗が、顎先に滴り落ちる。


「二体も……で、場所は熊谷ですか?」


 そう、中山道の宿場町で未だに襲撃されていないのは、熊谷宿だけだ。そこは軍としても目を光らせており、そう易々とは侵入出来ないようになっていた。

 とはいえ二体もヒト型鹿鬼が出現しては押さえきれないだろう。


 浅倉が顎に手を当てながら思案しているのをよそに、草津は声を荒げる。


「ちゃう! 鹿鬼の出現場所は栗橋や!」


 浅倉の瞳孔が大きく開く。


「なっ、栗橋……ですって?」

「厳密には、幸手と栗橋や。幸手宿には鞭を持った女。そして、栗橋宿には多分ベルゼビュートから珠を奪った、仮面の男や!」

「なっ……王龍騎。ついにアノ男が前線に出てきたっていうの」


 浅倉は、両手をテーブルにつくと、肩を落とした。

 いゃぁ、何とか書ききりました。つらかった……。では、また来週。あっ、GWはお休みをいただきます。<(_ _)>

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